第103話【指定封印/閲覧不可】№06-05

「……これから、どうするつもりなのですの?」


「え、聞いていなかったの? それとも、聞いても意味がわからなかったとか? これだから箱入りのお嬢様は。食べるっていったのは、本当に食べるって意味じゃないの。わかる?利用するってこと。で、好色家の変態ジジイに売られて、性……」


「そうではなくて、貴方達のことですわ!!」


 サロタープが何を言っているのかわからなくて、アライアスとイライアは目を合わせる。


「売ろうが殺そうが、私がバーケットに戻らないなら、その護衛としてついてきた貴方達も当然罪に問われます。それはわかるでしょう?」


「ああ、そういうこと……」


 イライアはあきれたように首を振る。


 そして、アライアスは身を屈めて、地面に転がっていた石を握っていた。


「がっ!?」


 アライアスは、拾った石をサロタープの頭にぶつける。


「おい!」


「黙ってろ、平民」


 スカッテンの抗議を、アライアスはさらに大きな苛立ちがこもった声で止めた。


「身の程も知らない雑魚が、調子に乗るなよ?どの立場で俺たちの心配をしているんだ? なぁ?」


 もう一度アライアスが投げた石は、サロタープの周りを囲んでいる刃にあたり、逸れた。


「ちっ!」


「……もういいだろ。あの『魔聖石』を持ち帰るんだろ? 取ってきたらどうだ?」


「なんだ? おまえも調子に乗るなよ? 俺たちは……」


「雇い主様、だろ? 依頼内容は『ツウフの魔境』でサロタープ嬢を殺すこと。もっとも、その依頼内容は受けることができなかったけどな。おまえ達の金が足りなくて」


 アライアスもイライアも、顔を不機嫌そうに変える。


 しかし、スカッテンに言い返すことはできなかった。


 なぜなら、彼の言っていることは事実だからだ。


「で、今の依頼内容はサロタープ嬢を貴族に復帰できないようにすること……その依頼内容は守っているつもりだけどな?それとも、おまえ達に絶対服従って内容を付け加えるか? なら、追加報酬をもらわないとな」


 スカッテンに何も反論せずにアライアスは舌打ちをして、広場の中央にある『魔聖石』を取って戻ってくる。


「……さてと、見ろよこの『魔聖石』。雑魚のおまえじゃ手に入れることはできない立派な石だろ?」


 スカッテンに言い負かされた鬱憤をはらすように、アライアスは『ツウフの魔境』の奥地にあった『魔聖石』をサロタープに見せつける。


「これで作れる『神財』は、きっとすごいんだろな。雑魚のおまえが持っているようなゴミみたいな『神財』と違って」


「……まさか、貴方達、自分が貴族になるつもりなの?」


「は? そんなわけないだろ? これは、よりふさわしい人に渡すんだよ。俺たちが仕えるのにふさわしいお方にな!」


 アライアスは、高らかに笑う。


「……ふさわしい人? まさか……いや、そんなわけ、ない」


 サロタープは、アライアスが言っている人物を予想し、すぐに否定する。


 だが、その様子を見たイライアが、愉快なモノを見つけて喜ぶ。


「あー、もしかして、わかった? 自分がどんだけマヌケなのか、わかったのかしら。そう、当たり。きっっと、その予想は大当たり」


「違う! そんなわけありませんわ! そんな……」


「そう。私たちは、この『魔聖石』を、バーケット家の長男ショーンタプ様に捧げるの。忠誠と共に」


「違う! 嘘を言うな!」


 サロタープは声を上げた。

 

 イライアが言った名前は、サロタープが溺愛している腹違いの弟の名前だったからだ。


「私が、この『ツウフの魔境』に来たのは、ショーンタプに『魔聖石』を用意するためですわ! なのに、そんなわけが……」


「そんなわけがあるの。そんなこともわからないの? 雑魚お嬢様。あんた、自分が周りから、どう思われているのか知らないの?」


 イライアは、それは楽しそうに語る。


「あんたの『神財』って、ゴミでしょう? レベル1の『デッドワズ』を殺せないくらい、弱いゴミの『神財』。それを、あんたは満足げに使っているけどさ、普通は、その『神財』とは違う『神財』を求める。貴族なら、強い奴ならさ!」


