44話 ヒーロー


 ────つくづく、自分の無能さに嫌気が刺すよ


 アイルは足元に展開していた魔術陣とは別に、フロッグの作った魔術陣に対抗する為の魔術陣を作り出す。

 陣の大きさは自分達のいる古い学生寮を覆う程の大きさ。

 フロッグの作った陣は、それよりもやや大きいが、今のアイルにその大きさをカバーする程の力は残っていない。


 アイルが魔術の世界に足を踏み入れたのはの事だった。

 突然変異型の魔術因子。

 ある朝、何の片鱗も無くアイルはその力が使える様になったのだ。

 アイルの故郷は、所謂辺境にある小さな町だった。

 街の住人全てが顔見知りであり、小さな事件があれば瞬く間に町の中へ伝染する。

 そんな町で育ったアイルは、魔術とは疎遠の人生を送っていたが、たったの一日でその人生が反転する。

 最初は何となくだった。

 朝食のミルクに肘が当たってしまい、机の下へ落ちようとした瞬間、アイルは無意識に魔術を使用していた。

 小さな陣がミルクが落ちる場所に展開され、ミルクがその中を通ると、ミルクは何故か机の上に落下する形で白い水飛沫を上げた。

 アイルの父と母はその一部始終をしっかりと見ていた。

 不可解な、言葉では説明できない現象にただ口を開けて驚いている。

 アイル自身も何が起きたのか分からず、その場で固まっていた。

 しかしその後、魔術の反動なのか、鼻血を出したと同時に座っていた椅子から転げ落ちる形で意識を失った。

 母はすぐに街中の小さな病院へと連れて行き、一部始終を医者に説明し、同時に何が起きたのか説明を求めた。

 しかし医者はその現象には首を横に振るばかりで、鼻血の止血をしただけでひとまず家に帰した。

 その話を横で聞いていた看護師が、仕事の同僚にアイルに起きた事を話し、最後にある一言を付け足した。


「────らしいのよ……あの人の子、


 それが、全ての始まりだった。

 瞬く間にアイルの身に起きた話は町に広まり、アイルの母と父は仕事の同僚や友人から事の真相を聞かせろと揶揄からかわれた。

 二人は最初こそ本当に起きたんだと言い張っていたが、やがて町の中の噂に疲れたのか、最後には「疲れていたのかもしれない」と自分達で結論を出した。

 しかし、事件が起きる。

 学校内での出来事だった。


「なぁ、あの噂本当なのか?町で噂になってるって言うよ」


 アイルを揶揄う様に、クラスの一人が声を掛けた。

 するとアイルは、何の迷いも無く答えた。


「うん。今もできるよ」


 同級生達は顔を見合わせ、思わず笑みを溢す。


「マジかよ!じゃあやってみてよ!」


「うん、多分できる」


 アイルは何の躊躇いもなく、筆箱に手をかざし、ミルクを飛ばした時の感覚を思い出しながら、念を込める。


 ────飛べ!


