第71話【指定封印/閲覧不可】№02-02

 アープリアの護衛騎士を増やすように命じ、護衛が揃ってからアープリア達はトコオーマの元へ向かった。


「おお、聖女アープリア様! 助けてください! 私の顔が、顔がぁああああああああああ!」


 トコオーマがいる神殿の広間に行くと、トコオーマ以外にも数十名の怪我人が寝かされていた。


 全員、応急処置として顔に包帯を巻いている。


 何があったのだろうか、と不思議に思っていると、顔に包帯を巻いているジメイーキが、アープリアの元にやってきた。


「アープリア様……どうか、我らに聖女のご加護を……」


「何が起きたのですか?騎士たちまでそのような姿になって……」


 ジメイーキとアープリアの間に、呻いているトコオーマが割って入る。


「そのようなお話はあとにして、まずは私を! 私たちをお助けください!顔が、顔が痛むのです!」


「下がりなさい!」


 アープリアの護衛をしている騎士が、トコオーマを止める。


「何を! 私に何かすれば、カッステアク様達が黙っていないぞ!」


「下がれ!」


 そのまま、彼女らはトコオーマを遠ざけた。


「それで、何があったのですか?」


 何事もなかったかのようにアープリアはジメイーキに質問する。


「……あの『ケモノ』の従者が、突然私たちに攻撃してきたのです。突然の事だったので、反応出来ずに……」


『ケモノ』という言葉にアープリアは一瞬だけ反応しかけるが、何とか顔には出さずに押しとどめる。


「そう……それで、その従者はどこに?」


「捕らえて神殿の牢に入れております。『ケモノ』は従者まで卑怯で卑劣で、騎士道のかけらもないですな。まったく、なぜキーフェはあのような者達に『神財』を賜る許可を与えたのか……」


 グダグダと何かを言っているジメイーキに適当に相づちを打ちながら、アープリアはマグダに視線を向ける。


 その視線の意味をすぐに悟ったマグダは、護衛の騎士を一人連れて、そっと広間を出ていった。


「騎士達が怪我をしている理由は分かりましたが、騎士達以外のケガ人はどうされたのですか?」


「それは……その、我々は彼らの救援に向かったのです。襲われていると連絡があったので。現場に向かうと彼らが倒れていて、介抱している隙に『ケモノ』の従者が……」


「現場とは?」


 アープリアの間髪入れない質問に、ジメイーキが少したじろぐ。


「その……街道です。街道の広場で」


「そのような場所で、ランターク様の親衛隊が何をしていたのですか?」


 ジメイーキの様子が明らかにおかしくなった。

 何かヤマシい事があると、その態度は明らかに語っている。


「彼らが何をしていたかなど、どうでも良いではないですか! それよりも、早く治療を! このやけどは、アープリア様の聖なる御技でのみしか治せません!」


 ジメイーキが返答に困っていると、トコオーマが会話に入ってきた。


 アープリアの護衛騎士達が前に出るが、彼女たちをアープリアは手で制する。


「何をしていたか、といえばトコオーマ。貴方は何をしていたのですか?」


「何を、とは?」


「なぜ貴方がこの騎士たちと一緒に怪我をしているのです? 神殿の仕事で、そのようなことを命じた覚えはないのですが?」


 トコオーマはカッステアク達についている事が御多いが、彼はまた一応神官なのだ。

ゆえに、基本的に彼の仕事は全てアープリアの裁量の内にあるはずなのだ。


「そ、それは……彼らは、カッステアク様の護衛騎士でもありますので。カッステアク様はアープリア様の未来の伴侶。彼らと行動をともにする事に、何の不思議もないでしょう?」


 当たり前のように語ったトコオーマの言葉に、さすがのアープリアも不快感が前に出る。


「私と縁を結ぶ方は、まだ決まっておりません。何度もそう申し上げているはずですが?」


「そのように誤魔化さなくても……カッステアク様以上の殿方など、シピエイルどころか、この世界を探しても見つからないでしょう」


 いや、そこら辺にたくさんいる。

 

 そんな言葉をアープリアは飲み込む。


(それに、将来、私の隣にいるのは……)


 常に支え、導いてくれていた男の子の姿を思い浮かべ、アープリアは泣きそうになる。


 いつの間にか、距離が開いてしまった。


 その距離を埋め、昔のように側にいるために、そろそろ行動するべきだろう。


 もう、我慢の限界だった。


「それで、もうお話はよろしいでしょうか? そろそろ私たちの治療をしていただきたい。もう、顔が痛くて痛くて……」


 トコオーマは、血がにじんでいる包帯に、弱々しく手を当てる。


 その間に、マグダが広間に戻ってきた。

 アープリアと目が合うと、軽く頷いている。


「そうですね。もうお話は結構でしょう。それでは、失礼いたします」


 アープリアは軽く会釈すると、そのままマグダがいる広間の出口に向かって歩いていく。


 アープリアの行動に、呆けたような顔をしていたトコオーマとジメイーキはすぐに顔を振ってアープリアに詰め寄る。


「なっ!? 突然どうされたのですか! アープリア様!」


「まだ治療をされておりませんぞ!?」


 歩みを止めることなく、アープリアは返答する。


「私は、治療をするためにここに来たわけではないですから」


「では、何をしにここへ!?」


「ただの情報収集です」


 きっぱりと言い切ったアープリアに、トコオーマ達は絶句する。


「こ、この惨状が目に入らないのですか!? 皆ひどい怪我をしております! アープリア様の『聖財』でなくては、完治することは出来ないのですよ?」


「でも、命に別状はないのでしょう? 良かったですね。命を奪おうとしていたのに、その程度で済んで」


 アープリアは、とても綺麗な笑顔を浮かべていた。


「な、何を……? そのような事は一言も……」


「そうですか? しかし、お話いただいた内容から、そう外れている内容ではないでしょう。ランターク様の親衛隊が街道にいて、カッステアク様達の護衛騎士である貴方たちが、トコオーマを連れて向かう理由なんて、そんな下劣なことしかないのですから」


 アープリアは広間の出口まで到着すると、振り返る。


「では、ごきげんよう。怪我の治療にはそこら辺の薬でも使っていてください。あなた達には、それで十分でしょう」


まだ追いかけようとしてくるジメイーキとトコオーマを護衛騎士たちが追い払っている間に、アープリアは広間を離れた。

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