第67話 『闇の隠者の隠れ城』
とりあえず陸地に降りたビジイクレイトは、海亀を戻す。
消費PVは75PV。今のビジイクレイトでは、消費した分を稼ぐのに半日はかかる量である。
呼び出すのに『浦島太郎』の物語のアプリを購入するのに合わせて、200PVもすでに消費している。
累計PV:1402PV 残りPV:127PV
これが今のビジイクレイトのPV数だ。
1日におおよそ100PVしか稼げないのだ。
しばらくは、物語のアプリから何かを使用することは出来ないだろう。
「へー。その亀、使い魔だったの? 隠者様が面白い客が来たって言っていたけど、本当に面白い」
悪の女幹部のような女性が、目を好奇心で輝かせながらビジイクレイトを見ている。
(さて、どうするか……)
女性に敵対心はないようである。ならば、友好的に接する方がいいだろう。
「……こんばんは。夜分遅くに申し訳ございません。実は道に迷ってしまいまして。使い魔に『安全』な場所に連れて行くように命じたところ、こちらにたどり着いてしまったのです。家の端でもかまいせん。どうか、一晩、屋根のあるところで過ごさせていただけないでしょうか」
右手で握り拳を作り、それを左手で掴んで前に出して頭を下げる。
貴族がする腕を交差させて手のひらを見せる挨拶とは違う、平民が目上の者にする挨拶。
それを見て、悪の女幹部のような女性は、目を瞬かせる。
「……こんばんは。頭を上げてください。ここは『闇の隠者の隠れ城』。私は主人ではございません。願い事は、我が主にされるほうが良いでしょう」
出会った時とは違う、品を感じる優しい声に、ビジイクレイトは少しだけ驚いてしまう。
「ふふ……さぁ! まいりましょう。我が主が待っておりますわよ!!」
また、ハイテンションに戻った女幹部のような女性は、ビジイクレイトを先導する。
『……『闇』とか言っていたけど、いいのかい?その、安全的な意味で』
マメが脳内に話しかけてきた。
『ああ、別に闇って、悪とかいう意味はないからな? この国の場合。 あの人は悪の女幹部っぽいけど。敵対心もなさそうだし、急にお邪魔したのは間違いじゃない。挨拶くらいはしないとな』
訪問した理由付けのために、泊まらせてほしいと言ったが、別にこのまま追い出されても問題はない。
ただ、妙な疑いや警戒心をもたれたくなかっただけだ。
『別の国では違う、と?』
『……ランターク達の出身地。西の国では闇を忌諱しているはずだ。この国では、『闇』は悪ではなくて、『隠し事』とかの意味が強い』
『つまり、彼らは『隠し事の隠者の隠れ城』に住んでいるという事か』
『……わざわざ言い換えなくてもいいよ』
牢屋のような格子の先にある扉をあけて進むと、石造りの堅牢な壁が続いていた。
城、ということに間違いはないようだ。
ビジイクレイトが住んでいた屋敷と遜色ない頑強さを、建物から感じる。
川を引き込んでいる地下から階段を上がって、一階に出る。
そこからさらに二階に向かうと、応接間に案内された。
「ここで待っていてね。主を呼んでくるから」
悪の女幹部のような女性が退室する。
『……思ったより、豪華だったね』
『いろいろ調度品が並べられていたけど、中位の貴族程度の格はありそうだ』
海亀の早さで一時間泳いでここまできた。
ギリギリ、アイギンマンの勢力圏の外だろうとは思う。
しかし、一応近隣の貴族の名前をビジイクレイトは覚えているのだが、『闇の隠者』という貴族に覚えがない。
(……貴族並の資金と権力がある平民か? もしくは、貴族が地位を隠して何か活動している? 後者の方が確率は高いか)
『貴族だったらどうするのかね?』
『……勝手に心の中を読むなよ』
『心の中と頭の中。違いはあるのかい?』
マメが唐突に哲学的な問いかけをしてきた。
その答えは知らない。
『バカなこと言ってないで、来たぞ』
扉が開き、女幹部のような女性が入室してくる。
その後ろには、ビジイクレイトと同じ年頃の少年がいた。
金髪と銀髪、赤と青の四色の髪。
それらが複雑に混じり合っている少年は、ビジイクレイトを見て嬉しそうに笑う。
「ようこそ、僕の城へ。歓迎するよ、『ビジイクレイト』」
少年は、当たり前のようにビジイクレイトを名前で呼んだ。
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