第87話 『ツウフの魔境』の攻略 1
白い光沢のある床と壁。
その壁には明かりが灯り、光沢のある白に反射してその効果をさらに発揮する。
そんな場所を、少女と少年と、少女には見えていない小さな本が進んでいた。
『……地下鉄かな!?』
小さな本。マメが、歩いている少年、ビジイクレイトに聞いてくる。
べしべしと頭を叩き、興奮しているマメに、ビジイクレイトは少し呆れながら答えた。
『これが『魔境』だ。俺も本で知った知識だけど……本当に向こうの世界の建物みたいだな』
所々自販機や券売機のようなモノまである。
もちろん、まだ『ツウフの魔境』に入って10分も経っていない場所だ。
いくつか分かれ道があった場所の先とはいえ、すでに調べ尽くされている。
中身はすでに空だ。
「……『ツウフの魔境』は『神殿型』と聞いていたが……本当に神殿のように白い床と壁なのだな」
ジスプレッサは興奮しながら周囲を見回している。
『……現地の者には地下鉄が『神殿』に見えるのだね』
『これだけ広大な場所に綺麗に舗装された壁に床だ。そう思ってもしょうがないだろ』
『それにしても、『神殿型』とは、ほかにも『魔境』の型があるのかい?』
ビジイクレイトは、過去に図書室で見た内容を思い出す。
『あとは、ふつうに岩石の洞窟のような『洞窟型』、草原や森が広がっている『草原型』地下鉄じゃなくて、デパートのような貴重な宝物があふれる大当たりの『宝物型』水に沈んでいたり、溶岩が流れる『特殊型』大まかに言うとこんな感じだな』
『ふむ、大当たりなんてあるのか……もしかして、主。『神殿型』とは、ハズレの部類なのかね』
マメの質問に、ビジイクレイトは軽く笑って答える。
『正解。ほかの型は、鉱物だったり、植物だったり、いろいろ採取出来るモノも多いけど、『神殿型』は魔獣から採れる『魔石』以外に価値のあるモノがほとんど採れない。まぁ、電車みたいなモノが見つかることもあるみたいだけど、ほとんどない。あってもそれを採れば終わりだからな。だから、間引きの対象に選ばれるのは、『神殿型』が多い』
じっとビジイクレイトは明るく照らされている通路の先を見る。
『あとは、視界が良くて、足下も良い『神殿型』は、平民が探索するのにうってつけだ。だから、公表される『魔境』の開拓地は、『神殿型』がいいってこともある』
言いながら、ビジイクレイトは腰に差していた剣を抜く。
この剣は、昨日、情報収集の間に露天で購入した剣だ。
「ん? 少年? どうした?」
突然剣を抜いたビジイクレイトに、ジスプレッサは不思議そうにしている。
「……魔獣です」
「え?」
ジスプレッサはキョロキョロと周囲を見回すが、なにもいない。
「ど、どこにいるんだ? 私にはなにも」
「魔獣がそんなにわかりやすい場所にいるわけないじゃないですか」
ビジイクレイトは、言いながら赤と灰色の石を取り出す。
「『煙の魔聖具』?」
「ジスプレッサ様はとりあえず構えてください。練習通りにすればいいので」
「わ、わかった」
ビジイクレイトは、『煙の魔聖具』を前方に投げる。
『煙の魔聖具』から、煙がもくもくと出てきて、周囲に広がっていく。
すると、前方にあった自動販売機が大きく動き始めた。
「んな!?」
その自動販売機の裏から、次々に大きなネズミ、『デッドワズ』が出てくる。
『自答販売機の後ろは、いろいろな生き物の住処というのは、この世界でも変わらないのだね』
『そうだな』
ビジイクレイトは駆け出し、煙で混乱している『デッドワズ』の元へ向かう。
そして、一匹の『デッドワズ』の両目を切り裂いた。
「ギィイイイイ!?」
両目を切られた『デッドワズ』が悲鳴を上げる。
その悲鳴を聞いて、ほかの『デッドワズ』は煙の混乱から立ち直り、ビジイクレイトに飛びかかってきた。
『……逃げるかと思ったけど、向かってきたか』
人の首を簡単に切り落とすネズミの前歯が迫ってくる。
『……怖いなぁ!』
恐怖と戦いながら、ビジイクレイトは飛びかかってきた『デッドワズ』とたたき落としていく。
『そう言いながら、スパスパ切っているじゃないか』
ビジイクレイトにたたき落とされた『デッドワズ』は、体のどこかが切れていた。
『剣が良いからな!』
値段の割に頑丈で、切れ味も良い掘り出し物である。
『『魔境の開拓地』には冒険者相手の露天が並ぶから、そこで装備を調えたのは正解だったようだね』
『当たり外れも多くて、大変だったけどな』
そんな会話をしている間に、すべての『デッドワズ』をたたき落としたビジイクレイトは後方で杖を持って構えていたジスプレッサに合図を送る。
「……これでいいだろ。ジスプレッサ様!」
「わかった!」
ジスプレッサは杖を掲げる。
「『火の希望』!!」
ビジイクレイトによってたたき落とされ、集められた『デッドワズ』たちにジスプレッサの炎が襲いかかる。
「ギィイイイイ!?」
断末魔をあげながら、『デッドワズ』の群は燃え尽きた。
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