第54話 騎士の追っ手

「……行くか」


 ロウトに顔を焼かれ、倒れている男達を少しの間見下ろしたあと、ビジイクレイトは目を閉じて言う。


「騎士団には連絡したか?」


「いえ。キーフェがまだ帰還されておりませんので」


 信用できない。とロウトは暗に告げている。


「……報告。というか、密告くらいはしたほうがいいだろう。このまま放置しておくと、さすがに死にかねないし」


「……お優しいことで」


 ロウトはゲルベに指示を出す。


 その指示が終わったあとに、ビジイクレイトは彼に近づいて、小さな声で言った。


「……すまなかった」


「いえ。私も……私が、許せなかったのです」


 ランタークの親衛隊を、目に見える形で害したのだ。


 しかも、『神財』を使用してだ。


 襲ってきたのは親衛隊の方だが、拘束して無力化してからなので、ロウトが罪に問われる可能性はかなり高い。


 しかし、ロウトはそのことをさほど気にしていないようだ。


「もし仮に、私がランタークに仕えることになっていたら……あの女はすぐに消し炭に変わっていたでしょうし」


 うっすらと笑うロウトに、少し寒気を感じている間に、ゲルベが騎士団への連絡を終えたようだ。


「色々な場所を経由して報告するように手配したので、時間はかかると思いますが、騎士団は来ると思いますよ」


「では、行きましょう」


 荷物を片づけ、広場を立とうとしたときだ。


 街道の方から馬の足音が聞こえてくる。


「……早くないか?」


 疑問を口にしたのは、ビジイクレイトだ。


 街道の方からやってきたのは、馬に乗った鎧姿の騎士たちである。


 人数は十名ほどだろうか。


「……おそらく、彼らはゲルベが連絡した騎士ではありません」


 ロウトが、ビジイクレイトの前に立つ。


「つまり……」


「追っ手でしょう。ランタークの」


 どちらにしても早い。


「……コイツらは、餌か」


 ランタークの親衛隊を見ながら、ビジイクレイトは言う。


「そうでしょうね。私達を襲うように誘導されていた可能性があります」


「嫌な予感しかしないな」


 魔聖馬の用意をしながら、いつでも発てるように、様子を伺う。


「おやおや、このような場所に『ケモノ』がいるとは。いや、森の中だからこそ、か」


 騎士の中で先頭にいた男が声を発した。


 その声に、ビジイクレイト達は聞き覚えが合った。


「……確か、カッステアクの側近の……ジ……ジメジメ?」


「ジメイーキだ! 人の名前も覚えられないのか、この『ケモノ』め!」


 鎧で隠れていた顔がはっきりとする。


 訓練所で教官もしていたジメイーキが、馬に乗って偉そうにしていた。


「……失礼いたしました。それでは、我々はこれで……」


 騎士たちの正体もわかり、狙いも読めてきたので、そのままビジイクレイト達はその場を離れようとする。


「まて。そこの男たちはなんだ?」


 ジメイーキは、白々しく倒れているランタークの親衛隊たちを指さす。


「……我々を襲った賊です。無力化しているので、あとは任せます」


「ヒドい有様だが……もしや『神財』を使用したのでは?」


 じっとりとした目で、ジメイーキはビジイクレイトをみる。


 使用したのは、ロウトだが、おそらくは彼にとってロウトはおまけだろう。


「……賊に対して、『神財』の使用は許可されているはずです。何か問題が?」


 答えながら、ビジイクレイトが答えている間に、ロウト達はじりじりと位置を変えていた。


 なにが起きても対処出来るように。


「おや? ジメイーキ様。彼らは、ランターク様の親衛隊では?」


 ジメイーキの背後にいた男が、わざとらしく声を上げる。


 彼だけ、なぜか鎧ではなく神官服を着ていた。


「トコオーマもいるのか……」


 神官で、明らかにランタークの派閥にいるトコオーマが、ジメイーキと共にいた。


 なぜ、彼がここにいるのか。


 理由はわからないが、いいことではなさそうだ。


「おお、さすがはトコオーマ殿。確かに、彼らはランターク様の親衛隊のようだ。これは詳しい話を聞かなくてはならないようだな」


 ジメイーキが、好戦的な笑みを浮かべ、胸に手を当てる。


「話を聞く、といいながら、『神財』を使うつもりか?」


「抵抗されるならば仕方がない。こちらには神官のトコオーマ殿がおられるのだ。彼を守るためならば、『神財』を使っても神は許してくださるだろう!」


 これが、トコオーマがこの場にいる理由のようだ。

 

 神から賜る『神財』を神に仕える神官を守るために使用する。


(なるほど、理屈は通る)


 ただ、その守る対象がトコオーマであることに、違和感しかないが。


 ジメイーキの手に、光り輝く剣が現れる。


 剣の『神財』。


 貴族にとって、もっとも望まれる力の証。


 他の騎士達も、『神財』を取り出す。


 全員、剣の『神財』だ。


 カッステアク達の護衛騎士は、全員、剣の『神財』持ちのようだ。


「ゲルベ! ビジイクレイト様を連れて逃げろ!」


 ロウトが叫ぶと同時に、ゲルベがビジイクレイトの体を抱えて、魔聖馬に乗る。


「ロウト!?」


「行きますよ、ビジイクレイト様!」


 ゲルベが魔聖馬を出すと同時に、広場の半分が炎に包まれた。


 

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