第44話 プロローグのエピローグ

 自分の人生を書いて『カクΧ文』に投稿することにしたビジイクレイトは、引きこもって小説を書いては投稿する日々を繰り返していた。


----------------------------------------------------------------------


★0日目


小説を書き始める。


最初は1人称で書いていたのだが、自分のこととなると恥ずかしくなって書けなくなった。


3人称で、別人のフリをして書くと筆が進んだので、3人称で書いていくことにする。


あと、最初にテンプレも書いておいた。


『この物語は~』というやつである。


自分の目線で書いている小説だ。

なにか間違いがあるかもしれない。

なので、一定の配慮という奴である。


★1日目 1日PV:18 累計PV:18


3話投稿してみた。


まだ、あまり読まれない。


日々精進だ。


明日から1日2話更新してみよう。


スタートダッシュは大切だ。


★2日目 1日PV:20 累計PV:38


こんなモノだ。


小説は簡単には読まれない。


ただ書くのみ。


★3日目 1日PV:32 累計PV:70


少し増えた。とても嬉しい。


書く。


書くんだ。


★4日目 1日PV:17 累計PV:87


急激に落ちた。なぜ? 何か足りないのか?


★5日目 1日PV:5 累計PV:92


さらに落ちた。どうしたらいいんだろう。何か出来ることはないか……人気作を読んでみよう。


★6日目 1日PV:5 累計PV:97


わかった。理由はタグだ。


この小説にはタグを設定できない。


タグの機能が解放されていないからだ。


タグの機能を解放するために必要なPVは100……ギリギリ、明日には解放できるだろうか。


『サポートAI』も気になっていたが、しょうがない。


まずは読んでもらわなくては。


★7日目 1日PV:18 累計PV:115


投稿を開始して一週間。

ようやく100PVを越えた。


このアカウントが誰のモノか分からないが、タグを付けられない小説にしては、読まれたのではないだろうか。


まぁ、そんな日々も今日で終わりだ。


ようやく100PV。

100PVを消費して、タグの機能を解放する。


やった。これで読まれるだろう。


捕らぬ狸の皮算用。という言葉が浮かんだが、そんなことはない。

タグを設定すれば読まれるはずだ。


人気の『異世界転生』『ざまぁ』『能力』を入れた。


あと、現状を反映して『NTR』も。


アープリアもヴァサマルーテも、離れている。


間違いではないはずだ。


★8日目 1日PV:22 累計PV:137 残りPV:37


タグの効果が出て……いる?


もう少し、待ってみよう。


★9日目 1日PV:127 累計PV:264 残りPV:164


タグしゅごい


★10日目 1日PV:138 累計PV:402 残りPV:302


タグがしゅごすぎて止まらない


あ、ああああ……しゅごいよ!


11日目 1日PV:58……12日目 1日PV:37……13日目 1日PV:53……14日目 1日PV:117……


----------------------------------------------------------------------


 小説を投稿して20日目 累計PV:1274 残りPV:1174の日。


「いいかげんにしてください!」


 ビジイクレイトの前には、腕を腰にあて、仁王立ちをしているロウト達がいた。


「毎日毎日自室にこもって……何をしているのか存じませんが、少しはお外に出てください」


「外に出ろって……お風呂とトイレにはちゃんと行っているだろ?」


「それ以外です! 図書館にも行かず、鍛錬所にも行かず、キーフェとのお食事さえ拒否されているじゃないですか。自室にこもったままでは、お体に障ります」


 ロウトが珍しくプリプリと怒っている。


「お体に障るって……ほら、今は療養中だし。心理的な負担でなぁ……」


「そんな悪い笑顔で言われても、納得しずらいのですよ……」


 といいつつ、ロウトの声は小さくなっていく。

 ビジイクレイトがヒドい仕打ちを受けているのは事実なのだ。


 なので、その点をつかれると、ロウトも強く言えない。

 

「では、せめて面会だけでも。ビジイクレイト様を心配して、会いたいという方もいるのですよ」


「そんなやついないだろ」


 ビジイクレイトは鼻で笑う。


 小説を書くために過去の日記を読み返してみたが、ヒドい人生だった。


 貴族はおろか、使用人達でさえ、ビジイクレイトを『ケモノ』とバカにしている。


 嫌っている。


「そんなこと……ないですよ」


 もう、消えそうな声でロウトがつぶやいていた。


(そんなこと、あるんですよ。というか、その態度はそうだと認めているようなモノだけどな)


 ビジイクレイトとしては、このまま話を終えてもよかったが、あまりに落ち込んでいるロウトの様子が気になった。


 なんだかんだ、5歳から一緒の側近兼従者だ。

 彼が落ち込んでいる様子をみるのは忍びない。


「……わかった」


「……ビジイクレイト様!」


 ロウトが、ぱぁと顔を輝かせる。


 喜んでいる犬のようだ。


「面会依頼の札があるんだろ? 持ってきてくれ」


「ご用意しております」


 ブラウが、面会依頼を並べていく。


 彼女も少しうれしそうだ。


 足取りが軽い。


「……そんなにうれしいかね」


「ビジイクレイト様が前向きになってくれたんですから。喜ばしいことじゃないですか」


 ゲルベも、にこにこしながら面会依頼をおいていく。


 意外にも量は多い。


「……よく見たらほとんど同じ人か。キーフェも、こんな出来損ないと会って何をしたいんだ?」


「……ご心配されておりましたから」


「『神財』の詳細を聞いて、追い出すつもりかもな」


 半笑いで言って、しかしありえることだとビジイクレイトは考えた。


「そのようなこと……」


「俺の……私の『神財』はどう考えても戦闘向きじゃないからな。キーフェとして、そのような判断をされても不思議ではないだろう」


 俺、と言った時点で、そういえば貴族の子息らしい言葉で話せていないことに気がついたビジイクレイトは、言葉を修正しながら、貴族の常識を口にする。


 戦えない者は、貴族ではない。


 ならば、家から追い出すことも、常識的な話なのだ。


「ああ、だから、神殿からの依頼も多いのか。貴族の追放先は、神殿が多いからな」


 キーフェの次に多い、神殿からの面会依頼の理由に、ビジイクレイトはようやく気がついた。


「それで、ビジイクレイト様はどちらの方から会われるのですか?」


 意識を切り替えさせようとする意図の見えるゲルベの質問に、ビジイクレイトは少し考える。


「……なぁ、ここにない面会依頼があるだろ?」


 ビジイクレイトの指摘に、ブラウとゲルベ、それにロウトも、明らかに動揺を見せる。


「それは……」


「もってこい。どうせ禄でもない面会ばかりだ……用事は一気に終わらせよう」


 ビジイクレイトの言葉に、ロウトは観念したように一枚の面会依頼を取り出した。


 それは、面会依頼というより、招待状だった。


 カッステアクと、カッマギクの誕生日会の招待状。


 去年に続いて、何かビジイクレイトに嫌がらせをしたいのだろう。


 その誕生日会に、ビジイクレイトは参加することにしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る