第80話 ジスプレッサとの朝食

「おはよう、ビイ少年」


 それからしばらくして、ジスプレッサが起きてきて朝食を取ることになった。


 パンに卵にミルクに果物。


 貴族ならば質素。

 平民ならば豪勢な朝食だ。


『この世界はパン食なのだね』


『この世界っていうより、この国……この地域だな』


 当たり前の話だが、地域によって食べられるモノは異なっている。


 特に、人が暮らしている町以外には、魔獣が闊歩している世界だ。


 地域差は、魔獣などがいなかったジイクの世界と比べるとかなり大きい。


『そうなのかい?では、もしかして、お米とかもあったり?』


『あるぞ、この国では珍しいが、別の国にはある』


『おお! では、いつか『お米だぁああ』と感涙しながら卵かけご飯を食べる主が見られるわけだな』


『テンプレだけど、事前に求めるな。いざそうなったとき感動も何もないだろ。というか、米ごときで感動しねーよ。そもそも卵かけご飯苦手だしな』


『なんだと!?』


 マメが驚愕する。


『ダメだよ主! そこは苦手でも、嘘ついて『卵かけご飯、大好きです』って言っておかないと、読者が逃げるよ!?嘘は得意だろう?』


『嘘を得意って言った覚えはないな。それに卵かけご飯……食べられないわけじゃないけど、白身を生で食べるのがイマイチ好きになれなくてな。なんか、鼻水みたいじゃないか、あれ?』


 ちなみに、卵黄だけの卵かけご飯なら、ビジイイクレイもおいしいとは思う。


 しかし、白身だけ余らせるのはもったいないし、そういった罪悪感から、総合すると苦手な食べ物に卵かけご飯はなるのだ。


 そんな他愛のない会話をマメとしていると、ジスプレッサが話しかけてくる。


「……何か苦手な食べ物でもあったのか?」


「いえ、そんなことは……」


「しかし、あまり食が進んでいないようだが……」


 ジスプレッサの視線を追うと、ビジイクレイトが持っている小さなパンにたどり着いた。


 そのパンは一口かじられてから、まったく手が着けられていない。


「あー……ジスプレッサ様と比べられると、食が進んでいないかもしれませんね」


「んな!?」


 ビジイクレイトが笑っていうと、ジスプレッサは頬を赤くする。


 そのジスプレッサの皿には、厚切りのトーストが2枚と、たくさんの果物が乗っていた。


 目玉焼きも、黄身が4つある。

 ちなみに、すでにジスプレッサは今皿に載っている量の食事をすませ、まだ食べている途中である。


「こ、これは……私は成長期だからな」


 そう胸を張るジスプレッサのおっぱいがプルンと揺れる。


『まだ成長するのか……』


『おっぱい地獄は終わらねぇ』


 そんな地獄はさっさと終わってほしい。


「それにたくさん食べないと強くなれないだろ?」


「……ええ、そうですね。たくさん食べて、強くなってください」


 ぱくりとバターたっぷりのトーストを口に運ぶジスプレッサに、ビジイクレイトは微笑む。


「……むむむ。なんかバカにされている気がする。ビィ少年の言葉遣いが丁寧に戻ったのに……」


「バカになんてしていませんよ。一応雇い主なのに」


 昨日、ビジイクレイトがビジイクレイトの影武者であったと嘘を言ったあと、ジスプレッサに協力すると申し出た。


 そして、その条件を話し合ったのだが、結果として以下のようになった。


1 『ツウフの魔境』にて『魔聖石』を手に入れた場合、権利を含め、そのすべてをジスプレッサに譲る。

2 『魔聖石』以外の『ツウフの魔境』にて入手したすべてのモノは、ジスプレッサが魔獣を倒して『魔石』を入手しても、すべてビィ少年(ビジイクレイト)のモノにする。


 おおまかには、このようなモノだ。


 その内容で決定したとき、ビジイクレイトはぽつりと「雇われているみたいだな」とこぼしたのを、ジスプレッサに聞かれた。


 すると、ジスプレッサは目を輝かせながらビジイクレイトに、出会ったときのような丁寧な言葉遣いをするように要求してきたのだ。


 条件を話し合ったあとのことなのだが、別に問題はないので、そのジスプレッサの要求をのむことにした。


 ただ、別に決まり事ではないので、口調はビジイクレイトの自由である。


「そんなに気にくわないなら、元に戻そうか? ジスプレッサ」


「ふわっ!?」


 丁寧な言葉遣いをやめると、ジスプレッサは急に頬を赤くした。


『……自分好みの言葉遣いが丁寧な少年に唐突にタメ口を言われて興奮しているようだね』


『解説はいいから』


『ちなみに、彼女の性癖は敬語ドS美少年だ』


『性癖の暴露もいいから! かわいそうだろ! というか、人の性癖とかわかるのか!?』


『僕は美少女女子中学生だからね』


『美少女女子中学生にそんな能力ねーよ!』


 ジイクの世界にはそんな常識はなかったはずである。


『……そういえば、主が戦った『聖剣士』の性癖は『強い人』だったよ』


『……そうか』


 ヴァサマルーテの性癖を聞いても、反応に困ってしまう。


 特に、自分と当てはまらない内容なら、なおさらだ。


『なら、カッマギクとの婚約は、ヴァサマルーテ様の望みどおりなんだな』


『あんなイキリ雑魚顔なんて、強いわけないだろうに……』


 マメはそういうが、カッマギクは強いのだ。


 少なくとも、ビジイクレイトよりは。


 そんな会話をマメとしている間に、ジスプレッサが立ち直る。


「しょ、少年……君はわたしに雇われているのだから、言葉遣いは丁寧にたのむよ」


『丁寧から粗暴な言葉が最高! だってさ』


『訳するな、心の中を』


 マメの解説のせいでジスプレッサをどう見ればいいいかわからない。


「それで……朝食を食べたらさっそく『ツウフの魔境』へ向かうか。ここからなら、昼前にはたどり着けるだろう」


「いや、今日はやめておきましょう」


 ジスプレッサの提案を、ビジイクレイトは拒否した。



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