第97話 『ツウフの魔境』の奥地 6
「あー……すまない。もしかして、あの嬢ちゃん危険な状態だったか? あんなすげぇ『魔聖具』を使っていたもんな」
様子を見ていた『白猪の長牙』の団長が、戻ってきたビジイクレイトに謝罪する。
「もう大丈夫ですので、気にしないでください。それで、あなたたちは『白猪の長牙』の人たちで間違いないでしょうか」
「ああ、そうだ。俺は、『白猪の長牙』の団長。ウェボアだ」
「僕はビィー。ジスプレッサ様に雇われています」
偽名を名乗ったビジイクレイトと、ジスプレッサをウェボアは、交互にみる。
「雇われている? 俺は、てっきりボウズ……いや、これは失礼か。ビィーが団長なのかと思ったが……」
「子供同士なので、そこらへんは緩いんですよ」
ビジイクレイトも、ジスプレッサとの関係は勘違いされても仕方ないと思う。
「じゃあ、交渉はジスプレッサとしたほうがいいか?」
「いえ、見ての通り、今は話せる状態ではないので、僕が話を聞きましょう」
まだ『威風の外套』で顔を隠しているジスプレッサを見て、ビジイクレイトが答える。
「では、まずは確認したいが……俺たちにずいぶん効果の高い回復薬を使ってくれたが、あれはいくらだ?」
「一本十万シフですね」
「はぁ!?」
驚いた声を上げたのは、質問してきたウェボアではなく、『威風の外套』にくるまっているジスプレッサだった。
「……それくらいの値段は予想していたが、あの嬢ちゃんは知らなかったのか?」
「消耗品の補充は僕に任されていたので」
『魔境』に向かうための装備などは、全部ビジイクレイトが購入、管理している。
「その回復薬を俺たち全員に使ってくれたからな……12人全員に一本ずつ使ってくれたってことでいいか?」
おそらく話は聞いているジスプレッサの方を見ると、『威風の外套』にくるまったまま、ジスプレッサがブンブンと頭を振る。
おそらくは、肯定の意味だ。
「ってことは、回復薬だけで、10……120万シフか」
ウェボアは、指を使って数え、困ったように息を吐いた。
「やっぱり、厳しいですか?」
「回復薬代だけなら、なんとか払えるが、それに救援代とかも考えるとな……」
『救援代?』
『一緒にパーティーを組んでいるわけでもないのに助けたからな。お礼を貰うのは、不思議じゃないだろ?』
これが、ビジイクレイト達もピンチで、共闘した形になっていたら話は違うだろうが、今回は完全にビジイクレイト達が『白猪の長牙』を助けている。
『ふーん。しかし、そんなモノは言い値だろう?しかも、踏み倒そうと思えばどうにでもなるのではないかね?』
『それは、俺も思っている』
なので、その疑問を直接ウェボアにぶつけてみる。
「救援代まで支払っていただけるんですね」
ビジイクレイトの質問に、ウェボアが少し不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「当たり前だろ。これでも真面目に冒険者をやっているんだ。助けられたのに、礼も出来ないような奴らと一緒にするな」
「それは失礼しました。でも、ほら、子供二人なんて簡単に騙せそうじゃないですか」
「簡単に騙せる奴が、そんなこと自分から言う訳ないだろ。特に、お前とは敵対したくないと、こうして話して改めて思ったよ。戦っている時から化け物だとは思ったが……」
睨みつけるように見ているウェボアに、ビジイクレイトは肩をすくめる。
「僕なんて、ジスプレッサ様がいないと魔獣一匹倒せない雑魚ですよ」
「そんな剣で『デッドリー・ボア』を切り刻んだ奴が雑魚、か」
ウェボアは、ビジイクレイトが持っている剣に視線を移す。
ビジイクレイトは、その剣をウェボアが見やすいように掲げてみた。
「業物なんで」
「……どこで買ったんだ?」
「『ツウフの魔境』に出ていた露天で。値段は1万シフくらいだったと思います」
「そうかい」
ウェボアは、がっくりと肩を落とした。
こんな業物が一万シフで売られていたことに気がつかなくて、落ち込んだのだろう。
ウェボアはしばらくそのままの姿勢で目を閉じると、ゆっくりと開く。
「まぁ、いい。それで、救援代の交渉だが……これで支払いたいと思う」
ウェボアは、そういって虹色に光る親指の先ほどの大きさの石をビジイクレイトに見せる。
「なっ!? 団長! それは!」
「それって、もしかして!」
周りにいた『白猪の長牙』の冒険者と、ジスプレッサが驚きの声を上げる。
「……やっぱり! 『魔聖石』じゃない!」
ジスプレッサは立ち上がると、そのままビジイクレイトたちのところへやってきて、ウェボアが持っている石を見て、叫ぶように声を出す。
「これは、一昨日、俺たちが『ツウフの魔境』で拾った『魔聖石』だ。最奥にある『魔聖石』じゃないが、救援代にはなるはずだ」
ビジイクレイトは、ウェボアが持っている『魔聖石』を見て、顔を少しゆがめた。
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