 次の瞬間、アイルの筆箱が机の上から消え去る。


「は!?」


「マジじゃん」


 一瞬でどこかに隠せる訳もなく、同級生達は思わず目を見開く。

 そんな同級生の一人の頭上に、突如筆箱が落ちてきた。


「痛え」


 突然落ちてきた筆箱に驚くと同時に、痛みで頭を抱えている同級生は、何の悪びれも無く、無邪気な笑みを浮かべて言う。


!本当だったって!」


 その日から、アイルにとっての地獄が始まった。

 町の大人達はアイルを不気味な目で見始め、大人達の態度から次第に子供達もアイルを避ける様になり始めた。



「アイル!二度とその手品は使っちゃダメだ!」


「……何で?凄いでしょ?僕にしか出来ない特別な事なのに、何で皆んなそんなに怖がるの?」


「特別だから皆は不気味がるんだ。理解するんだ、この世界じゃ、特別と言うのは大部分の『普通』に省かれてしまうんだ!」


 まだ幼く、物事の考えがわからないアイルに、父の言葉の意味は伝わっていなかった。

 何故特別な人間は省かれてしまうのか。何故特別と言う存在が、人から疎まれるのか。

 テレビの中にいるヒーロー達は、特別故に人々から愛され、ヒーローと言われている。

 しかし、現実は違うと言うのか。

 一体何が違うのか。それがアイルにはわからない。

 そんな部分さえも、人々はアイルに対しての恐怖心として捉えてしまった。


 それから半年程経った頃だろうか。いつしかその恐怖は狂気へと変貌を遂げた。

 人々はアイルに石を投げ、そんなアイルを親は遂に守る事を辞めた。

 小さな町の人々の怨嗟の的と成り果ててしまったのだ。

 その時、アイルはようやく父の言葉の意味が理解出来た。

 この頃のアイルは十歳であった。


 普通にとって特別である限り、息をする事すら許されない。

 それは嫉妬であり、ねたみであり、ある種の艶羨 えんせんなのかもしれない。

 どうしようも無い理不尽。

 それをアイルは、ようやく理解した。


 その夜、アイルは父と母に別れを告げずに、黙って家を出た。

 ただただ森の中を息が切れるまで走り、町から少しでも離れる。

 無心に、ただひたすらに。


 気付けば朝が来ていた。

 森の中では小鳥が朝を告げる様にさえずりを鳴らしており、アイルの疲れ切っていた心を僅かに安らげた。

 しかしその安らぎはすぐに消える事となるのだが。

 アイルが立ち上がり、辺りを見渡していた所にソレは視界に映り込んだ。


「────」


 言葉を失った。

 アイルから400メートル程離れた場所に、子供連れのグリズリーがいたのだ。

 恐怖で足が竦み、立ったばかりのアイルはすぐにその場に尻餅を付いてしまう。

 しかしそんなアイルなどお構い無しに、母親と思われる巨大なグリズリーがアイルに近付いてくる。

 今すぐその場から立ち上がって距離を取らなければいけない。だが足は無慈悲なまでに動かない。

 その日は、アイルが初めて死を覚悟した瞬間だった。


 グリズリーはアイルの顔元まで近付き、荒い息をアイルの耳元に響かせている。

 アイルは人形の様に一ミリも身体が動かず、ただただ目の前の不幸を噛み締める。

 そんな時だった。


「ガファ────」


 突然苦しむ様な声と共に、グリズリーが地面に倒れ伏した。


「……?」


 何が起きたのかと、アイルは思考が停止していた頭に必死に血を巡らせて考える。

 グリズリーの胸部からは血が溢れ出ており、何かに狙撃されたのかと考えたが、それにしては銃声がなかった。

 スナイパーライフルなら、この無音に近しい環境では流石に銃声を無にする事など不可能だろう。

 ならば誰が────


 そんな思考を巡らしていたアイルの頭に、そっと手が置かれる。

 アイルは身体をビクリと震わせると、ゆっくり振り返る。

 するとそこには細身の男が立っており、顔にはアイルを宥める様に穏やかな笑みを浮かべていた。

 そんな男は、アイルに対して端的に質問をする。


「君は、人が殺したい程に嫌いかい?」


「え────」


 町から抜けたアイルは十一歳になっていた。

 とは言えまだまだ幼さが残る少年だ。

 そんな少年に対し、男はなんの躊躇いもなく死を仄めかす言葉を吐く。


「えと、僕は」


「あぁ、わかった。質問を変えようか。君は今の現状が理不尽で、どうしようもなく辛いと思っているかい?」


 言葉が上手く出なかった。

 しかし、答えは決まっていた。

 アイルがこの短期間に受けた仕打ち。それを考えればアイルがその答えに辿り着くのは必然的とも言えるだろう。


「うん、僕は、辛いよ」


 男の手を取り、アイルは己の感情を曝け出す。


「どうしようもなく、辛いんだ……!」


 その答えを聞いた男は、穏やかな笑みを絶やさずにアイルに言葉をかけた。


「なら、君の居場所は決まった」


 男はアイルの手を強く握り、アイルの住んでいた町の方に目を向けた。


「君は僕が迎えに行くまである場所に隠れているんだ。絶対に出てきては行けないよ。危険なことを今からするからね」


「……?うん?」


 何をするかなど、アイルには何もわからない。

 故にアイルは男の言葉のままに、森の中にある古小屋へと連れて行かれ、その場に三十分程待機を命じられた。

 アイルは何の為にここで待てと言われたのかを考えている間に、特にやることも無かった為か、その場で僅かに仮眠をした。

 男の言う通り、三十分程だろうか。男が帰って来た。

