第135話【指定封印/閲覧不可】№03-06
「あ……はははっははは!」
あまりの興奮で笑ってしまいながら、ヴァサマルーテはビジイクレイトに向かっていく。
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一瞬のうちに振るったヴァサマルーテの三連撃を、ビジイクレイトは難なく受け流す。
(すごい! すごい! すごい!!!)
ヴァサマルーテの興奮は収まらない。
それはそうだろう。
当たり前だろう。
(この剣、『ウーツ』は、『魔聖具』の剣! 岩石さえ、果物を切るように切断する! それを! それを……!)
ヴァサマルーテの剣と、ビジイクレイトの剣がぶつかる。
鍔迫り合いだ。
それが、素晴らしい。
あり得ない。
これは、奇跡だ。
なぜなら、ビジイクレイトが持っているのは模擬戦で使う剣。
刃が付いていない……どころではない。
そもそも、金属でさえない木製の剣なのだ。
(木剣で、『魔聖具』の剣を受けている? 何これ、スゴい、スゴすぎるよ、師匠!!)
もう、ヴァサマルーテの興奮は止まらない。
「はぁはぁ……あは、あっはははははは!」
ヴァサマルーテはビジイクレイトの腹を蹴ろうとした。
しかし、それさえもビジイクレイトは持っていた盾で簡単に受け流してしまう。
「っと」
体勢を崩したヴァサマルーテは、後ろに飛んでビジイクレイトと距離をとる。
(『魔聖具』の剣でも戦える……なら、これなら?)
ヴァサマルーテは持っていた『魔聖具』の剣を鞘にしまうと、胸に手を当てた。
「おい! やめろ! ヴァサマルーテ!」
アインハードの声など届かない。
ただ興味があるのはビジイクレイトのこと。
ビジイクレイトの、強さの限界。
「『光湖の長剣』」
ヴァサマルーテの手に、光輝く剣が現れる。
国中の貴族が憧れ、畏怖する聖なる剣。
未来の伝説。
『聖財』だ。
その剣を見ても、ビジイクレイトの表情に変化はない。
先ほどの『魔聖具』の剣を見たときと同様だ。
「はぁっ!」
『光湖の長剣』をヴァサマルーテは振るう。
剣の軌道はそのまま光の刃となって、ビジイクレイトへ襲いかかった。
しかし、それさえもビジイクレイトは完璧に予期していたのだろう。
ほんの少し、必要最低限の動きだけで光の刃を避けてしまった。
平然としているビジイクレイトの後ろで、岩で出来た橋の欄干が切れて落ちていく。
「これだけ、ではないでしょう?」
『聖財』の武器の一撃をつまらなそうに見て、ビジイクレイトは言う。
「……はい、お師匠様」
一般的に知られる……ヴァサマルーテがお披露目をするときに見せる『光湖の長剣』の能力では、ビジイクレイトを満足させることが出来ないと知ったヴァサマルーテは、切り札とも言えるもう一つの能力を解放する。
(『光湖の長剣』の第二の能力!)
『光湖の長剣』に、水が纏っていく。
王族さえも知らない、『光湖の長剣』の隠された力。
鋭さに重さを乗せる、破壊の技。
「うん……面白そうですね」
一目見ただけで、おそらくはこの能力の効果を見抜いたのだろう。
ビジイクレイトは少しだけ興味深そうにしながら手招きをする。
「やぁあああああああああ!」
ヴァサマルーテは全力で、ビジイクレイトに向かっていった。
ヴァサマルーテが第二の能力で『光湖の長剣』を振るった経験は、そこまで多くない。
威力が過剰すぎて、危険だからだ。
どんなに手加減しても、大木だろうが、大岩だろうが斬ってしまうのだ。
鉄鉱石の固まりでさえ、この『光湖の長剣』は切断してしまう。
一度だけ、ノールィンの騎士が総出で倒したレベル5の魔獣『デッドリー・ボア』の死体にこの第二の能力を試したのだが、巨大な魔獣の体さえも易々と切り落としたのである。
驚異的な威力だ。
『聖財』の武器にふさわしい能力である。
「……まぁまぁ、ですね」
その、『光湖の長剣』の刃が間近に迫っているのに、ビジイクレイトは平然とその武器を評している。
しかし、その余裕も当然ではあった。
ビジイクレイトは、刃を受け止めているのだ。
『聖財』。
『聖剣・光湖の長剣』を、何の変哲もない木製の剣で。
「……それ、どうやってやるんですか?」
あまりにもあり得ない光景に、ヴァサマルーテはつい聞いてしまった。
ヴァサマルーテは両手で力を込めているのに、片手で受けているビジイクレイトに対して、これ以上刃を進めることが出来る気がしていない。
ビジイクレイトが持っている木剣を斬るなど、不可能だと断定出来る。
『聖財』である聖剣を用いているのに、だ。
そんな奇跡を、ビジイクレイトは当たり前のように言う。
「別に……力の入れ方ですよ。剣を振るのに大切なのは腰。教えたことがあると思いますが?」
「そうですか……そうなんですか?」
いくらなんでもあり得ない解説に、ヴァサマルーテは笑ってしまう。
「腰の力の入れ方で……木剣が頑丈に?」
「そうですね」
そのまま、剣を受け流されて、数度打ち合いをしたあとにヴァサマルーテはその場を離れた。
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