第58話 マメ
「……人が眠っているのに、ピカピカ光らないで欲しいよ」
豆本が、なにやら喋っている。
「……では、お休み……グー」
「眠るな! お前が何か説明しろ!」
登場した途端、文句だけ言って眠り始めた豆本を、ビジイクレイトは叩き起こす。
「ムー……なんだい?」
「だから、お前が何か説明しろ」
「知りたい事があるなら、『AIアシスタント』を購入し、質問してみてはどうだろうか?」
「その『AIアシスタント』が、お前じゃないのか?」
ビジイクレイトの指摘に、豆本が黙る。
「………………なかなか良い勘をしているようだね。いいだろう、どうやら君は僕の主にふさわしいようだ」
「つまり、試していた、と?」
「ああ……合格だよ。見事だ、我が主……ブゲ!?」
ビジイクレイトはドヤ顔をしている豆本を地面にたたきつける。
「何をするんだい!」
「うるさい! 本のくせにドヤ顔していたのがはっきり分かったんだよ! 何が合格だ! お前が購入したAIじゃなかったら、逆に怖いんだよ」
ビジイクレイトは、豆本をつまみ上げる。
「く……まさか、せっかくの主が『DV主』だなんて……奴隷を購入した異世界主人公は、奴隷に優しくして、『ナデポ』するはずでは!?」
「お前は奴隷じゃないし、というか『ナデポ』とか知っているのか、お前。どこから得た知識だよ!」
パタパタと抗議している豆本に、ビジイクレイトは大きく息を吐く。
「まぁ、たたき落としたのは悪かったよ」
ビジイクレイトは豆本についている雪や汚れを落としていく。
「グ……暴力の後に優しくしてポイント稼ぎ……コレが『DV主』悔しい……でも、僕は屈しない!」
「その名称はやめろ」
汚れを落として、ビジイクレイトは改めて豆本を手に乗せて話す。
「……とりあえず、お前、名前は?」
「名前は主が決めてください。何にしますか?」
突然、命名を求められて、ビジイクレイトは面食らう。
「名前か、難しいな。本みたいな見た目だし、ビブリオとか?」
「かしこまりました。『マメ』ですね」
「おい!」
聞いてきたくせに、豆本は自ら『マメ』と名付けた。
豆本みたいだと思っていたので、問題はないのだが。
「これからは、僕のことは敬愛を込めて『マメちゃん先輩』と呼ぶがいい」
「誰が先輩だ。出てきて数分の小物がいきなり先輩面するなよ」
「見た目で判断すると、痛い目に合うよ?」
ぺしぺしと、豆本……マメが、ビジイクレイトの頭を叩く。
「……これが、まさか痛い目、か?」
何も痛くない。
ビジイクレイトが軽く睨むように見えると、マメは明らかに目をそらした。
……目がないのに、目をそらしたと分かることが不思議ではある。
「………………ヨシヨシ」
「撫でたことにして誤魔化してるんじゃねーよ!」
「ギャー、『DV主』!」
ジタバタと暴れるマメをビジイクレイトは捕獲した。
「って、こんなことしている場合じゃねーんだよ。そろそろ夜も登る。良いからお前は俺の質問に答えろ」
「どんな質問かな? まさか『スリーサイズ』とか? フッフッフ、いやいや。僕の妖艶な魅力に誘惑されたのは分かるが、そんな事を乙女に聞くんじゃあないよ」
「聞かねーよ! そんなこと! というかお前、メスなのか? 性別あるのか? AIだよな!?」
「ピチピチの女子中学生ダヨ?」
「どう見てもただの本じゃねーか。じゃなくて、天幕が必要なんだ。それで、いくつかPVを消費すれば天幕が使えそうだけど、どのアプリがオススメだ?」
ビジイクレイトの質問に、自称女子中学生の本。マメが少し悩んでから答える。
「天幕……テント……屋根があって、一夜を過ごせる場所が欲しいのかい?」
「ああ」
「ならば、『ゴドゾン』はやめておくことをオススメするよ」
天幕が必要だと思ったとき、真っ先に検討したアプリをマメは否定した。
「それは、なぜだ?」
「向こうの世界の物を、こちらで使うのは、少々危険だ。魔獣の事を考慮されていないから、脆いし、見られた時の言い訳を考えているのかい?」
「いや、まったく考えていないわけじゃないが……」
「でも、面倒だと思っただろう? ならば、やめたほうがいい」
マメの言うとおりだ。
下手に異世界の物を見せるのは、まだ早い。
「じゃあ、結局のところ、物語のアプリを使うのが良さそうか。これは、物語の中に登場するモノを使えるようになるアプリって想定しているが、間違いないか」
「大まかには合っているよ。物語の題名が書かれているアプリは、その物語に登場する人物やモノなどを呼び出し、使用することができるんだ」
「……人も呼べるのか」
「ああ。強力だし、協力的だ。その分、PVの消費も多くなるけどね」
本当に、ビジイクレイトの『神財』、『キーボードタブレット』にはPVが必要なようだ。
読者の皆様の清きPV。
お待ちしております。
「……何を祈っているんだい?」
「ちょっと、読者様に……」
お願いを終えて、ビジイクレイトはマメと向き直る。
「さてと……じゃあ、物語アプリを購入するとして、オススメはあるのか?」
「人に聞くだけではなく、自分で考えてみたらどうだい?」
「お前、アシスタントの仕事を放棄するなよ」
そもそも、人ではなくAIだろうに。
ただ、一度ビジイクレイトの考えを話した方が、マメも適切な答えを返せるだろう。
ビジイクレイトは少し悩んで、買うか悩んでいた物語のタイトルを言う。
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