世界樹と巫女

第137話 4人の少年と逃げる少年

「そっちは任せました!」


「応! 合わせろよ、メガネ!」


「うん!」


「……ふっ!」


 見渡す限りに広がっている広い草原で、4人の少年たちが大きなネズミを囲み、戦っている。


 ネズミの名前は『デッドワズ』。


 レベル1の魔獣であり、『神財』を持った騎士が一人で戦う強さを持っている。


 そして、『神財』を持たない平民の場合、5人がかりで倒すことを推奨されている魔獣だ。


 その魔獣を、子供が4人で戦っている。


 彼らの戦い方に危なげなところはなく、むしろ『デッドワズ』を圧倒していた。


「いきますよ!」


 4人の中で一番気品を感じさせる金髪の少年が、『デッドワズ』のわき腹に長剣を突き刺す。


「うぉおおりゃ!」


 そうやって動きを止めた『デッドワズ』の顔面に、彼らの中で一番体格のいい茶色の髪の少年が斧を振り下ろした。


「……ちっ!!」


 しかし、少年の斧は『デッドワズ』の強靱な前歯によって防がれてしまう。


 そのまま、『デッドワズ』の前歯が、斧を持った少年の首に迫る。


「危ない!」


「ピギ!?」


『デッドワズ』の攻撃は斧を持った少年の首筋ギリギリのところをかすめていった。


 メガネをかけた緑色の髪の少年が放った矢が、『デッドワズ』の左目に刺さったからだ。


「よくやった、メガネ!」


「へへへ」


 斧を持った少年にほめられて、メガネの少年はうれしそうに笑顔を見せる。


「次こそ、トドメだ!」


 少年が斧を振り上げる。


「……もう終わっている」


 だが、その斧が振り下ろされることはなかった。


 片刃の剣を持った紺色の髪を一つに括っている少年が、『デッドワズ』の横で血糊を払っている。


 その動きに合わせるように、『デッドワズ』の首がゆっくりと地面に落ちた。


「またかよ、ネクラ野郎」


「……ふぅ」


 斧を思った少年が、片刃の剣を持った少年を睨む。


「落ち着きなよ。それにしても、4人で協力すれば『デッドワズ』程度なら楽に勝てるようになってきたね」


 金髪の少年が、首を切り落とされた『デッドワズ』を見て、満足げにつぶやく。


「そうですね。ここに来たばかりの頃は、皆傷だらけでしたから」


「ふん。そんな奴はお前くらいだろ、メガネ」


「そうでしたね。すみません」


 斧を持った少年に、メガネの少年が笑いながら謝る。


「……そういえば、アイツはどうした?」


「……ああ、彼か」


「あの人は……」


「……あっちだ」


 メガネの少年がキョロキョロと周囲を見回すと、片刃の剣を持った少年が、遠くを指さした。


 その方向から、声が聞こえる。


「助けてぇぇえええええええええええええええ!?」


 涙声の、少年の声が。


 彼は、助けを求めながら4人の少年の元に走ってきていた。


「またかよっ!」


 斧を持った少年が舌打ちをした。


「まったく、彼は……」


 長剣をもった少年が、不機嫌さをまったく隠さずに剣を抜く。


 そのとき、メガネの少年が声をあげた。


「待ってください! 『デッドワズ』が……2匹います!」


 涙声の少年の後ろには、大きなネズミが確かに2匹見える。


「なんだと!?」


 メガネの少年の言葉に、斧を持った少年と、長剣を持った少年が焦り始める。


「お、おいどうするんだよ。『デッドワズ』が2匹なんて……」


「落ち着け! いいか、とりあえず……その……」


「俺が一匹請け負う」


 その二人をよそに、片刃の剣を持った少年が前に出た。


「お、おい勝手に……」


「そうだ。だいたい、組長は私……」


「ひぇぇええええええええええ!?」


 もう、涙声の少年は間近に……つまり、『デッドワズ』はすぐそばに来ていた。


 そのことを確認して、長剣を持った少年はしぶしぶといった様子で斧を持った少年とメガネの少年に言う


「くっ……ああ、私たちでもう一匹の相手をしましょう。いきますよ!」


「……わかった」


「はい!」


 紺色の髪の少年のあとに彼らも続く。


「はぁっはぁっ! ごめんなさい、助けて……」


「……あとは任せろ」


 涙声の少年は力つきてその場に座った。


 彼の横を走り抜けて、紺色の髪の少年が片刃の剣を『デッドワズ』に振るう。


「うぉおおおおおお!」


 ほかの3人の少年たちも、もう一匹の『デッドワズ』に向かっていった。


 そんな、勇ましい彼らの戦いを見ながら、涙声の少年は声を出さずにつぶやいた。


『いやぁ……危なかった。強い仲間がいて助かったぜ。なぁ、マメ?』


『いや、だから自分で戦いたまえよ、主』


 涙声を出していた少年は……ビジイクレイトは、紺色の短い髪をかきあげながら、隣に浮かんでいる小さな本に微笑むのだった。



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