第19話 ただの集団リンチ
(……やっちまった)
ビジイクレイトはすぐに自分の行動を猛省しながら、半ばパニックになる。
(や……っばい! 完全に頭に血が昇っていた。大丈夫だよな?運動着の上からだし、あれだけ動いてた子だから、ある程度受け身とかもとれる……んだよな?)
ここまでの思考に一秒もかかってはいない。
ビジイクレイトは、すぐに顔を上げて、吹っ飛ばしてしまったヴァサマルーテに駆け寄る。
「大丈夫ですか!? 申し訳ございません。 ついやりすぎてしまって……」
頭を打っていると、下手に動かしては危険だと思い、ビジイクレイトが様子を見ていると、ヴァサマルーテはゆっくりと目をあけた。
「……うっ」
「ヴァサマルーテ様!」
訓練所の端で様子を見ていたヴァサマルーテの護衛達が血相を変えてやってくる。
護衛達に場所を譲ると、そのまま、護衛達がヴァサマルーテに回復薬を飲ませたり、手当を始めた。
「ああ! なんてことだ!!」
手当の様子をビジイクレイトが見守っていると、後ろから声が聞こえた。
イヤな声だ。
振り返ると、カッステアクとカッマギクが、豪華な鎧を揺らしながらこちらに向かって歩いてくる。
「あのような可憐な少女に、なんという非道を! 無能な『ケモノ』は、無情であると聞いていたが、ここまでの恥知らずだとは!!」
大げさに嘆いているカッステアクに、カッマギクと取り巻きの子供達が同意する。
「私はどうするべきであろうか。この獣に、私達は何をするべきであろうか!」
カッステアクの嘘くさい嘆きに、カッマギクは答えを出す。
「教育をするべきでしょう。教えるべきです。我々が、この無情で無能な『ケモノ』に貴族の光とは何かと」
カッマギクの答えに、カッステアクは満足げに頷く。
「そのとおりだ。では、構えろ、『ケモノ』」
カッステアクは、木剣をビジイクレイトに向ける。
「……は?」
突然の出来事に、ビジイクレイトは反応出来なかった。
「お兄様が自ら教育してくださると申し出ているのだ! さっさと構えろこの『ケモノ』が!」
カッマギクの怒声に、周りの子供達も同調する。
(ああ、そういうこと)
これからの流れが何となく読めて、ビジイクレイトはイヤな気持ちになった。
チラリと周囲の騎士達の様子を見るが、カッステアク達を止める気はないようだ。
(……とりあえず、命を大事に)
ビジイクレイトは、大人しく、木剣を構える。
「いくぞ!!」
ビジイクレイトより二周りは大きい体格のカッステアクが、雄叫びをあげながら剣を振り下ろしてくる。
その剣を避けて反撃しようとすると、側面から小さな球が飛んできた。
球には当たらなかったが、反撃することは出来なかった。
球が飛んできた方を見ると、カッマギクが棒の先にひもがくくりつけられている道具を振り回している。
(あれは、魔法……いや、魔聖法を練習するときに使う……)
そのひもの先に飛んできた球がついていることから、どうやら先ほどの球はカッマギクが投げてきたようだ。
「これは、なんのマネ……」
「……うぉおお!!」
カッマギクに意図を問おうとすると、カッステアクが背後から攻撃してきた。
なんとか避けるが、また球が飛んでくる。
今度は、周囲にいた子供達の一人からだ。
「我らが教育するといっただろう! 皆! この無情で無能な『ケモノ』に貴族の光とは何かを教えてやれ!」
カッマギクの言葉を合図に、周囲の子供達が次々とビジイクレイトと襲いかかってきた。
カッステアクと同様に剣を向ける者、カッマギクのように球を投げる者。弓で矢を射る者もいる。
これは、もうただのリンチだ。集団暴行だ。
「ふむ……素晴らしい。『ケモノ』相手に教育してくださるとは、カッステアク様も、カッマギク様も、他の子供たちもなんて心優しいのだ!」
しかし、ジメイーキを含む指導役の騎士がニヤニヤ笑いながら、ビジイクレイトが集団暴行されるのを許している。
結局、この集団暴行は、カッステアク達が満足するまで止まることはなかった。
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