第79話 朝にチュンチュン鳴くために起きていた
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる朝。
一人の少年が目を覚ました。
『さて、朝チュンだよ』
『してねーよ』
チュンチュンと鳥の鳴き声をマネしていたマメに、目を覚ましたビジイクレイトはツッコむ。
『しかし……似たようなモノではないかね?』
『まぁ、それは……反論できない』
ビジイクレイトも、今の自分の状況は理解していた。
何が、というとビジイクレイトの後頭部に柔らかくて暖かいモノが二つくっついているからだ。
その柔らかいモノとは、ビジイクレイトを抱き枕にしているジスプレッサのおっぱいである。
昨日、ジスプレッサにビジイクレイトがビジイクレイトの影武者をしていたと嘘を教えたら、なぜか余計にジスプレッサはビジイクレイトに懐いてしまった。
『懐いたというより、庇護欲をかき立てられたようだね。ずっとくっついているじゃないか』
『なんで庇護欲なんてもたれないといけないんだよ』
『それは主が幼い……小さい……チビ……クソチビのガキ……だからじゃないかい?』
『言い換える度に罵倒にするんじゃねーよ。最初のまま固定していろ』
マメをつかもうとして、ビジイクレイトはその動きを止めて大人しくなった。
『……おや? どうしたんだい? てっきりと掴みかかってくるかと思ったが』
『別に。ただ、下手に動いて起こすのも悪いだろ?』
ビジイクレイトは、まだ寝ているジスプレッサに気を使ったようにも思える、が。
『ふむ……気のせいなら申し訳ないが、主は布団から出たくないように思えたのだが、それは何か関係あるかい?』
『それは気のせいだろ。いや、まぁ、冬の朝は寒いからな。暖かい布団から出たくなくなるのは、人のサガだ』
『ふむふむ……それは、確かに人として当然のこと。ところで主よ。聞いた話だが、朝は男性にとっては当然のこと……男性のサガがあるらしいね』
『……なんのことかな?』
マメの質問にビジイクレイトはとぼけてみせる。
『では主よ。一つ聞いてもいいかな?』
『……なんだ?』
『換えの下着は必要だろうか?』
『そこまでじゃねーよ』
ビジイクレイトはマメをにらみつけるが、マメはうれしそうにパタパタと羽ばたいている。
今なら、どれだけバカにしてもビジイクレイトに捕まることはないと知っているからだ。
『ふっふっふ。それは残念だ。性的なことに無知な彼女の前で、主が、主に起きたことをどう説明するのか楽しみだったのだが……ああ、もしかして、起きてはいるのかい?』
『やめろよ! 答えないけど、男性が朝起きているのは関係ないからな! マジでただの生理現象だからな!』
ビジイクレイトとマメが声を出さないで言い合いをしていると、ジスプレッサが目を覚ました。
「う……ううん……」
「おはよう」
「う?……うーん……うん……」
『……眠った』
嘘である。
ジスプレッサは再び眠ってしまった。
『彼女は朝弱いタイプかい?』
『そうかもね。というか、おまえも朝は苦手じゃなかったのか?』
今は早朝である。
『それはもちろん。朝にチュンチュン鳴くために起きていたに決まっているじゃないか!』
『決めるな、そんなもん。チュンチュン鳴くのは本当の鳥に任せておけ』
『冬だから鳥なんていないよ? 主』
『チュンチュン鳴く本もいないんだよ、本当は』
そんな会話をしている間に、ビジイクレイトも完全に目が覚めてきた。
『目が覚めたんじゃなくて、鎮まりだしたんだろ?』
『目が覚めたんだよ。これは嘘じゃない。嘘じゃないからな!』
嘘ではない。のである。
ビジイクレイトは抱きしめているジスプレッサの手をそっとどかして起きあがる。
『……よし』
『名残おしそうにしているんじゃないよ』
『……さて、トイレトイレ……』
前傾姿勢になり、すり足でビジイクレイトは移動する。
『いや、鎮まっていないのかい!』
マメの声を無視して、ビジイクレイトはトイレに向かった。
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