第95話 『ツウフの魔境』の奥地 4


小説投稿42日目

累計PV:4192PV 残りPV:2917PV


 これが、現在のビジイクレイトのPV数だ。


『それで、どんなモノを呼び出すんだい? 今の主のPV数だと、人物を呼びだしても数秒しか持たないだろうが……』


『当然、モノに決まっているだろ?』


『モノか。しかし、あの巨体を倒せるモノだと……金太郎の鉞(マサカリ)や、桃太郎の日本刀。赤ずきんの漁師が持っていた銃、などかな? 神話に出てくる武器などは、そもそも神話を買えるほどPVがないから諦めたまえよ?』


『そんなもの買わないから安心しろ……って、え?『神話』の武器とか買えるの?』


 ビジイクレイトの発言に、呆れたようにマメは答える。


『何を今更……アプリの一覧に『神話』もあっただろう? もっとも、アプリを買うだけで10000PVは必要だがね』


『ぐ……そんなカッコいいモノがあったのか。ちくしょう』


 うなだれながら、ビジイクレイトは『デッドリー・ボア』の噛みつきを避けた。


『そんな器用なことはしなくていいから、結局何を買うんだい? イノシシを倒すなら、金太郎の鉞(まさかり)は最適だとは思うがね。たしか、金太郎にはイノシシを従えているエピソードがあるのだろう?』


『イノシシというか、熊の方がイメージが強いけどな。熊にまたがっているんだよ、金太郎は。それより、そんな武器を俺が買うわけないだろ?』


『ほう? なぜだい?』


『こんなところで、金太郎の鉞(まさかり)なんてクソ強い武器使ったら、俺が貴族だってバラすようなもんじゃねーか』


 ジスプレッサから話を聞いて、ビジイクレイトも調べてみたが、現在ビジイクレイトには100万シフの懸賞金がかかっている。


 使われている姿絵が、これ誰?ってレベルに美麗に書かれているモノと、これ誰?ってレベルで醜悪な人相で書かれているモノの二種類があって、ビジイクレイトだと見つかりそうにないのが幸いではあるのだが。


 しかし、そんな姿絵が出回っていても、ビジイクレイトが『神財』を使えることがわかれば、追われる可能性があるだろう。


『では、何を買うんだい?』


『それはもちろん。俺が『神財』を使えるってわからなくて、あの『デッドリー・ボア』を倒せるモノだ』


『そんな都合が良いモノがあるのかい?』


『ん? わからないのか?』


 マメが本当に不思議そうにしている。


『へー、あのマメがわからないのか。『童話アプリ』を買うときは得意げにしていたマメがわからないのか。へー、『AIアシスタント』なのに、自分が担当しているアプリのことがわからないのか』


 天幕を買いたいと相談したときに、『三匹の子豚』と答えたら、罵倒されたことをビジイクレイトははっきりと覚えていた。


 そのときを恨みを晴らすときだと、ビジイクレイトはマメを煽りまくる。


『ぐ……主のくせに、僕をバカにするなど……! うぐぐぐ……』


『というか、お前は『アプリ』の購入のときに役に立てないと、マジで何が出来るのかわからないぞ?』


『ちゃんとそれ以外にも役に立っているのだよ! 『指定封印』とか……』


『っと、そろそろいいかな』


 マメとの会話を切り上げて、ビジイクレイトは視線を移す。


 倒れていた冒険者たちに回復薬を飲ませたジスプレッサが、彼らを防火扉の方に誘導し終えていた。


「……よっと」


『デッドリー・ボア』の突進を避けながら、ビジイクレイトは『デッドリー・ボア』の足を切りつけた。


「ビギィイイイイ!」


 痛みで鳴き声を上げる『デッドリー・ボア』の声の大きさに顔をゆがめながら、ビジイクレイトは言う。


『レベル5の魔獣といっても、これだけ戦えばパターンは読めてくるな。それで、マメ? 俺がどんな物語のモノを買うか、わかったか?』


『ちょっと、待つのだよ! えーっと、巨体のイノシシだから……『うちでの小槌』は、買えるわけがないし……』


『はい、残念。では正解発表だ』


『あーあとちょっと待って! 1時間くらい……』


『待てるか、そんなもん!』


 ビジイクレイトは、ジスプレッサとの間に『デッドリー・ボア』がくるように立ち位置を調整する。


 ここならば、ジスプレッサからビジイクレイトが『神財』の『キーボード・タブレット』を取り出しても見えることはないだろう。


 突進を避けられ、体も切られた『デッドリー・ボア』が、ビジイクレイトに向けて口を開く。


『突進を二回以上避けられて、相手が近くにいたら食べようとして口を開く。予想したパターンの通りだな』


 ビジイクレイトは、PVを消費して『童話アプリ』から購入したモノを、そっと地面に落とす。


 そのまま、ビジイクレイトは横に飛んだ。


 ビジイクレイトがいた場所を、『デッドリー・ボア』の大きな口が襲いかかる。


 そして、地面と一緒に、ビジイクレイトが地面に落としたモノも飲み込んだ。


「……ジスプレッサ様!」


『デッドリー・ボア』が『童話アプリ』で購入したモノを飲み込んだことを確認したビジイクレイトは、ジスプレッサに『火の希望』で攻撃するように指示を出す。


 しかし、ジスプレッサは杖をぎゅっと抱いて拒否を示した。


「無理だ、少年! 『火の希望』では、レベル5の『デッドリー・ボア』を燃やすなんて……」


 はじめてみるレベル5の魔獣に、ジスプレッサは恐怖しているのだろう。


 攻撃しなくては勝てないのに、攻撃することが恐ろしい。


 動けなくなる恐怖とは、人に誤った選択を強制する死神の目くらましだ。


「ジスプレッサ様!」


 ビジイクレイトは、声を張り上げる。


『デッドリー・ボア』の足が、細かく痙攣していた。


 時間がない。


「無理だ、少年……そうだ、逃げよう。それしかない。逃げて、扉を閉めれば……」


「いいから、やれ! ジスプレッサ!!」


 ぐちぐちと弱音を吐くジスプレッサに、ビジイクレイトは怒声を上げる。


「ひゃ!? ひゃい!」


 すると、ようやくジスプレッサは杖を掲げた。


『……ドM設定がここで活きたね』


『こんな場面で活かさなくてもいいのに……声を張り上げるの、苦手なんだよ』


 ほっと息を吐きながら、ビジイクレイトは『威風の外套』で身を覆い、横に飛ぶ。


「ひ、『火の希望』!!!」


 震えながらも、ジスプレッサは強烈な炎を生み出し、『デッドリー・ボア』に向けて放つ。


『火の希望』の業火に包まれる寸前、『デッドリー・ボア』が片膝をついた。


『……よし。これでアイツは動けない』


 ビジイクレイトの言葉どおり、動かなくなった『デッドリー・ボア』が炎に包まれる。


「ビギィイイイイイイイ!!!」


 大きな声を上げながら、しかし暴れることも出来ずに、『デッドリー・ボア』はそのまま炎に体を焼かれて、死亡した。

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