 アライアスが、イライアに相づちをうった。


「そのとおり。だから、ショーンタプ様のご母堂であるサスケア様は、おまえが『魔聖石』をもう一度使い、新たに『神財』を得ようとしているのではないかと憂いたのだ。ショーンタプ様たちが使うはずの『魔聖石』を用いてな!」


「そんな、こと……」


「そんなことしない、なんてわかるわけないでしょう?2回目以降の『神財』は、大したモノはでないって常識、あんたみたいな何を考えているかわからない雑魚が知っているなんて、真っ当な貴族であるサスケア様が理解できるわけがないわ」


 アライアスが言っていることは、正論だ。


 なぜなら、過去、多くの貴族たちが行ってきたことだからだ。


 基本的に、十二神式は一度きりだ。


 しかし、『魔聖石』を賜った『神財』と共に再度『魔聖杯』に捧げれば、何度でも『神財』を賜ることができるのだ。


 もっとも、2回目以降の『神財』が、1回目の『神財』を越えることはないと言われている。


 だが、何事も例外はあるし、奇跡を信じる人の行動を止めることはできない。


 なので、毎年、少なくない数の貴族の子供達が、自分が賜った『神財』に納得できなくて、再度一二神式を行うのだ。


 ほかの親族が使うはずの『魔聖石』を奪ってまでも。


「……じゃあ、今回の件は……」


「もちろん、サスケア様はご存じだ。喜んでおられたよ。邪魔な娘を排除できるとな」


「ショーンタプ様も笑っていたよ。目障りな姉がいなくなるって」


 完全に、体から力が抜けたサロタープは、膝から崩れ落ちてその場に座った。


 サロタープの顔に浮かぶ絶望の表情を見て、アライアスもイライアも、心底うれしそうに高らかに笑う。


「アーハハハ! 最高だ! 『弱肉強食』弱い奴が惨めに落ちる様は、こんなに気持ちがいいのか!」


「はぁ……本当に、今まで我慢してこの雑魚に仕えていてよかった。やっと報われた気がするわ」


 いつまでも笑っている二人に、スカッテンは呆れながら言う。


「……いつまで、そうやっているつもりだ? いいから、そろそろ帰るぞ。帰り道も長いんだからな」


「ああ……そうだったな」


「そういえば、途中までこの雑魚と一緒にいないっといけないんだっけ?」


「奥地を抜けるまでな。そこからは別行動って契約だろ?」


 スカッテンの言葉に、アライアスとイライアは目を合わせる。


「そうだな、そういう契約だ」


「そうね……」


 そして、スカッテンに見えないように笑い合った。


「ほら、お嬢様も立てよ。落ち込んでいるのはわかるが、座ったままなら……」


 スカッテンが、サロタープを立たせようとしたときだ。


 白い固まりが、上から落ちてきた。


 大きな衝撃と、音に、その場にいた全員の視線が集まる。


 誰も、声を出せなかった。


 そこにいたのは、真っ白の、大きな獣だった。


 背丈は、『デッドリー・ボア』よりも一回りは大きい。


 二本の足で立っている、筋骨隆々の獣。


 爪は長く、一本一本がロングソードのようだ。


 白い獣をじっくりと視認したスカッテンが、ようやく口を開く。


「『ヴァイス・ベアライツ』……か? あの、レベル8の?」


 スカッテンの言葉を聞いて、その場にいた全員の血の気が引く。


『ヴァイス・ベアライツ』


 レベル8の白い熊のような魔獣。


 騎士8人分の強さがあると推定されている魔獣は、小さな領地ならば騎士団でさえも退治することは出来ないだろう。

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