第60話 『お菓子の家』

 小説を投稿して22日目 累計PV:1402PV 残りPV:1002PV 


 夜が沈み、光が満ちていくのを感じながら、ビジイクレイトは身を起こす。


「……お菓子の天井だ」


 上を見て、横を見て、周囲が色とりどりのお菓子に囲まれていることを確認して、ビジイクレイトは伸びをした。


 あのあと、結局ビジイクレイトは『ヘンゼルとグレーテル』のアプリから、さらに100PVを消費して『お菓子の家』を呼び出した。


 すでに購入した『ヘンゼルとグレーテル』のアプリを使わないのは、もったいない気がしたのだ。


 もっとも、マメからは『損切りも出来るようにならないといけないよ?』と言われたが、そんなモノは無視だ。


「まぁ、食べるモノがあるのは便利だしな」


 適当にそこら辺の壁からクッキーを剥がし、蛇口から出るオレンジジュースをチョコレートで出来たコップに入れて、ビジイクレイトはテーブルに座る。


 基本的に甘いものばかりだが、冬の山ではカロリーは大切だ。


 サクサクとしたクッキーをジュースで流し込んで、ビジイクレイトは食事を終える。


「おはようだよ、主」


 ふよふよと眠そうにしながらマメが飛んできた。


「……おはよう。というか、眠るんだな」


「僕は高性能AIだからね。朝は苦手なのだよ」


 言いながら、マメはビジイクレイトの頭の上に着地すると、スヤスヤと眠り始めた。


「……高性能AIは朝が苦手なのか。一応聞くけど、食事はいらないよな?」


「今はいらない」


(今ってことは、後でいるのか?)


