第120話【指定封印/閲覧不可】№07-02


「おい。あんまり動くなよ。御者は俺たちのことを知らないんだ。こうやって小声で話すくらいはバレないだろうが、荷物を落として派手な音が出たら確認しに来るかもしれないからな」


 今、イライアたちが乗っている馬車の荷台は、荷物を運ぶ専門の馬車のモノだ。


 町の間にある舗装された専用の道路に、馬車の車輪がかみ合うように線路が用意されており、トロッコのように複数の荷台を連結することで、大量の荷物を運べるように出来ている。


 イライアたちは、その連結している荷台の最後尾に潜んでいるので、普通ならば走っている間に御者に気づかれることはない。


 しかし、異常事態があれば、さすがに荷物を確認しにくるだろう。


 注意するアライアスに、イライアは軽く答える。


「わかっているって。でも、この荷物、どっかの貴族への献上品なんでしょう? だったら、少しくらいもらっても大丈夫じゃない?。ほら、この宝石とか」


 当たり前のように物品を盗もうとしているイライアに、アライアスはあきれたように返す。


「バカ、そんな目立つモノ盗んだら、足がつくだろうが」


「えー大丈夫じゃない?これくらい。派手だから良い金になると思うんだよね」


「ダメだ。どっちにしても、売れないぞ? そんな目立つ宝石。それとも、そんな石ころを身につけたいのか?」


 アライアスの言葉を聞いてイライアは宝石を元の場所に戻す。


 金にできない宝石などに、イライアは興味がなかった。


「はぁ、つまんない。せっかくいろいろなモノがあるのに……」


「もう、物取りなんてしなくてもいいだろ? 俺たち。あのころとは違うんだからな」


「それはそれ。人のモノを食べるのが、おいしいでしょ?」


 言葉の内容とは裏腹に、とても無邪気な笑顔のイライアに、アライアスは微笑む。


「そうだな」


 そして、アライアスも一緒になって荷物を物色しはじめた。


「あれ、いいの?」


「宝石とか目立つものじゃなければ大丈夫だろ。それこそ、食べ物とかな。痛んでもいいように、余分に用意しているはずだから、それをいただけばバレないだろう」


「なるほど。じゃあ、このワインとか?」


「ここで飲む気か? というか、そういうのは本数が数えられているだろ。普通に食べ物だよ。たとえば、このハムとかな」


 アライアスは、箱の中にあったハムの固まりを一つ取り出すと、かぶりついた。


「……良い肉使っているな。魔獣のか?火であぶったら最高なんだろうな」


「あ、いいな。それちょうだい」


「ほら。たくさんあるからバレないぞ」


「ありがと」


 イライアはハムを受け取ると、そのままかぶりつく。


「うまいだろ?」


「おいしいけど……うーん。なんか、どっかで食べたことがあるような気がする」


 イライアは、ハムを咀嚼しながら、もぐもぐと考える。


「こんな良い肉、喰ったことがあるか?」


「うーん。そうだ、思い出した」


 ポンとイライアは手を打った。


「最初の挨拶のときに、出された食事だ」


「最初の挨拶?」


「ほら、あの雑魚親子の所に拾われたとき」


「あー、あのときか」


 アライアスは、イライアが言っている時がいつか思い出した。 


 スプーニアに、サロタープを紹介されたとき、歓迎会が開かれたのだ。


 そのときに、豪華な食事が振る舞われたはずである。


「よく、あんな昔のこと覚えているな。俺は、おいしいモノを食ったことした覚えてないぞ?」


「記憶力には自信があるからね」


 ふふんと、イライアは自慢げに口角をあげる。


「しかし、こんな肉を食わせていたんだな。バカな奴ら。自分たちが食い物にされるってのに」


 アライアスは、ハムを食いちぎる。


「なんだっけ? スー……なんとか、と、サボ……」


「ちょっと、もう忘れたの?」


 すでに自分の主であった者たちの名前を忘れているアライアスを、イライアは笑う。


「しっかりしてよ。向こうに戻ったら、一応主を心配しているフリをしないといけないんだから」


「そうだけど……じゃあ、イライアは覚えているのかよ」


「当たり前でしょう? スープニルと、サボリープよ」


イライアの答えに、アライアスはポンと手を打つ。


「ああ、そうだ。スープニルとサボリープだ。バカそうな名前だよな」


「本当にね」


 二人は、小さな声で笑い合う。


 揺れる荷台の音で聞こえはしないだろうが、一応警戒はしているのである。


「なんか、ハムだけだと喉が乾くわね」


 ハムを半分程度食べ終えたところで、イライアは喉の乾きを覚えた。


「ワインは飲むなよ」


「わかっているわよ。えーっと、果物とかないかしら」


「ああ、だったらこっちの箱にあったな」


 アライアスは近くの箱をあけると、中をごそごそと漁る。


「んー……マンダリーナか、ジトーラのはちみつ漬けか……ん? なんだこれ」


 アライアスは、一つの果物をとりだした。


 真っ赤でつやつやと光っている。


「アプフェルか? こんなに赤いのは珍しいな」


「わぁ、それ美味しそう。それちょうだい」


 アライアスが見つけた赤い果物を見て、イライアは目を輝かせた。


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