第68話 『闇の隠者』
「……貴族、か?」
「いや、違うよ」
ビジイクレイトの確認を、少年は否定する。
嬉しそうに。
「なるほどね。やっぱり面白い。隠そうとしていた正体を言い当てられたのに、動揺するでもなく、情報収集に即座に切り替えるなんて、集めていた話と色々違うし、聞いていた話と同じだ」
「……誰から?」
「聞いていたかは、教えられないなぁ。これでも『闇の隠者』だからね」
おそらくは、とても険しい顔をしているだろうビジイクレイトを見て、少年は楽しそうに笑っている。
「というわけで、僕が『闇の隠者』だ。よろしく」
「名前は名乗らないのか?」
「君も名乗っていないだろう? 呼んでほしい名前があるなら、先に教えてくれないと。『知っていること』でしか、人間は判断できないんだから」
ビジイクレイトとおそらくは同い年……一二歳の少年が、煙に巻くような……本心を隠すような言い回しをしている。
彼に対して、微かな苛立ちと、確かな畏怖と、敬意が混ざる。
「……失礼した。申し訳ない」
「ふふ。いいよ。僕は君の事が気に入ったからね。さて、それじゃあ『交換』を始めようか」
「……『交換』?」
ビジイクレイトの疑問に、『闇の隠者』も不思議そうにする
「ああ、そうか。君は偶然迷い込んできたんだったね。ここは『闇の隠者の隠れ城』。世界中の『隠し事』を集め、『隠し事』が集まる場所。簡単に言えば、『情報屋』さ」
女幹部のような女性が、飲み物を持ってきた。
とても香りの良いお茶だ。
「町長のカツラ疑惑から、貴族の不正まで……あらゆる『隠し事』がここにはある。もっとも、一番多い仕事は迷ってしまった愛玩動物の捜索とか、薬草や食材の調達とかだけどね」
ケラケラと少年は笑う。
「まぁ、色々な仕事を平民や貴族に頼んで、その過程で情報を集めているのが『闇の隠者の隠れ城』」
少年の説明を聞いて、ビジイクレイトの肩にいたマメが脳内に話しかけてくる。
『つまり、『冒険者ギルド』の総本山!! って感じの場所だね。最近流行の!これはPV爆上がりでは!?』
「んーその『冒険者ギルド』ってのは分からないけど、平民達の中でも『冒険者』って呼ばれる人たちにお仕事をお願いすることは多いかな?」
『ヘッ!?』
『闇の隠者』の少年の言葉に、マメが明らかに動揺を見せる。
「あ、あー。もしかして、内緒のお話だった? ダメだよ。僕は『闇の隠者』なんだから。隠そうとされると、余計に暴きたくなっちゃうでしょ?」
どうやら、『闇の隠者』の少年は、マメが見えるうえ、マメの『封印』を破って、マメの発言を聞いていたらしい。
『バ、バカな……僕の『封印』が破られるなんて……』
『……ドンマイ。おまえの『封印』がどれだけスゴかったのか、よくわからんけど』
『生涯破られる事のなかった、僕の『完全究極アルティメット封印式パーフェクトΩ』ガァアアアアアアア!!』
『やめろやめろ。言葉を重ねるごとに可哀想になっているって。それに、生涯ってお前、昨日産まれたばかりじゃないか』
マメはビジイクレイトの話を聞いていないのか、ジタバタと空中を暴れている。
『……そんなにバタバタされると、ガにしか見えないな』
『ガァアアアアアアアアアアアアア!!』
「ふふ……面白いね。その使い魔」
「あ……ああ。申し訳ない。マメのことは気にしないでくれ」
「マメっていうんだ。かわいいね」
かわいいだろうか。ただのうるさくて小さい本なのだが。
しかし、感性は人それぞれである。
「それで、なんの話だっけ。ああ、『交換』って話だが、それは、情報の交換という話なんだよな? 俺は特に欲しい情報なんてないんだが……」
「あれ? この城に泊まりたいとかいっていなかったかい?」
からかうように『闇の隠者』は笑う。
「それは、ただの嘘だ。何もないでは、逆に警戒されるかもしれないと思ってな。挨拶もしたし、大人しく出て行くから気にしないで……」
「君の従者たち二人は、無事にアイギンマンの屋敷で保護されたよ」
唐突に、『闇の隠者』は言った。
「……どうして、それを?」
「どうしてその情報を知っているのか、という意味なら答えられない。まぁ、これくらいは調べることが出来ると思ってもらえればいい。どうしてその情報を伝えたのか、という意味なら、信用としてもらいたいと思ってね」
『闇の隠者』がお茶を飲む。
その所作は、とても優美だ。
「さて……勇者の情報も、欲しくないかい?」
空気が、冷たくなった。
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