 何枚かクッキーとチョコレートをはぎ取り、適当に布に包んで背嚢に入れる。


 身支度を整えると、ビジイクレイトはお菓子の家を出た。


 昨日は、お菓子の家を出したのが夜だったので、よく分からなかったが、朝になって見てみると、思ったより派手な外見をしている。


 おいしそうだが、とても目立つ。


「これは、人目がない場所で使わないといけないな」


 ビジイクレイトはお菓子の家を元に戻すために、『キーボードタブレット』を操作する。


『『お菓子の家』を戻します。9時間57分使用しておりましたので、600PV必要になります。もどしますか?』


 はい。


 と選ぼうとして、ビジイクレイトは固まる。


「え……PVが必要?」


「……ん? ああ、説明していなかったかね。童話などが書かれた物語アプリで呼び出したモノは、呼び出した時間に応じてPVが必要になる」


「うそだろぉおおおおおお」


 ビジイクレイトは頭を抱える。


「マジか……PV使いすぎだろ、この『神財』10時間で600PVとか、この小説はせいぜい一週間で600PVだぞ?」


「……悔やむのはいいが、主よ。悩んでいる間に必要になるPVが増えるぞ?」


「うおおおおい!?」


 ビジイクレイトは、慌てて『お菓子の家』を消す。


 なんとか、600PVの消費のままですんだ。


『お菓子の家』の消費PVが一時間単位で助かった。


「くそ……俺のPVが……PVが消えていく」


 1002PVから600PV減ったので、今のビジイクレイトの残りPVは402PVである。


「ドンマイ」


 とりあえずビジイクレイトはマメをグニグニする。

 八つ当たりだ。


 ギャーギャー文句を言っているので、しばらくして離してあげる。


「……行くか。今日中に町に着かないと……もう一泊分『お菓子の家』を出す余裕はない」


「ゴーゴー」


 ビジイクレイトは、少し急ぎながら、町へ向けて山を下り始めた。






「ここから北に1キロほど行くと街道があるよ」


「ありがとう。助かった」


 山を下ると、人がいる町に出る。


 なんて、そんな甘い話はない。


 というか、基本的に遭難したときは山を登るのが正解だったりする。


 頂上付近には山道があるし、上から道を調べることが出来るからだ。


 もっとも、それは山登りがレジャーとして確立していて、山道が整備されているからなのだが、どちらにしても、無闇に山を下っても遭難する確率が高いのは変わらない。


 ビジイクレイトも、特に考えずに山を下ってしまい、道に迷ってしまった。


 なので、マメに頼んで空から町か、町へ続く街道を探してもらうことにしたのだ。


 もう、昼の鐘は鳴っている。


「街道に出て、夜までに町へたどり着けそうか?」


「微妙、だね。ギリギリになるかも」


「マジか……」


 文句を言ってもしょうがない。


 ビジイクレイトはしばらく歩き、ようやく街道に出た。


「久しぶりの人の道だ……なんか、安心するな」


 街道に用意されている、ちょっとした広場のような場所で、ビジイクレイトは腰を下ろした。


 朝から歩き続けていたのだ。


 疲労が溜まっている。


「お昼ご飯は食べないのかい?」


「食料は用意してないよ……」


「『お菓子の家』ではぎ取ったモノがあるじゃないか」


「はぁ? あれはもう消えただろ。『お菓子の家』が消えたんだし」


 言いながら、ビジイクレイトは背嚢を調べる。


「……なんであるんだ?」


 ビジイクレイトは、自分で取り出した布で包んであるお菓子に首を傾げる。


 確かに『お菓子の家』ではぎ取ったモノだ。


「モノによっては、消しても残るんだよ」


「マジか……」


 思ったよりも、便利なのかもしれない。『キーボードタブレット』


「って、だったらもっと沢山はぎ取っておけばよかった……クッキーもチョコレートも、高級品だぞ!」


「……ドンマイ」


「ちくしょうめぇえええええ」


 もったいないことをしたと思いながら、ビジイクレイトはお菓子を食べる。


 腹を満たして、ビジイクレイトは空を見上げた。


 黒い月が、丸い。


「……そういえば、マメは食べなくてもいいのか?」


「今はいらない」


 朝と同じ答えをマメは返す。


「今は、っていつならいるんだ?」


「美少女女子中学生の時」


「中学生の時って……」


「100000PV消費することで、人型になるよ?」


「そんな機能が!? しかしお高いんですね!」


 調べると、本当にマメを人型にする機能があった。

 100000PVなんて、稼げる時がくるのだろうか。


 稼いでも、使う時がくるだろうか。


「『マメちゃん先輩』を美少女にするために、ビジイクレイトは、PVを稼ぐことにした」


「そんな予定はないが」


「またまたー。可愛いよ?『マメちゃん先輩』の人型モード」


「そんな予定はないが」


 ビジイクレイトの返事を聞いていないのか、マメが唐突に、パタパタと羽ばたいて自己主張を始める。


「ここら辺で、盗賊退治とかすれば、PVを稼ぐことが出来るのではないかい? バトル展開は人気だろ?」


「盗賊退治は定番だけど、人気が出る展開ってわけじゃないからな」


「じゃあ、因縁のある相手を、ボコボコにしよう」


「さっきから発想が物騒だな。というか、因縁のある相手って誰だよ。いたとしても、そう都合良く出てくるわけがないだろ」






 そんなことを思っている時期が、ビジイクレイトにもあった。


「見つけたぞ、『ケモノ』め!」


 街道を歩き、夜が登り始めた頃。


 あとは、流れの速い急流にかけられている橋を越えると、アイダーキの町にたどり着くという場所で、ビジイクレイトは馬に乗った人物達に足止めをされていた。


 その人物達は、大きな剣と、杖を持っている。


 剣を持っているのは、カッステアク。


 杖を持っているのはカッマギク。


 ビジイクレイトの、一応兄である。


「因縁の相手……キター!!!」


 マメがよく分からないテンションではしゃいでいる。


 でも、確かに、彼らはビジイクレイトにとって因縁のある相手であろう。

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