第52話 とても醜い話

 圧倒的だった。


 ビジイクレイト達を取り囲んだ五人の男達は、ロウト達によって瞬く間に制圧された。


 ロウトがハンカチを振ると、炎が舞い上がり、男達の動きを封じた。


 ゲルベが矢を放つと、電流が流れ、男達がその場に倒れる。


 そして、ブラウはぎゅっとビジイクレイトを抱きしめていた。


(【貴族の家を追放されたけど、ついてきた従者が優秀すぎて余裕です。】ってタイトルにしていた方がよかったかもな。強すぎだろ、ロウト達。いや、一人抱きついているだけの奴もいたけど……)


 といっても、ブラウの『神財』も優秀ではあるのだが。


 炎におびえ、電流にしびれた男達を縛り上げたロウト達は、リーダー格と思われる男をビジイクレイトの前に連れてきた。


「一応、顔を改めるか」


 もう、ランタークの親衛隊と名乗っているので、正体は判明しているのだが、一応確認してみる。


 仮面を取られた男は、金髪で、整った顔をしていた。


 年齢は二十歳前半くらいだろう。


「ランタークの従者の一人で間違いないかと」


 リーダー格の男の顔を見たロウトが、ビジイクレイトの伝える。


「ランターク様だ! 口には気をつけろ、『ケモノ』が!」


 呼び捨てにしたのはロウトなのだが、リーダー格の男はビジイクレイトを睨みつけている。


「……捕まっているのに、余裕あるなぁ。まぁ、落ち着きなよ。別に殺すつもりはない」


 顔が怖くなったロウト達を軽くなだめて、ビジイクレイトはリーダー格の男に話しかける。


「で、俺たちを襲った理由はなんだ? そちらの要望どおりにアイギンマンの屋敷から出たはずだが?」


「『ケモノ』が生きていては、ランターク様がご不快に思われるだろう。ゆえに我々は動いたのだ」


 リーダー格の男が笑っている。

 しかし、その顔にビジイクレイトは少し疑問を持った。


「……もしかして、独断で動いたのか?」


 ビジイクレイトの指摘に、リーダー格の男が動揺を見せる。


「な……それがどうした!」


「独断……そういえば、ロウトのことをランタークが気に入っていたな」


「ランターク様だ!」


 リーダー格の男の怒鳴り声は無視する。


「……もしかして、ロウトが気に入られているのが気にくわなくて、ロウトを殺そうと襲ってきたのか?」


 ビジイクレイトの指摘は、正解だったのだろう。


 リーダー格の男は、動揺で目が揺らいでいたが、数度目を閉じて開くと、ギッとロウトとビジイクレイトを睨みつけた。


「我々は、ランターク様の親衛隊として、十年以上お仕えしている。我々の命はランターク様のために、いつでも捧げると決めているのだ! なのに、『神財』を持っているというだけで、『ケモノ』ごときに仕えていた者を新しく召し上げるなど、許せるわけがない!」


 リーダー格の男は、本当に感情を込めて話していたのだろう。


 肩で息をしている間に、ビジイクレイトはロウトに目を向ける。


「私はあのような女に仕えるつもりは一切ないのですがね。まさか、私が原因とは。申し訳ございません」


「気にするな。にしても、ロウトをここまで気に入っているなんて、『神財』持ちの従者はそこまで貴重なのか?」


「貴重ではありますが……」


 ロウトがなにやら言いよどむ。

 その言葉の続きを引き継いだのが、ゲルベだ。


「ランタークは、年若い男性が好みという話です」


「ゲルベ!」


(……つまり、ショタコンか)


 ロウトがショタか。難しい年齢ではあるが、少なくともリーダー格の男性を含め、ランタークの親衛隊達の年齢よりも年下であろう。


 容姿も良いし、そういった要素も加わって、ランタークはロウトにご執心のようだ。


「まぁ、背景もわかったし、あとはこいつらをどうするかだが……」


 どうでもいい男と女の、痴情のもつれに、ビジイクレイトは、呆れながらリーダー格の男に目を向ける。


「わ、私たちに何かするつもりか? 私たちは、ランターク様の親衛隊だそ? 手を出せばお前達は罪に問われるだろう」


「手を出すっていうか、殺しはしないけど……」


 このとき、リーダー格の男は、自身にとって自慢できる内容を話すことで、価値がある存在であるとビジイクレイト達に認識させる狙いがあったと思われる。


 そうすることで、手荒なことはされないようにしたのだろ。


 しかし、とても愚かなことをリーダー格の男は話した。


 とても醜い話を、ビジイクレイトに聞かせた。


「特に、私は、ランターク様にもっとも信頼されている! なぜなら、あの悪女、ロマンシュテレをもっとも苦しめたのは私なのだからな!」


「……………………は?」


 ビジイクレイトは、彼が何を言っているのか分からなくなった。

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