第136話【指定封印/閲覧不可】№03-07
「はぁ……はぁ……」
「そろそろ終わりにしましょうか」
「まだまだ、やりましょうよ」
「もう限界でしょう?」
ビジイクレイトの気遣いに、ヴァサマルーテは首を振る。
「イヤです……イヤだ」
「そんな我が儘は、私をここから動かしてから言ってもらいましょうか」
ビジイクレイトは自身が立っている場所を指さす。
そこは、岩で出来た橋の前。
ビジイクレイトは、戦いが始まってから移動していなかったのだ。
圧倒的な実力差を目の当たりにして、ヴァサマルーテはより笑みを強くする。
「わかりました……じゃあ、最後に一撃だけ」
ヴァサマルーテの提案に、ビジイクレイトは剣を構えて答えてくれる。
それが、とてもうれしい。
「『神火の鞘』」
ヴァサマルーテは自分の胸に手を当てて、鞘を取り出した。
『光湖の長剣』と対となる、『神財』の鞘。
その鞘に、ゆっくりと『光湖の長剣』を納めていく。
纏っている水と共に。
すると、水がバチバチと音を立てながら光り始める。
「……電気分解?」
水から音が出る理由をヴァサマルーテは知らなかったが、どうやらビジイクレイトは分かるようだ。
(このあと、お師匠様に聞いてみよう)
これから放つ技は、ヴァサマルーテも一度しか撃ったことがない。
それだけ危険であり、強力な技なのだ。
しかし、きっと、ビジイクレイトは何事もなく受けるだろう。
「『雷光神火』」
鞘から剣を引き抜くと、纏った水が爆発しながら雷を生みだし、進んでいく。
轟音。
轟雷。
業火。
発生した強力な爆発は、頑丈そうな岩の橋さえも粉々に砕いてしまう。
その爆発で発生した音と衝撃で、周りにいた下位の貴族の子供たちの大半は気絶してしまった。
もちろん、カッステアクやカッマギクも泡を吹いて倒れている。
アインハードも片膝をつき、撃った張本人であるヴァサマルーテも、両膝をつき、剣を杖にしてなんとか上体を起こしている有様だ。
だが……やはりと言うべきか、その爆発が直撃したはずのビジイクレイトは、爆発の炎と雷、粉塵が舞う中で平然と立っている。
ヴァサマルーテの『雷光神火』に賞賛さえ送っているように見えるほどだ。
(やっぱり……お師匠様は、お師匠様……だ)
悔しさなど、ないと言えば嘘になる。
しかし、それよりもうれしかった。
二年間、会えていない間に、ビジイクレイトはさらに強くなっていた。
『聖剣士』だともてはやされていたヴァサマルーテよりも、遙かに。
このうれしさを伝えたくて、ヴァサマルーテは立ち上がる。
ビジイクレイトを抱きしめたくてしょうがなかった。
だが、ビジイクレイトはヴァサマルーテに一度だけ手を振ると、そのまま駆けだした。
ヴァサマルーテと逆側に。
川に、向かって。
「……あ」
ビジイクレイトのその動きに気づいたときには、彼はもう川に飛び込んでいた。
真夜中の川に。
真冬の川に。
すぐ近くには滝が流れる、流れの強い川に。
慌ててビジイクレイトが落ちた川に向かったが、ビジイクレイトの姿はそこにはなかった。
「……それから朝までお師匠様を捜したのだけど、見つからなくって、でも、お師匠様は泳ぐのもきっと上手だから、今頃は元気に戦っていると思うの。もしかしたら、『デッドリー・ボア』とか、強い魔獣を倒しているかも。だから、私もお師匠様と再会したら戦いたいな、って。あれから私も修行して、強くなっているから、もっと沢山遊んでもらって……」
ぺらぺらと話しているヴァサマルーテをよそに、アインハードとブラウは、部屋に招き入れた『猫の隠れ家』の従業員であるカッツァという女性から話を聞いていた。
ブラウは、ビジイクレイトの写し絵をカッツァに見せている。
「こちらの少年が、ツウフの町のあとに、ノーマンライズに滞在していたのですね」
「はい、そこで中央へ向かう魔聖船の乗ったのが、我々が知るビィー・ジイク様の最後の足取りです」
「すまないな。客の情報を渡すようなことをお願いして」
アインハードの謝罪に対して、カッツァは笑顔で答える。
「いえ、今やこのシピエイルにおいて知らぬ者はなしの『聖剣士』様にお願いされたのです。しかも友人を助けるためと聞けば、喜んで協力いたします……あ、でも普通はしておりませんよ?今回だけ、特別に、でございます」
にこりと微笑むカッツァにアインハードも笑顔を返したあと、隣にいるブラウに目を向ける。
「しかし中央行きの魔聖船か。10日も前だと、情報を得るのは難しいか?」
「そうですね。子供一人での乗船は珍しいでしょうが、中央に向かったとなれば、さすがに数が……」
「あれ? いつの間にか仲良くなっている?」
ブラウとアインハードの間にヴァサマルーテが挟まる。
「仲がいいのは良いことだよね」
「おまえが変なことを……いや、誤解を招くようなことを言わなければ、元々は同じ目的を持った者同士、協力出来ていたんだ」
分かってなさそうな顔をしているヴァサマルーテから、アインハードは目をそらした。
「ふーん。よく分からないけど、じゃあ、ブラウとは友達になれるってことでいい?」
ヴァサマルーテはにこにことしているが、ブラウは無表情で淡々と答える。
「いえ、私はビジイクレイト様にお仕えする身ですので、ヴァサマルーテ様とは友人になれません」
「えー。まぁ、そうか。友人は無理か。でも、仲良くはしようね」
「仲良くも無理ですね」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。ブラウに淹れてもらうお茶は美味しいんだろうな」
