第82話 『ツウフ』の魔境

『ノーマンライズ』の町から、馬車で鐘二つほど。

 5~6時間ほどの距離にある『ツウフ』の魔境。


 その近くにある広場には沢山の人々が集まっていた。


「お、見ろ。少年! 屋台がある。何か食べていかないか?」


「いや、僕はお腹が空いていないので、食べてきていいですよ?」


「そうか? いや、少年が食べないのに私だけ……」


 その人々のなかに、背の高い発育のよい少女と、背のひ……いや、まだまだ発展途上の少年が歩いていた。


『ちゃんと背が低いと書きたまえよ、主』


『うるさい、発展途上なんだよ。これから成長するんだよ。俺は』


 少年、ビジイクレイトの肩には小さな本もいる。


 未だに屋台の食べ物に興味津々のジスプレッサが、ビジイクレイトに聞く。


「それにしても、こんなに店があるんだな。人も多い。『魔境』の近くなのに、ノーマンライズと変わらないじゃないか」


「『魔境』の近くだから、ですね」


 首を傾げるジスプレッサ……と、マメにビジイクレイトは補足する。


「『魔境』で採れるモノはどれも価値のあるものです。その価値のあるモノを求めて、人が集まるのは当然でしょう?」


「しかし、『魔境』には魔獣がいるぞ? 危なくないのか?」


 ジスプレッサも両親から『魔境』には近づくなと言われていた。


 なので、この人の多さには驚いているのだ。


「危ないから、屋台が多いんですよ。建物もありますが、簡易なモノばかりでしょう?」


 ビジイクレイトが指した建物は、宿のようであるが、確かに木材を組み合わせただけの簡易なモノだ。


「魔獣が出てもすぐに逃げられるように。もしくは、壊されても安価で立て直せるようにしているんです」


「へー詳しいんだな」


 ちなみに、ビジイクレイトの知識は主に図書館で得たものだ。


 なので、詳しいというと少し違う。


「そんなことより、そろそろ着きますよ。あれが『ツウフの魔境』です」


「おお、ここか!」


 人だかりの先に、白い岩石で出来た建物が堂々と立っていた。


 その入り口に、人が呑まれるように次々と入ってく。


『……コレが『魔境』かぁ。思ったよりも綺麗なのだね』


『……まぁ、管理しているのは貴族で、封印をしているのは神殿だからな。正確には、白い建物は『魔境』に入るための受付所で、その奥に魔境が広がっている』


 白い建物は神殿によく似ていた。


『つまり、白い建物は『魔境』の封印も兼ねている、ということかな?』


『そういうことだ』


 ジスプレッサは、うずうずとした様子を隠すこともせずに、目を輝かせている。


「よし。ではさっそく『魔境』の攻略に出発だ。我々が『魔聖石』を手にするのだ!」


 意気揚々と『ツウフの魔境』に乗り込もうとするジスプレッサの手をビジイクレイトはとる。


「……少年?」


「今日は『ツウフの魔境』に行きません。さて、宿に向かいますよ」


「そ、そんな!? ここまで来て?」


 ジタバタと暴れるジスプレッサをつれて、ビジイクレイトは『ツウフの魔境』から離れる。


 ジスプレッサはビジイクレイトに訴えるが、その願いは完全に無視されるのだった。


「……そんなにふてくされないでください」


 宿に到着したビジイクレイトは、頬を膨らませているジスプレッサへの対応に困っていた。


「昨日、話したでしょう? 今日は『魔境』に挑まずに情報収集をすると……」


「……聞いていたが、しかし、もう10日以上経過しているんだぞ? 少年の言葉に従っているが……」


「正確には『ツウフの魔境』の開拓が公になってから11日。僕たちが出会ってから15日ですね」


 それだけ待ったのには、もちろん理由がある。


「初対面の二人で、しかも、二人とも『魔境』に行ったことがない。ある程度訓練は必要だったでしょう? 特に、ジスプレッサは特殊な攻撃を使うのですから」


 一つ目の理由は、二人で行動する訓練をするためだ。


 初対面で、抜群のコンビネーションを発揮できるほど、ビジイクレイトもジスプレッサも経験があるわけではない。


 お互いに何ができるのか。

 緊急事態にどのように行動するのか。

 打ち合わせを兼ねた訓練は必要だった。


『特殊な攻撃なら、主もだろう?』


『そうだけど、ややこしいからちょっと黙っていろ』


『PVが回復するまで待っていた、とは言えないのはわかるがね』


 マメが指摘する点も、『ツウフの魔境』に挑むのに時間をかけた点だ。


 今のビジイクレイトのPV数はこんな感じだ。


 小説投稿38日目

 累計PV:3443PV 残りPV:2168PV


 これだけあれば、物語の人物は無理でも、武器などは呼び出して戦える可能性がある。


 もっとも、一番大きな理由は、これらではない。


「11日経っても、『魔境』を開拓した者はいません。魔境の入り口にある受付所で公開されている情報を見ましたが、それでも『魔聖石』がある奥地の最奥までたどり着いた者はいない、というのが現状です」


 11日待っても、問題がないから、というのが一番大きな理由だ。


 そもそも、『魔境』が平民でも数日で開拓できるような場所なら、貴族がすでに『魔聖石』を回収している。


 それなりに難易度が高いからこそ、公にして平民を『閃光部隊』として投入しているのだ。


「『閃光部隊』として活動している冒険者たちも、あらかた調査を終えたようですね。……昨日から、犠牲になっている人の数が減っています」


『魔境』の入り口には、その魔境がどこまで開拓が進んでいるかの進歩状況と、犠牲になった者たちの名前が表示されている。


 もっとも、これらの情報は、その『魔境』を管理している者たちが入手できた情報のみなのだが。


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