第130話【指定封印/閲覧不可】№03-01

◇調査対象:ヴァサマルーテ



「……このような場所でお会いするとは思いませんでした」


 青い髪の少女が頭を下げている。


 その少女に頭を下げられている水色の髪と金色の髪の少女、『聖剣士』ヴァサマルーテは、彼女のことを興味深そうに見ていた。


「アナタ、知っている。お師匠様の近くにいた従者よね?名前は……」


「ブラウと申します」


 青い髪の少女が名乗る。


「そう、ブラウ。ブラウは、なんで私に敵意を向けているの?」


 ヴァサマルーテは、楽しそうに……本当に心の底から楽しいと思っているのだが、楽しそうに、無邪気にブラウに聞いた。


「おい、ヴァサマルーテ」


 ヴァサマルーテの質問を、彼女の叔父であるアインハードが手をたたいて止める。


「どうしたの、叔父様?」


「感じたことをそのまま相手に伝えるなといっただろう。特に、敵意、悪意はまずは私に教えろ、と」


「ああ、そうでした」


 ヴァサマルーテは、アインハードに注意されていたことを思い出し、ポンと手を打った。


 一方、アインハードはブラウに険しい目を向ける。


「……ビジイクレイト様の従者が敵意……か。話を聞かせてもらってもかまわないか?」


「……かしこまりました」


 騎士であるアインハードが、警戒して睨みつければ、普通の婦女子ならば、怯え、泣いても不思議ではない。


 しかし、そんなアインハードの眼光を受けても、ブラウの態度に変わりはなかった。


(……さすがはビジイクレイト様に仕える者……いや、東の子供達。アイギンマンの従者というわけか)


 ブラウの動向に警戒しながら、彼らは『猫の隠れ家』にて部屋を借り、そこで話をすることにした。


「……なるほど、カッステアク……様達と共に、ビジイクレイト様の捜索に来た、と」


「はい」


 ブラウとアインハードは、まずはお互いの状況について話し合った。


「お二人も、ビジイクレイト様を探しにこちらに?」


「ああ、我々もビジイクレイト様の情報を集めていたのでな」


 ちなみに、ヴァサマルーテは会話に入らずに興味深そうに部屋をウロウロしている。


 まるで猫のようだ。


「なぜ……ノールィンのお二人が、ビジイクレイト様を捜しているのですか?」


 ブラウの質問に、ヴァサマルーテが平然と答える。


「お師匠様と戦うため」


「そうですか」


 ヴァサマルーテの答えはブラウの闘志に簡単に火をつけた。


「おい、ヴァサマルーテ!」


 急に会話に参加したかと思えば、爆弾を落としたヴァサマルーテに、アインハードは頭を抱える。


「ビジイクレイト様は、ヴァサマルーテ様と戦ったことで川に落ち、消息不明となりました……同じことを繰り返す、と?」


 この言葉で、ブラウが持っていた敵意の原因が判明した。


(敵意の正体はこれか。まぁ、当たり前だよな、ビジイクレイト様が失踪した原因が目の前にいるんだ。だが、誤解が……ある、か? いや、誤解といえば誤解なんだが……)


 端的に自分の欲求のみを話したヴァサマルーテの言葉に偽りはない。


 しかし、誤解はある。


 その説明をしようと思いながら、アインハードはブラウの戦力を試算する。


(強いな。負けはしないが……取り押さえるのは難しそうだ。ち、面倒な。これが東の子供達か……)


 ブラウと戦闘になった場合を想定し、完全に有利な状況にするのは難しいアインハードは判断した。


(とにかく、これ以上話をややこしくしないためには……)


 ブラウを警戒しながら、アインハードはこの状況を作り出したヴァサマルーテに近づこうとした。


 その間に、ヴァサマルーテが口を開く。


「失踪の原因? 何を言っているの?」


「おい、ちょっと黙って……」


 ブラウがとうとう立ち上がった。


 まだ武器を手にしていないが、いつ爆発してもおかしくないだろう。


 ブラウは行動に移していないのは、一応ヴァサマルーテ達が貴族であり、立場が上だからだ。


 だが、ブラウの態度から考えても立場が上だからと怯むような根性はしていない。


 それに、家の格でいえばアイギンマンの方がノールィンよりも上位である。


 主を侮辱された、という理由を付ければブラウは動けなくもないのだ。


 こちらに非があり、ブラウが怒る理由もよく分かるアインハードは、正直彼女と争うつもりはない。


 利益がないだけではなく、不利益しか生まない争いだからだ。


 だから、どうにかブラウをなだめようとアインハードはしているのだが、ヴァサマルーテの口が滑らかに動く。


「さすがお師匠様の従者……アナタも面白そう」


「はぁ?」


 ヴァサマルーテは目をキラキラとさせているが、面白そうと言われたブラウの目は細く鋭くなっている。


 上位の立場の者に向ける目では、決してない。


(ああああ! なんで今日はそんなにしゃべるんだ! 普段はしゃべらないだろう、ヴァサマルーテ!)


 いつも無口なヴァサマルーテが、今日はよくしゃべる。


 上機嫌なのだろう。


 それだけ、ブラウのことを面白いと……強者と判定しているのだ。

 

「でも……だからこそ不思議なのだけど、どうしてお師匠様を見失ったの?」


「それは、おま……ヴァサマルーテ様がビジイクレイト様を川に落として……!」


「私が、川に落とした?」


 ヴァサマルーテが再び不思議そうに傾げる。


「ええ、『神財』をつかってビジイクレイト様を爆風で川に落としましたよね?」


「違うよ」


「え?」


 ヴァサマルーテの否定の言葉に、ブラウが眉を寄せる。


「お師匠様は、私に落とされたわけじゃない」




 ヴァサマルーテは、あの日のことを思い返した。

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