第61話 イキリ雑魚顔

『主よ……今、アナタの頭の中に話しかけています』


『唐突になんだよ』


 カッステアクたちが登場し、因縁の相手だとよく分からないテンションになっていたマメが、急に頭の中に話しかけてきた。


『…………驚いたりしないのかい。てっきり、「うわっ!? なんだ!? なんだこの声!?」という、ありきたりな反応を見せてもらえると思ったのに』


『ありきたり、って分かっていて面白いのか? その反応。というか、頭の中に話しかけてくるなんて、定番だろ? 慌てるような事態じゃないね。小説投稿歴3年をナメるなって話だよ』


『なんだ、タダの中二病か』


『やるのかこのやろう』


 ビジイクレイトは声には出さないが、力を込めてマメを睨みつけた。


「……おい! どこを見ているんだ、『ケモノ』!」


 カッステアクが怒声と共に剣を振る。

『神財』の剣だ。


『……どこを見ているって、もしかして、あいつ等にはマメの事が見えていないのか?』


『そうみたいだね。別に隠しているつもりもないが、どうやら僕を見るだけの実力がないようだね』


『え、そんな設定あるの?』


 実力者しか見えないなんて、どういう理屈なのだろうか。


『というか、そうなると俺に見えるのはおかしくないか? カッステアク達には見えないんだろ?』


『え? 主は、あんな冒険者ギルドで主人公に因縁つけて、速攻でボコボコにされる、イキリ雑魚のような外見の奴らよりも弱いのかい?』


 カッステアク達の印象がヒドい。


 しかし、マメの質問の答えは、『はい』だ。


『見たら分かるだろ? カッステアク達の方が俺より体格は二周りは大きいし、持っている『神財』も剣と杖だ。勝てるわけがない』


『そんなことを言っているのに、先ほどからイキリ雑魚顔達の攻撃を避け続けているようだけど?』


 カッステアクが振った剣が、ビジイクレイトの頭上をかすめる。


 実のところ、先ほどからカッステアク達がビジイクレイトに襲いかかっているのだ。


『避けることで精一杯なんだよ。そんな奴が強いわけないだろ?』


『相手は二人がかりだよ?』


「『聖火球』」


 カッステアクの剣を避けたところに、カッマギクが放った火の玉が飛んでくる。


 ビジイクレイトは慌ててその場を飛び退いて、なんとか回避する。


 そんな必死な様子のビジイクレイトを見て、カッステアクもカッマギクもニヤニヤと楽しそうだ。


『避けられているのは、相手が本気じゃないからだ。見ろよ、あの余裕そうな顔。ああやってじわじわ追いつめるのが好きなんだよ』


『……ウーン。クズだなぁ』


 そこに異論はない。

 異論はないが、状況は打開できない。


 カッステアク達の攻撃を避けている間に、次々と馬が駆ける音が聞こえてきた。


「カッステアク様、カッマギク様!」


 まだ幼さの残る声だ。


 おそらく、カッステアク達の取り巻き達がやってきたのだろう。


『うーん、マズいかな』


『全員ブッ飛ばせばいいのでは?』


『出来るか、そんなこと』


 物理的に無理である。


 カッステアク達の取り巻き達は下位の貴族だが、ビジイクレイトよりも強いのだ。


『それにしても、人数が減っている……? 選別でもしたか?』


 多いときは30人近くは取り巻きがいたはずだが、やってきたのは10人ほどだ。


『全員、剣か杖の『神財』持ち? 下位貴族のエリートってわけか』


 取り巻き達はビジイクレイトを逃がさないように取り囲むと、それぞれ『神財』を出す。


 全員、見事に剣か杖を構えていた。


「退路を塞ぎました! 偉大なるカッステアク様とカッマギク様が醜悪な『ケモノ』を退治される! その勇姿を目に焼き付けるぞ!」


 取り巻きのまとめ役なのだろうか。

 金色の剣を持った下位貴族の少年が、取り巻き達に声をかける。


 その声に呼応するように、ほかの取り巻き達も雄々しく叫んだ。


「おお、醜悪なる『ケモノ』に死を!」


「偉大なるアイギンマンの恥さらしめ!」


「『ケモノ』らしく、惨めにここで死ね!」


『……よし、皆殺しだ』


 マメが冷たい声で言う。


『いや、だから無理だって。話聞いていたのか?』


『えー、殺りたまえよー。 ここで、あのイキリ雑魚顔達を綺麗に殺せば、PV稼げるって。自信がないなら、物語のアプリで、適当な英雄でも呼び出せばいいだろう?』


『物語アプリの英雄って、そんなに強いのか?』


『桃太郎とか呼び出せば、あの程度の雑魚。一瞬で胴と体が分かれるよ?』


『胴と体が……? って、ちょっと待って、それどういう状態? 胴だけ切り取られるの?』


 一瞬で2回切って、胴だけ落ちるのだろうか? なにそれ怖い。


『もしくは、尻が二つに割れる』


『……尻は元々割れているだろ?』


『そのまま、いける所まで割れる』


『一刀両断って意味だよな、それ!』


 カッマギクが放った魔聖法を、ビジイクレイトは避ける。


『……それで、その英雄を呼び出すのはどれくらいかかるんだ?』


『10000PVダネ』


『払えるか、そんなもん!』


 物理的に無理である。今のビジイクレイトの残りPVは402PVなのだ。


『では、自力でさっさとどうにかしたまえ。雑魚への舐メプは、もう飽きたのだよ』


『舐メプなんて、してないんだよなぁ……』


 ほとんどマメとの会話しか描写していないが、ずっとカッステアクとカッマギクからの致死の攻撃を避け続けているのだ。


 ぶっちゃけ死闘である。


 しかし、死闘なのはビジイクレイトだけで、カッステアク達は遊んでいるのだろう。


「兄上、そろそろアレを使ってもよろしいでしょうか?」


「……そうだな。そろそろ、遊びは終わりにしてやろう」


 カッステアクも言っているので、やはり遊びだったようだ。


 なにやら後方を気にしているカッマギクが、カッステアクに告げると、それに答えてカッステアクが大きくうなづき、ビジイクレイトから距離を取った。


 どう考えても、大技の予感である。


『ほら、見ろよ。遊びは終わりってさ。どうしよう……』


 どちらかと言えば、舐メプをしていたのはカッステアク達の方である。


『……ガンバレー』


『他人事だな、ちくしょう!』


 実際、他人事だろうけど。


 ビジイクレイトは重心を低くして、何が来ても対応出来るように構えた。

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