第43話 【PV稼ぎの美辞麗句】

 じっくりと調べたとき……そろそろ白状するべきだろう。


 嘘である。


 嘘とは、ビジイクレイトが『キーボートタブレット』の能力をじっくり調べたという話だ。


 実は、ビジイクレイトはアプリの一覧をよく見ていない。


 生前、読んでいた小説の続きが読めることに興奮して、ずっとその小説達を読んでいたのだ。


 話題を戻し、ビジイクレイトは今度はじっくりとアプリの一覧を読んでいく。


 本当に様々なアプリがあるが、『何か役に立ちそうなアプリ』という観点で探していても、どうしても目に付くアプリがある。


「……『桃太郎』『ヘンゼルとグレーテル』『西遊記』? なんでこんなに童話のアプリがあるんだ?」


 見慣れた桃のはちまきをしている少年に、お菓子の家をうれしそうに眺める少年と少女、頭に輪っかをつけている猿の絵。


 ジイクの記憶にある童話、名作の表紙ととらえて、何も違和感はない。


「もしかして、童話のキャラクターを呼び出せる、とかか?」


 ジイクは元々ファンタジー小説を書いていたのだ。


 ファンタジー的な能力を考察する力は、かなり高いと自負している。


「『桃太郎』とか『孫悟空』とか呼び出せば、どんな奴にも勝てる……か?」


 だとすれば、十分に【ざまぁ】が出来るのではないだろうか。


 しかし、確証はない。

 アプリを使用して確かめたいが、くすんでいて使えない。


「解放に必要なPVは……100か。低いけど、問題は、解放したあとにPVは必要無いのか、だ」


 PV100でアプリを解放しても、その中身を使うのに、さらにPVを要求される可能性はかなり高い。


「というか、確実にあるだろう。いくら何でも、物語のキャラクターを呼び出すのに、PV100は少ない。桁が飛んで1000とか10000とか要求されても不思議じゃない」


 PV1000は、中々ハードルが高い数字だ。


 有名な作家なら、一日で稼いでしまえる数字だが、初心者なら一ヶ月かかっても届かない数字である。


「それに……買うならこっちも気になる」


 くすんでいるアプリの一覧の中で、最初のページに表示されている『サポートAI』の文字。


 意味はそのまま、このアプリを使えるようにすれば、ビジイクレイトをサポートしてくれるAIが手に入るのだろう。


「……さらに、奥の方にめちゃくちゃ気になるヤツもあるな。必要なPV数が1億とかふざけていたけど。とりあえずは、童話のアプリを買うか、『サポートAI』を買うか、だな。まぁ、とりあえずやってみるか。無理そうなら途中で畳んで、別の物語を書けばいいし」


 あまり悩みすぎてもしょうがない。


 ビジイクレイトは切り替えて、『カクΧ文』の小説の投稿ページを開く。


「マジで機能が制限されているな。キーワードも登録できないし。感想も読めない。出来るのは、あらすじの設定と、PVの確認だけか」


 とりあえず、自分が転生した経緯と、勇者との出会いを書いて、ビジイクレイトの手が止まる。


「タイトル……どうするかな」


 数分、頭の中で言葉を転がして、決める。


「タイトルの基本は主人公がしたいことを書く。俺がしたいのはPVを稼ぐこと。本名は……タイトルに載せるのは恥ずかしいから、ちょっとだけ変えて……4文字熟語に出来るな。じゃあ、それで……」


【PV稼ぎの美辞麗句】


 名付けたタイトルに満足しながら、ビジイクレイトは投稿した。


 自分が主役の物語を。

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