「なぜ、私がヴァサマルーテ様にお茶を?」
「え?私がお師匠様……ビジイクレイト様と結婚したら、ブラウが給仕をすることもあるでしょう?」
「結婚?」
表面上は見せていなかった敵意が、ブラウから零れ出てくる。
「あれ?」
「おい、ヴァサマルーテ!」
アインハードが止めるが、もう遅い。
ブラウの目が完全に敵対している。
「誰が、誰と結婚をする、と?」
「さっき話していたと思うけど……私の婚約者は、お師匠様……ビジイクレイト様だから」
「それは、許可は得ているのでしょうか? ビジイクレイト様はもちろん、キーフェ・アイギンマンの許可はあるのでしょうか?」
ブラウの指摘に、ヴァサマルーテはアインハードをみる。
「いや、まだだ。その話をするためにも、我々はビジイクレイト様を捜している」
「え、そうなの?」
「そうだ。というか、ヴァサマルーテは求婚できていなかっただろ」
アインハードは頭を抱える。
「そっか……じゃあ、急いでお師匠様を捜して結婚しないと!」
ヴァサマルーテはぴょんと跳ねて闘志を燃やすかのように目を輝かせる。
「……すまんな」
「いえ、なんか怒るのもバカらしくなってきますね」
ふぅとブラウと呆れを隠さずに息を吐く。
「あのー」
やりとりを見ていたカッツァは、居心地が悪そうに二人に話しかける。
「……ああ、そちらもすまないな。見苦しいところを見せた。それと、情報を聞いておいてなんだが、ここでの話は聞かなかったことにしてほしい。特に、さきほどのやりとりは……」
「心得ております。他言はいたしません。それよりも、どうやら別の貴族の方が来られたようですが、お知り合いですか?」
そう言いながら、カッツァは扉を少し開ける。
彼らが借りていた部屋は、密談が出来るように遮音性が高い部屋だった。
そのため中の声が外に聞こえないが、同時に外の音も届きにくい。
だから、カッツァが扉を開けたことで、外の音がアインハード達にも聞こえてきた。
「ここがあの『ケモノ』が泊まっていた宿屋か、貧相な場所だな」
「しかし、働いている者の見目は良いですよ。暇つぶしにはなるかもしれません」
ゲスで大きな声だ。
その声の主が誰か、アインハードとブラウはすぐに察する。
「カッステアク……様、たちか。そういえば、この町に来ているのだったな」
「……誰?」
相変わらず、カッステアク達のことをヴァサマルーテは覚えていない。
「遭遇しないように、ここを出ましょう」
「そうだな。しかし、この宿はそんなに広くない。どうするか……」
悩んでいるアインハードに、ブラウは自分の『神財』を見せる。
「私の『神財』は姿を消せます。これを使いましょう」
「……いいのか?」
「はい。お二人は……ヴァサマルーテ様と、アインハード様は、ビジイクレイト様の味方、なのですよね?」
ブラウの確認に、一番元気よく答えたのはヴァサマルーテだった。
「もちろん! 私は、いつでもお師匠様の味方だよ!」
その偽りのない笑顔に、ブラウは少しだけ表情を和らげる。
「そうですか」
しかし、ヴァサマルーテの返事は、別の者にその存在を気づかせてしまう。
「……んん? なんだ、今のかわいらしい声は。誰かいるのか、まるで、『我が愛しの剣』のようであったが……」
「マズい。声を聞かれた」
「皆様、こちらへ。従業員が使う裏口をご案内いたします」
部屋までやってきそうなカッステアクたちから逃げるように、ヴァサマルーテ達は『猫の隠れ家』から脱出する。
その後、ブラウはビジイクレイトの足取りを追うためにノーマンライズへ向かい、ヴァサマルーテ達は王族からの依頼もあるため、直接中央へ向かった。
しかし、彼らは知らない。
ビジイクレイトは、中央ではなく、別の場所にいることを。
『闇の隠者』の庇護下にいることを。
「……『聖剣士』はビジイクレイトに夢中……良い情報が手には入った。『闇の隠者』にご報告しないと」
その『闇の隠者』の部下と話していたことを、知らなかった。
「というわけで、№01と№03はいったん終わりだよ」
「こうやって読むと、あの子まぁまぁ強いわよね」
「だろう?それなのにネズミやらイノシシ相手に逃げ回って……」
「まぁ、隠すと決めているからしょうがないわ。それよりマメちゃん、アレをしないと」
「アレとはなんだい?」
「もう、決まっているじゃない。お願いよ、お願い」
「またするのかい!? もういいだろう!」
「ダメよ。いい? 読者の方は、しつこいくらいお願いしないと応援してくれないの。有名な動画配信者も最後は毎回お願いしているでしょう?高評価とかフォローとか」
「そうだけどねぇ……」
「いいから、するのよ。せーの!」
「う……えっと……『この小説が面白いと思った方は、↓かりゃ……から、応援と+フォロー、★で称えていただけるとうれしいです。てへっ♡』」
「はい、ダメー。噛んだ」
「そこら辺はどうにかしたまえよ! 急に言われたらしょうがないだろう!」
「せっかくだし、台詞もちょっと変えましょうか。前のだと足りない点もあったし」
「もう、やめないかな、この茶番劇……えっと」
『この小説が面白いと思った方は、↓から応援お願いします♪ あと、+フォローとレビューで称えていただけると★1つでもうれしいです。えへへ♡♡♡』
「……ちなみに、次回から主が書く内容に戻るから、こんな茶番劇はないので安心してくれたまえ」
「あ、最後じゃないからもう一度言わないと……」
「もういいだろう!」
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