第62話 カッステアクとカッマギクの必殺技

「『ケモノ』には過ぎた技だが、見せてやろう。これが、我が『神財』。『黄金の王剣』の力だ!」


『……黄金って、アレ、メインは赤色だよね?』


『今から必殺技が飛んでくるから、チャチャと入れるな!』


 ビジイクレイトがマメにツッコんでいる間に、カッステアクが上段に構えている。


「王者の力の前にひれ伏せ……『スラッシュ』!!」


「うおっ!?」


 危険を感じて、ビジイクレイトが頭を下げる。


 すると、ビジイクレイトの頭上を斬撃が通り過ぎていった。


 斬撃はそのまま飛んでいき、大きく樹木に傷を付ける。


『……危なっ!』


『『スラッシュ』って、ゲームの初期技じゃん。プークスクス』


 マメは笑っているが、ビジイクレイトにしたら笑えない話である。


 直撃すれば、おそらくは首が落ちるのだ。


 十分驚異である。


「……む? 外した? 私の必殺剣が?」


「兄上の『スラッシュ』は威力が大きすぎて、まだ制御が出来ていないとおっしゃられていたではないですか。それに、私に見せ場を用意してくれたのでしょう?」


 カッマギクが後ろを指すと、カッステアクは仕方ないとばかりに苦笑する。


「そうだな……では、あの『ケモノ』へのトドメは、愛する弟に任せるとしよう」


「ええ、見ていてください」


 カッマギクが嬉しそうに前に出ると、青色の杖を構える。


「見るがいい、皆のモノよ。我が『黄金に輝く賢者の杖』が、『ケモノ』を退治するその瞬間を」


『『黄金に輝く』って!青じゃん!杖の色、青じゃん!!何か力を込めているっぽいけど、ずっと青色じゃないか!いつ、黄金に光るのかい?』


『だから、茶化さないでくれって、魔聖法の必殺技とか、避けられるか分からないんだからな!』


 カッマギクの杖の先に、炎の塊が現れる。


 その塊は、どんどんと大きくなっていく。


「燃え尽きるがいい……『ファイヤーボール』!!」


 大きくなった火の玉が、ビジイクレイトに向けて飛んでくる。


「ひぃっ!?」


 その火の玉を、上体を逸らして何とか避ける。

 

 火の玉が当たった樹木は、メラメラと燃えだした。


『『ファイヤーボール』って、だから、なんで先ほどから、彼らはゲームの初期技みたいな技ばかりなんだい?『黄金』も関係ないじゃないか!』


『ゲームの初期技でも当たったら死ぬからな?』


『黄金』が関係ないのは、ビジイクレイトも少し気になる所ではある。


『ソレに、先ほど撃ってきた『聖火球』とかいう技との違いがわからなかったのだが?』


『『聖火球』よりも、大きかっただろ?』


『ピンポン球が、バスケットボールになった程度の差だったよ?』


『……十分違うじゃないか』


 実際、バスケットボールサイズの火の球が飛んできたら普通に怖いし、普通に死ねる。


 怖い必殺技だ。


「私の『ファイヤーボール』が当たらなかった、だと?」


 カッマギクが驚愕の顔を浮かべていると、カッステアクが彼の肩に手を押く。


「落ち着け、我が弟よ。あの卑劣なる『ケモノ』は、昔から避けるのだけは得意だったじゃないか」


「兄上……」


 カッステクアクは、そのままビジイクレイトを指さす。


「それに……なにやら妙な外套を着ている。もしかしたら、アレが我らの技を狂わせたのかもしれない」


「『魔聖具』だ、と? 『ケモノ』ごときが……どこで手に入れたのだ。まさか、あの従者たちが?」


「かもしれないな。まったく、優秀だというが、あのような『ケモノ』に力を貸すなど、我らの下に付けたら、十分な調教を施さなくてはいけないなぁ」


 何を想像したのか、イヤラシい顔で、カッステアクとカッマギクは笑う。


(ロウト達の話か?)


 正直、カッステアク達が現れてから、ずっとロウト達のことが気になっていた。


 しかし、彼らについてカッステアク達に尋ねなかったのには、理由がある。


(……この流れなら、もしかして……)


「なぁ、ロウト達は無事なのか?」


「黙れ『ケモノ』が! 口を開くな!」


 カッステアク達と、周囲にいる取り巻き達から罵声が飛ぶ。


(やっぱり、聞けないか)


 ロウト達のことが心配でも、質問出来なかった理由は、単純に彼らが答えてくれるわけがないと思ったからだ。


(でも、調教とか言っていたから、生きてはいるみたいだな。そこだけは一安心……まぁ、調教ってのが気持ち悪いし、どうにかしたいけど……)


 しかし、ビジイクレイトには何も出来ない。


 権力も、実力も、ビジイクレイトには足りないからだ。


 そして、権力も実力もある者達が、ビジイクレイトを害そうとする。


「お前達。その『ケモノ』の卑怯な衣を剥がせ! 我らが高貴なる技を阻む邪悪な毛皮だ!」


 ビジイクレイトが着ている『威風の外套』を剥がせば、自分たちの必殺技が当たると考えたのだろう。


 取り巻き達に、ビジイクレイトを襲うようにカッステアク達は命じる。


 その命令に、取り巻き達は嬉しそうに答えた。


 彼らもまた、弱くて醜い『ケモノ』であるビジイクレイトを痛めつけたいと思っていたのだ。


『……さて、どうする? 主?』


『どうするも何も……逃げたいけど……』


 取り巻きの包囲が一番緩い場所は、急流にかかっている橋の方角だ。


 しかし、橋は狭く、あそこに向かって逃げ出せば、背後から魔聖法を撃たれて終わりだろう。


『諦めて、皆殺しにするしかないだろう? こんな奴ら』


『だから、それは無理だって……』


 とりあえず、ビジイクレイトがじりじりと橋の方へ足を動かしていたときだ。


「待ちなさい」


 とても澄んだ声が、周囲に響いた。


 その声が聞こえた瞬間、カッステアク達と、その取り巻き達が、声を聞こえた方を向き歓喜の声を上げる。


「そこを、どきなさい」


 歓喜の声を分けるように現れたのは、初夏の湖と光を思わせる美しい髪の少女だった。


 彼女は魔聖馬に乗りながら、ゆっくりと近づいてくる。


「……聖剣士様、か」


『聖剣』を手にした少女。


 ヴァサマルーテが、じっとビジイクレイトを見ていた。

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