第46話 どうでもよくなった
「お前の従者は、元々、キーフェのモノだろう?『ケモノ』の分際で、『神財』持ちを従者につけるなど、不敬にもほどがある。安心しろ、私たちが上手く使ってやる」
カッマギクの顔がにやけている。
その目は、ブラウに向けられていた。
(……こいつ、12歳……いや、今日で13歳だよな? 13歳があんな顔できるのか? ただのエロおやじだぞ?)
ブラウは確かに容姿がいい。
ゲルベもだ。
ブラウは知的クール。ゲルベは天真爛漫、といった感じで雰囲気は違うが、二人とも美少女であることにかわりはない。
一緒にいると、ビジイクレイトも、意識してしまう時があるくらいだ。
ただ、当たり前の話だが、ブラウやゲルベをビジイクレイトはどうにかしようと思ったことはない。
貴族が……いや、貴族でなくとも、仕事として身近に置いている者に手を出すのは、礼儀以前に道徳に反しているからだ。
しかし、あのカッマギクのニヤケた顔を見ると、ブラウやゲルベが彼の従者にされると、確実に手を出すことが分かる。
そう彼の顔が雄弁に語っている。
普段は無表情なブラウは、不快な顔を隠さすに、そっとビジイクレイトの背中に隠れた。
実際に向けられていないビジイクレイトでさえ、カッマギクの顔は気持ちが悪いのだ。
その顔と、欲情が向かっているブラウは、本当におぞましいほどの嫌悪感を抱いているのだろう。
「さぁ、その『ケモノ』をさっさと追い出せ」
カッステアクが手をかざすと、『剣の間』に武装した騎士達がやってきた。
カッステアク達の護衛騎士を先頭に、それ以外の騎士達もいる。
「……ビジイクレイト様」
ロウトがビジイクレイトの前に立つ。
ビジイクレイトの背中に隠れていたブラウが、今度はビジイクレイトの背中を守るように姿勢を変えた。
騎士達の邪魔にならないように、ビジイクレイトを囲んでいた貴族達はすぐに場所を譲る。
(いや、何人かは騎士達に加勢するつもりのやつもいるか)
『神財』を取り出している貴族がいた。
ビジイクレイトの拘束に参加することが、カッステアク達の心証を良くしようとしているのだろう。
ロウトもブラウも、構えてはいるが、まだ『神財』を出してはいない。
明確な敵対行為になってしまうからだ。
「ほう、騎士に囲まれてもあのような『ケモノ』をかばうか。本当に、『ケモノ』には惜しいな。母上のおっしゃるとおりだ」
(もしかして、ランタークが首謀者か?)
壇上にはカッステアクとカッマギク、そして彼らの護衛しかいないが、この騒動にはランタークが関係しているようだ。
確証はないが、何となくランタークが計画しているような気がする。
(それにしても、こんなに、アイツ等を支持する奴らがいるのか)
自分たちを取り囲む騎士と貴族の数に、ビジイクレイトは辟易した。
10や20ではない。
カッステアク達が優秀なのは知っている。
体格が良く、『神財』を使った模擬戦では、騎士達を次々と打ち倒していると聞いている。
勉強も、中央から雇った家庭教師から、教えることはないと賞賛されているそうだ。
そんな彼らに近付こうとするのは分かる。
しかし、このような公の場で、あんなに目立つ壇上で、他人の従者を、嫌悪感を抱くほどの目つきでみる者を支持する者がこれほどいるのが、理解できない。
カッマギクほどではないが、カッステアクも、十分いやらしい目つきでブラウを見ていたのだ。
(……なんか、どうでもよくなったな。いや、前からどうでも良かったのかもしれないな。でも、うん、より強くなったというか、心底、心の底から、どうでもいいが湧いてくる)
かといって、このまま流されるのは気にくわない。
どうせなら、ある程度この場で、自分の意見を通すべきだろう。
「抵抗したら、殺してかまわん。さぁ、『ケモノ』を追い出……」
「わかりました。出て行きましょう」
ビジイクレイトの声が、『剣の間』に響いた。
ビジイクレイトが発言すると思わなかったのだろう。
一瞬、カッステアクが固まる。
その間に、ビジイクレイトは話を続けた。
「おとなしく、私はこのアイギンマンの屋敷から明日の昼の鐘には出て行きます。なので、手荒なマネはやめていただきたい」
「ビジイクレイト様!」
ロウトの発言を、ビジイクレイトは手で止める。
(騎士まで動かしているんだ。ロウト達はキーフェは関わっていないと思っているようだけど……キーフェの許可なく騎士が動くとは思えない。俺がアイギンマンの家から出て行くことは決定だろう)
仮にキーフェの命令ではなくても、これだけの騎士がビジイクレイトはアイギンマンの家に必要ないと思っている。
追い出そうと行動している。
その時点で、ビジイクレイトの運命は決定していた。
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