第37話 カッステアクとカッマギクの一年前の誕生日会

 ほぼ一年前。


 正確には、年の始め。


 カッステアクとカッマギクの十二歳の誕生日を祝う会が開かれた時のことだ。


 ほぼ一年違いの年子であるビジイクレイトの兄達の誕生日会は、ビジイクレイトの十二歳の誕生日会が開かれた、小さな『盾の間』とは異なり、屋敷で一番大きな『剣の間』で盛大に開催される。


 と、ビジイクレイトは話に聞いていた。


 今まで、ビジイクレイトは兄達の誕生日会に参加したことがなかったのだ。

 

 呼ばれないし、呼ばれてないのに行きたくない。


 例え呼ばれても、参加したくない。


 そんな誕生日会だったからだ。


 なのに、カッステアク達の十二歳の誕生日だけ、ビジイクレイトは呼ばれてしまった。


 ただでさえ、このときからビジイクレイトはアープリアとも、ヴァサマルーテとも距離で出来て精神的にかなり辛い時期だった。


 しかし、参加したくはないが、正式に呼ばれれば、行かなくてはいけない。


 陰鬱な気分で、確実に面白くないだろう誕生日会に、ビジイクレイトは参加したのだ。


『剣の間』は煌びやかで、参加している者も着飾っている。


 次期アイギンマンの領主候補筆頭のカッステアクとその弟カッマギクの誕生日会だ。


 参加している下位貴族や中位貴族も気合いの入り方が違うのだろう。


 正直、キラキラというか、ギラギラとした会場の雰囲気に、その場にいるだけでビジイクレイトは疲れてしまった。


「『ケモノ』がいるぞ……」

「なんでいるんだ? 『ケモノ』が入れる場所ではないだろう」

「惨めなやつだ。今更カッステアク様達に取り入ろうとしても無駄なのにな」


 さらに、ギリギリ耳に入る程度の大きさでビジイクレイトを嘲笑する声が、あちらこちらから聞こえてくるのだ。


 分かってはいたが、カッステアク達がビジイクレイトを誕生日会に呼んだのは、嫌がらせのためだったのだろう。


(……こうやって苦しんでいる姿を見て喜んでいるんだろうな、アイツら……あれ?)


 すでに帰りたくなっているビジイクレイトは、主催であるカッステアクとカッマギクが『剣の間』にいないことに気が付いた。


 主賓が後から登場する……ということは、無くはないのだが、それにしても遅すぎる。


 近況の語り合いが終わり、暇を見つけた参加者たちがとりあえずの暇つぶしでビジイクレイトを笑う程度には時間が経過しているのだ。


 そろそろ主賓がいないことに参加者達が騒ぎ始めてもおかしくない。


 そのとき、『剣の間』の灯りが落ちた。


 一瞬だけ戸惑いの声が漏れ、すぐに消える。


 光の『魔聖具』で、二カ所だけ照らされ、会場の視線を集めたからだ。


 まず一点目は、カッステアク。


 二点目は、カッステアクの後ろに立っているカッマギク。


 主賓の登場に安堵した参加者達は、すぐに困惑し、興奮しはじめる。


 彼らの隣には、それぞれ少女が立っていたからだ。


 とても美しい少女達。


 カッステアクの隣には、アープリアが。


 カッマギクの隣には、ヴァサマルーテが。


 それぞれ立っている。


『十二神式』がある十二歳の誕生日は、貴族にとって大きな節目の一つだ。


 そんな節目の誕生日会で、同年代の女性を呼びエスコートをする。


 その意味を、参加している者も、ビジイクレイトも知っていた。


(……婚約者)


 正式に契約するまでは候補でしかないのだが、このような場でお披露目したのだ。


 ほぼ内定が決まっていると思われても不思議ではない。


 東の貴族達のまとめ役でもある上位の大貴族、アイギンマンの次期領主候補。


 そう考えると、王女であるアープリアも上位貴族の娘であるヴァサマルーテも、カッステアクとカッマギクの婚約者として妥当なのかもしれない。


(むしろ、お似合い、か。俺よりも……)


 闇の中で光に照らされ歩いているアープリアとヴァサマルーテは、とても綺麗だった。


 綺麗な笑顔、だった。


(あんな顔、俺は見たことがない)


 そのことに気が付いたビジイクレイトは、そっと『剣の間』から立ち去った。


 まだ会場が暗いうちに、闇に紛れるように。


 見られたくなかったからだ。


 嫌がらせは嫌がらせでも、本当の本命は、先ほどの光景を見せつけるためだったのだろう。


 そんな行動をするカッステアクやカッマギク。


 彼らを讃えている集まったカッステアクたちの取り巻きの貴族。


 そんな連中にではない。


 カッステアク達にエスコートをされて、カッステアク達の取り巻きに讃えられて笑みを浮かべているアープリアとヴァサマルーテ。


 彼女たちに、今のビジイクレイトの顔は見られたくなかった。


 ぐちゃぐちゃに崩れて、本当に『ケモノ』みたいだったから。

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