第64話 ヴァサマルーテの『聖剣』

 樹木が切れる。


 岩が切れる。


 ヴァサマルーテが『聖剣』を振る度に何かが切断されて、地面に落ちている。


 それがいつ、自分の首になるのか。


 ビジイクレイトは恐怖と戦っていた。


『死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死んでしまう!』


 恐怖から、頑張って逃げていた。


『格上相手に守勢は、殺されるようなモノでは?』


『攻勢に出ても殺されるだろ、こんなもの!』


 頭上で振るわれたヴァサマルーテの剣は、ビジイクレイトの髪を一房切り落とした。


『……水を纏った剣による斬撃。普通、剣の重さは、大体一キロ前後。しかし、あの剣の周りにある水は20リットル以上はあるだろう。20キロの重さが有れば、一般的に大剣と呼ばれる剣の重さを越えている。なるほど、そんな剣を普通の剣のような鋭さで振るえば、樹木など簡単に切れるだろうね』


『木だけじゃなくて、岩も切っているんだけどね!』


 しかも恐ろしいことに、そんな重量のある剣を、ヴァサマルーテは軽々と振っているのだ。


 攻撃なんて出来るわけがない。


『『聖財』で生成した物体に重量は発生しないのか? つまり、昨日『お菓子の家』で剥ぎ取った『お菓子』も、重さはない?』


『そんな事言っている場合か! 死ぬぞ! このままだと、俺!』


『そんな事とは何だね! 重さがない『お菓子』とは、つまりは太らないお菓子という可能性もあるということだ。乙女にとっては重要な問題だろう』


『そんな事だよ! やっぱり!!』


 ヴァサマルーテの攻撃を剣で受ける。


 切り落とされなかったが、ギリギリだ。


 何回も受けることができる威力ではない。


『まったく。乙女心がわからない主だ。だいたい。この状況で僕にどうしろと?……呼び出す? 英雄?』


『PVが足りねーよ!』


 どうか、どうか清きPVを!


 そんな事を祈りながら、ビジイクレイトはヴァサマルーテの攻撃を受けて、避ける。


『……ん?』


 すると、ヴァサマルーテがビジイクレイトから距離を取った。


『オ? しつこい男が嫌われた?』


『攻撃されていたの、俺なんだけど……』


 というか、距離をとるなんて、このあとのヴァサマルーテの行動は一つしかない。


「『神火の鞘』」


 ヴァサマルーテが、胸に手を当て、鞘を取り出した。


 ヴァサマルーテの『神財』。


『聖剣士』の『神財』。


 それが、ただの鞘なわけがない。


『おや、剣を鞘にしまったようだよ? 良かったね、このまま見逃してもらえそうで』


『それならいいけどな……』


 ヴァサマルーテが『光湖の長剣』をゆっくりと『神火の鞘』に納めていく。


『光湖の長剣』の周りに浮かんでいる20リットル以上の水と共に。


『……なぁ、俺の見間違いじゃなければ、バチバチって音がしていないか?』


『ソレに、光っているね』


 バチバチと音を立てる光。


 鞘に納められる大量の水。


『……電気分解?』


『だな』


 その単語から導き出される、このあとの結果に、ビジイクレイトは慌てて胸に手を当てた。


(電気分解、水素の発生、水の圧縮……つまり……)



「『電光神火』」


 それは、『聖剣士』ヴァサマルーテの必殺技。


 強大な爆発が、ビジイクレイトの体を包み込み、周囲の木々と、橋を含め、全てを粉砕した。

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