第69話 友達になろうよ
ビジイクレイトは、上を見た。魔聖具の灯りが部屋を灯している。
上等な灯りだ。
アイギンマンの屋敷にあったモノと比べても、遜色がない。
「……どこまで知っている?」
「さぁ? 言ったでしょう? 町長のカツラの情報を持っているって」
「俺の情報はどこかの町の町長のハゲ頭か」
「調べる手間は同じくらいだね」
ビジイクレイトは視線を落として、今度は床を見る。
敷かれているカーペットも、質がいい。
赤い光沢が、とても綺麗だ。
しかし、何の模様もない。
「対価は?」
「ん?」
「俺が情報を知りたいとして、俺は何を払えばいい? 俺が知っている情報なんて、大したモノはないぞ?」
「んー? 別に、何も教えてくれなくていいよ?」
「……どういう意味だ?」
「君がここにいる。君と直にあって話をする。君がどういう思考で動き、こちらの質問にどう答えるか。これだけで十分な情報だよ。『ビジイクレイト』」
ビジイクレイトは視線を上げる。
『闇の隠者』と目があった。
綺麗な顔と、目をしている。
恐ろしいと、思うほどに。
「……それで、『情報を与える』事も、情報になるわけか」
『闇の隠者』が、目を軽くそらした。
「ふっ……まぁ、どう思うかは君次第だ」
それすらも、情報なのだろう。
「……わかった。じゃあ、遠慮なく聞くことにする」
「そうか。勇者の居場所とかかい?」
「いや……『魔境の開拓』の依頼が出ている町はあるか?」
ビジイクレイトの質問に、『闇の隠者』ははじめて笑みを消した。
「……そろそろ『時期』だからね。いくつかあるけど、なんでそんな事を?」
「『魔境の開拓』で欲しいものなんて、決まっているだろ?」
「そりゃあ、『魔聖石』だろうけど……なんで君が? 必要にしているとは思えないのだけど?」
「『隠し事を暴く』のが『闇の隠者』じゃないのか?」
ビジイクレイトの回答に、『闇の隠者』は目を開く。
「はは。そう言われると、これ以上は聞けないね。わかった。この疑問の回答は、自分で暴くことにしよう」
『闇の隠者』が合図を出すと、女幹部のような女性が部屋から出ていく。
「……彼女をもう一度退室させたのは、はじめてだよ」
『闇の隠者』は嬉しそうに弾んでいる。
「資料なんて、事前に準備している分で事足りるからね。君の質問は、完全に想定外だった」
年相応の笑顔のまま、『闇の隠者』がビジイクレイトをじっと見る。
「勇者は今、北にいる」
「はぁ?」
「北で、『仲間』を探しているのさ。ノールィンの『聖剣士』が仲間になる前に、何人か試しておきたいんだろう。勇者の仲間は、入れ替わりが激しいからね」
「……聞いてないぞ?」
「情報を与えることも、情報だよ」
『闇の隠者』が優雅にお茶を飲む。
『ふむ、勇者が北にいるなら、向かうべきじゃないかい?』
いつの間にかマメが復活した。
『……話していいのか? 聞かれているぞ?』
『心配するな! すでに僕の封印はアップデートされている!『完全究極アルティメット封印式パーフェクトα』は、何者にも破られない!』
『なんで、Ωからαにダウングレードしているんだよ。Ωが最後で、αが最初だぞ?』
ビジイクレイトのツッコミを、マメは聞いていない。
テンション高く、一人でペラペラしゃべり出す。
『だから、例えば主が勇者の情報ではなく『魔境』の情報を欲しがったのは、PVが少ない状況で勇者と会うのが怖いから。『魔境の攻略でカッコよく活躍してPVを稼いでから勇者に会おう』という情けない魂胆であることを言っても、何も問題ないのだよ!』
「……勇者に会うのが怖い、ねぇ。へーそんな理由なんだ。PVってのはよく分からないけど」
『闇の隠者』が笑っている。
「破られているじゃねーか!!」
『ウガァアアアアアアアア!?』
ジタンバタンとマメがガのように暴れた。
そんなマメを二人は無視する。
「それで、PVってのはなんだい?」
「説明してもわからないし、調べてもわからない事、だろうな」
「さっきも言っていたよね。なるほど、『神財』の能力に起因する固有の要素、か。情報では君の『神財』はただの板って話だけど、色々ありそうだね。その使い魔も、ビジイクレイトの『神財』が関係しているのかな?」
『闇の隠者』は一を知ると百を理解するタイプのようだ。
「……『魔境の攻略でカッコよく活躍してPVを稼いでから勇者に会おう』か。活躍ってことは、他者の評価が関係している? 神への信仰に近い要素かな? 人からの賞賛を力に変えるタイプの能力?」
「やめろやめろ。何気ない一言でドンドン推理していくな。持ち主よりも詳しくなりかけているよ。するなら、せめて俺のいない所で一人でしてくれ」
ほとんど合っていて、もはや恐怖である。
ビジイクレイトよりも、『キーボードタブレット』への理解が深くなりそうな事も含めてだ。
『闇の隠者』をビジイクレイトが恐れていると、女幹部のような格好の女性が、手にいくつかの書類を持って帰ってきた。
その書類を受け取り、『闇の隠者』は内容を軽く確認してからビジイクレイトに渡す。
「……今から現地に向かって間に合いそうな『魔境の開拓』の公募を予定している場所は、5つだ。君がどこを選ぶのか、非常に興味深いよ。これからも、仲良くしてくれると嬉しいな。友達になろうよ、ビジイクレイト」
『闇の隠者』の笑顔の申し出に、ビジイクレイトも笑顔で答える。
「絶対に、イヤだ」
こうして、ビジイクレイトと『闇の隠者』は出会ったのだ。
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