『魔境』と貴族
第73話 『デッドワズ』
『デッドワズ』
大ネズミとも表現されることもある彼らは、代表的な『魔境』の住人であり、人に危害を加える魔獣である。
その強さは、魔獣の中でも最低レベルの『レベル1』であり、『『神財』を持った騎士なら一人で安全に討伐できる』程度である。
つまり、どういうことか。
『神財』を持たない平民ならば、倒すのに十分な武装をして5人は必要になる強さ。
それが、『デッドワズ』。
最低の強さを持つ、魔獣。
そんな『デッドワズ』の群に囲まれている少年がいた。
「だ、誰か助けてーー」
12歳の少年。
少年は助けを呼ぶが、場所は人気のない森の中。
その声に答えるように動いたのは、『デッドワズ』だった。
「ギギギッィイイイ!!」
中型犬ほどの大きさのあるネズミが、少年に飛びかかる。
鉈のような前歯が、少年の首に向かう。
数秒後に、その歯は少年の首を切り落とすだろう。
そのときだった。
「『火の希望』」
業火が、『デッドワズ』の群を焼き尽くした。
「ギギィイイ!?」
『デッドワズ』が燃え、骨になっていく。
突然の業火に少年が驚いていると、炎の向こうに、一人の少女が立っていることに気がついた。
少女も、少年の姿を確認すると、なぜかポーズを取り始めた。
長い木の杖に、冬なのに軽装の……というより、全身に張り付くような運動着を着ている少女。
一応、大きな外套も身にまとっているようだが、ポーズをしたときにめくれて、少女の発育が良く、豊満な肉体の輪郭がはっきりと見えて、目のやり場に困る感じになっている。
「この私、正義の大魔聖法使いのジスプレッサが来たからにはもう安心! さぁ! 少年! こっちに来なさい!」
ジスプレッサという名の少女が、少年を呼んでいる。
少年は、確認するように彼の肩にいる小さな本を見る。
『一言いいかな? 主?』
『なんだ?』
『『魔境の攻略でカッコよく活躍してPVを稼いでから勇者に会おう』って魂胆なのに、なぜ最初から最低レベルの魔獣相手にピンチになって、女の子に助けられているんだい?』
『それを言うなよ……』
少年。
ビジイクレイトは、少し落ち込んだ声で小さな本、マメに答える。
『闇の隠者』と別れてから、ビジイクレイトは『魔境の開拓』が募集されている領地に向かって移動を始めた。
東にあるアイギンマン領から北西。
ノールィンよりもさらに西の『ノーマンライズ』が目的地だ。
その道中、『デッドワズ』の群に囲まれて、冒頭になるわけである。
『『デッドワズ』一匹なら倒せなくもないけど、10匹以上いただろ? あの数はさすがに無理というか』
『倒せよ、主人公』
マメが無茶ぶりするが、『デッドワズ』の群など、騎士団が出動するレベルの驚異である。
PVを消費して、強力な物語のキャラクターを呼び出せば勝てたかもしれないが、PVが少ない現状は無理である。
清きPVよろしくお願いします。
「…………少年? あの、少年? こっちにおいで?」
マメと会話をしていると、なぜか外套+運動着の少女ジスプレッサが涙目でビジイクレイトを呼んでいる。
『……なあ、主よ。あの少女、どう見ても露出狂っぽいよな?』
『やめろ! 命の恩人になんてことを言うんだ! ちょっと思ったけど、しばらくはやめろ! 具体的には、お礼をして別れるまでは!』
マメと言い合いをしていると、ジスプレッサが木の杖に体を押しつけている。
その顔が赤くなっており、正直色っぽい。
『……なにしているんだ?』
「もう……だめ……」
ジスプレッサが、ゆっくりと地面に倒れる。
「え、ちょっと!?」
ビジイクレイトはあわててジスプレッサの元に向かうのだった。
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