第118話 『最奥の主』 8

 最後の力を、振り絞っているのだろうか。


『ヴァイス・ベアライツ』の爪が光り輝き、巨大な光の刃に変わる。


「キャアッ!?」


『ヴァイス・ベアライツ』が腕を振ると、光の刃が放たれた。


 おそらく、もう、目が見えていないのだろう。


 光の刃は、ビジイクレイトたちがいる場所とは全然違う所に飛んでいったが、それで彼らの安全が保障されているかというと、全く違う。


 飛んでいった光の刃は、転がっていた『デッドリーボア』の死体を容易く切り裂き、周囲の壁にも深い切り傷を残していた。


 あの刃が、もしもビジイクレイトたちに直撃したら、間違いなく即死である。


「ヒュー!ヒュー!」


 空気を漏らしながら、『ヴァイス・ベアライツ』は腕を振る。


 めちゃくちゃに、でたらめに。


 文字通り、その生涯を爪痕として残しているかのように、光の刃は周りの壁を切り裂いていく。


『このままでは、死んでしまうよ? 主。どうにかしないと……主?』


 マメの声は、ビジイクレイトに届いていない。


『ヴァイス・ベアライツ』の断末魔ともいえる暴走を見て、ビジイクレイトはある思いに捕らわれていたからだ。


 それは、生き物の、その生にしがみつくありように対する哀れみ……などではない。


 命が失われる悲しみではない。


 光の刃で殺されるかもしれない恐怖などでは、もちろんない。


 ただ、思うことは一つ。


「子供を見捨てた奴らを動かして、罠を仕掛けて、大爆発でダメージを与えて……」


 ビジイクレイトは、胸に手を当てる。


「それで死なないのは、まぁ許す。でも、そのあとにジスプレッサが覚醒?みたいなことまでしたのによぉ……」


 そして、2枚の板を操作した。


 選んだのは、とある武器。


 流れるように、その武器をPVを消費して購入する。


「しぶとく生きているんじゃねーよ! いろいろ台無しだろうが、この熊が!!!!!」


 ビジイクレイトは、購入した武器を『ヴァイス・ベアライツ』に向かって投げた。


 ビジイクレイトが購入したのは、『金太郎の鉞』。


 おそらくは、もっとも有名な熊を使役する少年が持つ『鉞』は、雷を表しているともいわれている。


 その、『金太郎の鉞』は『ヴァイス・ベアライツ』を容易く両断した。


 同時に、強烈な雷が体を焼き尽くしていく。


「っっっっっっっっっっっっつう!?」


 断末魔の咆哮をあげるまもなく、『ヴァイス・ベアライツ』の体は炭化した。


 体内まで真っ黒に焼き尽くされた『ヴァイス・ベアライツ』の体をみて、マメは言う。


『やったか!? なんて言う必要がないくらいに完全に殺したねぇ。しかし、よかったのかい? これで主が『貴族』だとバレてしまったよ?彼女たちに』


 あまりにしつこく生きていた『ヴァイス・ベアライツ』に我を忘れて行動してしまったビジイクレイトは、ゆっくりと振り返る。


 すると、どう考えても『神財』を使ったビジイクレイトを見て、サロタープとジスプレッサは目を瞬かせていた。

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