追放と別れと出会い
第45話 お前を追放する!
「お前を追放する!」
アイギンマン家で一番大きな『剣の広間』に、少年の声が響いていく。
声を出した少年は、カッステアク。
ビイボルト・アイギンマンの第二夫人ランタークの長子であり、次期領主候補の筆頭である。
彼から、いきなり「追放する!」と言われたのは、ビジイクレイト。
今は亡きビイボルト・アイギンマンの第三夫人、ロマンシュテレ・アイギンマンの一人息子であり、『ケモノ』と呼ばれ、嫌われている少年である。
彼は今、ある後悔に捕らわれていた。
カッステアク達の誕生日を祝う会に招待されたので、ノコノコと参加したこと……ではない。
(『追放する!』って言われたぁああああああ! しまった! ここからお話始めればよかったっぁああああああ!! こんな王道のテンプレ展開! ここからは始めれば、もっと人気作になれたのに! うぁあああああああああああああ!)
もう20日も書いてしまった自分の人生を題材にした小説への後悔である。
まぁ、そんな話はあとにして、少々時を遡る。
ロウト達の叱責によってビジイクレイトが久しぶりに誰かに会おうと決意した日。
カッステアクとカッマギクの誕生日会は、偶然にもビジイクレイトが内容を確認した日だった。
といっても、ビジイクレイトから彼らに贈り物などないし、向こうも期待はしていないだろう。
ただ、ビジイクレイトに何か嫌がらせしたいだけだ。
なので、何も準備をせず、ただ礼服を着て誕生日会に時間ギリギリで到着したビジイクレイトは、『剣の間』の隅の目立たないところに立っていた。
面会依頼をしていた人物達に挨拶をする、という名目もあったが、別に会いたいわけでもない。
向こうから挨拶してくるのを待っていればいいだろうと思っていたのだ。
そして、ビジイクレイトが到着してすぐに、『剣の間』の灯りが消えた。
今年は、エスコート相手を連れずに一人ずつやってきたカッステアク達は、壇上に立つと、会場を見回した。
少し、戸惑ったような顔を浮かべたが、護衛騎士の一人に耳打ちされると、すぐに会場の隅……つまり、ビジイクレイトを見て、笑みを浮かべた。
その時点で、何かするつもりだな、とビジイクレイトは思った。
しかし、まさかあのような発言をするとは思わなかったのだ。
カッステアクは、挨拶を始める。
「本日。私とカッマギクの二人は13歳になった。この場に参加している者たちのおかげだ。礼を言う」
会場に拍手が起きる。
その拍手をいったん手で止めて、カッステアクは挨拶を続ける。
「しかし。この場に、私たちが礼を言うべきではない者がいるようだ。皆も知っているだろう。我々、偉大なるアイギンマンの家に、醜い『ケモノ』がいることを」
会場に笑いが起きた。
カッステアクは、笑いを止めない。
「13歳になり、『神財』を賜った我々は、責任を持つべきだろう。この偉大なるアイギンマンの家に生まれた者として。『ケモノ』。お前を追放する!」
と、いうことがあったわけである。
(面会依頼をしていた奴は、ほとんどこの誕生日会に参加するし、嫌がらせをされたら、それを理由に自室に引きこもろうと思っていたけど……)
想定していた以上の爆弾を落とされて、ビジイクレイトは困惑する。
(挨拶の場で一応弟である俺を追放宣言か。貴族としてどうなんだ? 会場は盛り上がっているみたいだけど)
笑い声を上げていた貴族達は、興奮したようにカッステアク達の発言について語り合っている。
「おお、とうとうあの『ケモノ』を追い出すのですか」
「さすがは次期領主。しっかりとされている」
「あのような『ケモノ』をいつまでも置いていては、アイギンマンの恥ですからな」
貴族達は話しながら、すっとビジイクレイトの周りから遠ざかった。
会場に灯りが戻ると、ビジイクレイトの周りから貴族がいなくなっている。
(いや、取り囲まれているのか)
カッステアクの発言に、ビジイクレイトがどのような反応をするのか、どのような発言をするのか、見たいのだろう。
少し距離を置いて、貴族達がビジイクレイトの周りを固めている。
「どうした? 何か言いたいことがあるのか?」
愉悦、といった顔で、文字通りカッステアク達はビジイクレイトを見下ろしていた。
「あー……じゃあ、一つ。このことはキーフェの意志によるものですか?」
ビジイクレイトの質問に、カッステアク達は笑う。
「当たり前だ。お前のような『ケモノ』。即刻アイギンマンの家から追い出したいに決まっているだろう」
「キーフェに直接確認したいのですが……」
「無礼者! お前のような『ケモノ』とキーフェがお会いになるわけがないだろうが!」
(面会依頼が来ていたんだけど)
カッステアクの怒声を合図に周囲の貴族達はビジイクレイトをバカにし、笑う。
(っていうか、この場にいないのかな? 次期領主の誕生日会だぞ?)
周囲を見渡すが、キーフェらしき姿はない。
「……キーフェは5日前から、魔境へ狩りに出かけています」
小声でロウトが教えてくれる。
貴族は戦う者だ。
冬の間、少なくなる食料を確保するために、魔境へ狩りに行くことがある。
それでも、キーフェが自ら出向くことは珍しいのだが、何か重大な事態が発生したのだろうか。
ビジイクレイトには情報がないので、分からない。
「……私が確認してまいります」
ゲルベが小声でそう言うと、そのまま『剣の間』から出て行く。
「……キーフェに確認を取るまで時間がかかるでしょう。慎重にお言葉を選んでください。このようなこと、キーフェのご意志とは思えません」
ブラウが、小さな、しかし力のこもった声で伝えてくる。
ロウトとブラウの目には、強い警戒がにじんでいた。
(言葉を選ぶ、ね)
ビジイクレイトはカッステアク達の方を向く。
壇上から一方的に命令する事ができるのが、今のビジイクレイトとカッステアクたちの現状だ。
言葉を選ぶ程度で、状況が改善するとは思えない。
(とりあえず、様子をみるか)
ビジイクレイトが何も言わずに立っていると、カッステアクが声を発した。
「さっさと荷物をまとめて出て行くがよい。『ケモノ』のいる場所など、ここにはない。ああ、『ケモノ』に荷物などないか」
「そうですよ兄上。そうだ、『ケモノ』。お前の従者達も置いていけよ」
カッマギクが、ロウトとブラウを指さして言う。
ビジイクレイトは、カッマギクが何を言っているのか理解できなかった。
「………………は?」
吐息のような疑問符は、壇上にいる彼らには届かなかったようだ。
届いたところで、何も変わらないが。
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