第96話 『ツウフの魔境』の奥地 5
『……『白雪姫』の『毒リンゴ』とはね』
完全に燃え尽きた『デッドリー・ボア』をみながら、マメがぽつりという。
『『デッドリー・ボア』がこっちを食べようとする攻撃があるのはわかっていたからな。あのタイミングで強力な毒物を食わせるといいと思ったんだ』
ビジイクレイトがPVを消費して購入したのは、『白雪姫』の『毒リンゴ』だった。
物語のなかでも有名な毒物であり、解毒方法は王子様からのキスだけという厄介な毒である。
ちなみに、消費PVは100で、一時間ごとにさらに60PVずつ消費していく。
その『毒リンゴ』を食べた『デッドリー・ボア』は、体を痙攣させ、ジスプレッサの『火の希望』から逃げることが出来ずに焼け死んだのだ。
『しかし……『毒リンゴ』を食べさせたなら、わざわざ燃やさなくてもそのまま死んでいたのではないかね?』
『『白雪姫』は、『毒リンゴ』を一口かじって死亡というか、仮死状態になったんだろ? それだと、あの巨体の『デッドリー・ボア』が死ぬかわからないじゃないか』
実際に、『毒リンゴ』を食べたあと、『デッドリー・ボア』はすぐに倒れずに痙攣していただけである。
『だから、やっぱりジスプレッサに攻撃してもらう必要はあったし、これなら俺が『デッドリー・ボア』を倒したわけじゃなくて、ジスプレッサの手柄に見せることができる』
ビジイクレイトが目線を移すと、そこには助けた冒険者たちに感謝されているジスプレッサの姿があった。
ジスプレッサは顔を赤くして恐縮しているが、冒険者たちの圧がすごい。
「すごいな、お嬢ちゃん! あの『デッドリー・ボア』を一発で燃やすなんて……もしかして、貴族かい?」
「いや、その持っている杖は『魔聖具』だろ? ずいぶん強力な『魔聖具』みたいだけど、その年で使いこなすなんてな」
「あの、その……」
かなり年上の冒険者たちに賞賛されて、ジスプレッサはあわあわと慌てている。
すこし、体もふらふらしているようだ。
『というか、主よ。あの様子は、普通に体温が上がっているのではないかね?』
『……あ』
ジスプレッサは、『火の希望』を使うと、体温が上がって倒れてしまう。
そのことを思い出したビジイクレイトは、慌ててジスプレッサの元へ向かった。
「あの、すみません。ちょっと通してもらっていいですか?」
ジスプレッサの周りを囲んでいる冒険者たちの隙間を通って彼女のもとへ向かおうとすると、ビジイクレイトも冒険者たちに捕まってしまった。
「おお、坊主もスゴかったな。『デッドリー・ボア』の攻撃をあんなに避けるなんてな」
「あの、ちょっと……」
「隙をみて切りかかってもいただろ。いや、天才っているんだな」
「その、ですね……」
「どうやって『デッドリー・ボア』の攻撃を避けたのか、俺にもコツを教えてもらってもいいか? 普通に避けるなんて……」
「いいから、どけ」
しつこくビジイクレイトに話しかけてきた冒険者たちを、一喝する。
子供とはいえ、先ほどまで自分たちが殺されかけていた魔獣と戦っていた者の気迫に、冒険者たちは息をのんだ。
「おい、お前等、いいかげんにしろ」
「団長……」
大きな盾を持っている男性がやってくる。
おそらく、彼が冒険者たちのリーダーなのだろう。
『あの男、見たことがあるような気がするのだが……?』
『『白猪の長牙』の団長だな。初日に死体を回収していただろ?』
『ああ、あの男か。ということは……』
『そんなことより、今はジスプレッサだ』
団長がきたことにより、冒険者たちは落ち着きを取り戻したのだろう。
一歩ずつ下がり、ビジイクレイトとジスプレッサから距離をとる。
「申し訳ない。少年。俺は……」
「謝罪もあとにしてくれ。急いでいるんだ」
『白猪の長牙』の団長を無視するようにビジイクレイトはジスプレッサの元へ向かう。
「すまない、少年」
「ジスプレッサ様も、謝罪はあとでお願いします」
ふらふらとしているジスプレッサを、ビジイクレイトは問答無用で抱き抱える。
「ちょっ!? 少年!?」
「ここだとやりにくいので、移動しますよ」
そのまま、壁際までジスプレッサを運ぶと、手早く色を失った『氷の魔石』を交換する。
『氷華の衣』が動き出して、ジスプレッサはほっと、息をついた。
「では、僕はあの冒険者たちと話をしてきます」
「私も……」
「ジスプレッサ様はしばらく大人しくしていてください……お疲れでしょうから」
「え……?」
そっと、ビジイクレイトは、ジスプレッサの頬に手を当てる。
ジスプレッサの頬は、目尻から濡れていた。
「……レベル5の魔獣と相対し、冒険者たちの治療もしたのです。すこし、気を落ち着かせた方がいいでしょう」
ビジイクレイトは『威風の外套』を、ジスプレッサが顔を隠せるように、彼女を守るように着せてあげる。
ジスプレッサが、ぎゅっと『威風の外套』を握りしめたのを確認したあと、『白猪の長牙』の冒険者たちがいるところに戻っていった。
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