 アイルは────思わず目を見開いた。

 男の身体は出会った時とは見違える程に、血に塗れていたのである。

 男はそんな血を気にする素振りも無く、相変わらずの屈託のない優しい笑顔を見せながらアイルの手を引く。


「さあ、おいで」


 アイルが連れて行かれた場所。それはアイルが住んでいた町であった。

 しかしその光景は異様な迄に変わり果てていた。

 建物の殆どは半壊しており、街には硝煙が漂っている。

 そんな光景を前にして、アイルはただただ立ち竦んでいた。


「これは……お兄さんがやったの?」


 アイルの質問に今は答える事は無く、男はアイルの手を再び引く。

 町中には血痕が散らばっており、その凄惨さを物語っている。

 アイルは相変わらず何が起きているのか理解出来ていないのか、驚きの表情を隠せずにいる。

 しかし、男は尚も笑っていた。

 まるで、この地獄の様な光景を好んでいるかの様に。

 男が手を引き、アイルを連れて来た場所。それは────


「僕の家だ……」


 赤く染められている。

 元々緑を基調とした家が、その原型を止めてすらいない。

 そんな家のドアを男は潜り、中にいる人物の元へとアイルを連れて行く。


「あれ、もう一人はどこに行ったのかな」


 男はソファに腰をかけると同時に、部屋の真ん中で何かに怯え、震え続けているアイルの父に言葉を掛けた。

 すると父は、まるで服従心を表すかの様に頭を下げながら質問に答える。


「アイルの母親は……森へ逃げて行きました。私は止めたのですが……」


「ふぅん……」


 男は両腕を組みながら、森の方向へと目を向ける。


「じゃあ、そろそろ死んだんじゃ無いかな」


「え────」


「いや、だって僕は君達だけはここで待っててねって言ったんだ。その約束を破ったんだから、仕方ないよね」


 男はアイルに出会うほんの少し前。

 森の中でとある準備を進めていた。

 自身の魔術因子を地面に植え付け、地雷式の様に仕掛けた場所を踏んだ瞬間に自身の魔術で殺すというものだ。

 その仕掛けをしている最中にたまたまアイルと出会った訳なのだが、アイルはそんな仕掛けをしていたとは知る由もない。

 森の中には大量の死体が転がっている。

 それにアイルが出会わなかったのか、男が仕掛けをしていない安全な道を選んだからである。

 ほんの少し道を外せば────そこには、アイルの同級生の死体が転がっていたのだ。

 そして、今この瞬間に、アイルの母親は森の中で赤い槍のような物で頭を貫かれ、絶命した。


「さて、本題だ」


 そんな事はさて置きと言わんばかりに、男は足を組み、アイルの父へと目を向ける。


「彼は立派な魔術師の素質を持った天才だ。そんな彼が森の中で熊に襲われて死ぬなんて、僕からしたら考えられないね」


「私は……本当に悪い事をしたと思っている。親として、アイルを守って行かなければ行けないというのに……!」


 アイルの父が必死に弁明を開始した瞬間────男の目付きは、まるでゴミを見る様な目付きに変貌する。


「そうだね。でも君はそれを果たせなかった。君のつがいも」


 男の身体から、言葉と同時に血の塊の様か物が現れ、まるで意志を持った生物の様に蠢き出す。

 血の塊はアイルの父の首元に迫り、その周りをグルグルと回り出す。

 その血を見た瞬間、アイルの父は幽鬼の様に顔を白くさせ、冷や汗を地面に滴らせた。


「信じてくれ!アイル!私は、こんな結果を望んでいなかった!」


 アイルの父は言葉を荒げながら、許しを乞う。


「周りの意見に流されてしまった……私は、弱かったんだ!幼い我が子すら守れない。私を許してくれはしないか!アイル!」


「……だそうだけど」


 男が、ソファの後ろに立っているアイルに仲介役として繋ぐ。

 しかしアイルは、相変わらずその場に棒立ちしているのみだった。

 何を言えばいいのかわからない。

 初めて見る父の泣き喚く姿。独白。

 自分を貶し、虐待した男へ何を思うのか。


「……見てなよ」


 口が中々開かないアイルに、男が声を掛ける。

 男はソファから立ち上がり、父の元へと迫る。

 首の周りに置いておいた血を、リングの様な物に変換し、アイルの父の首元に巻く。


「やめろ……!死にたくは無いんだ!」


「いや、時間切れだ。あの子が何を思うとも、僕は君を殺す」


「ッ────私は!町の者達の罪を全て背負い!全責任を持ってこの子を成長させると約束する!だから、どうか────」


「生き汚い」


 男は、アイルの父の言葉を無慈悲に遮る。


「どんな形であれ、君はこの子に悪意を向けたんだ。その悪意には報いなきゃ行けない。いいかい、悪意に理由なんて無いのさ。人は本能で悪意を生み出し、それをさも正義の様に翳す。タチが悪いのは、人はその悪意の醜さに気付いていないのさ。故にそれは偽の正義────偽善と呼ばれる。全く、人の犠牲が無ければ息をすることすら儘ならない地球上で最も腐った生物だ」


 男は、アイルの父の首元に漂わせていた血の塊に魔力を与え、形状の変化を促す。


「だから僕は────人間が嫌いなんだ」


 男が作り出した血は、小さな槍の様な物になり、アイルの父の首元を貫通した。

 首には約二センチ程の小さな穴が出来る結果となり、即座に止めどなく血が流れ始める。


「────ッ!!!」


 アイルは恨んでいた人物が血を流している姿を見て、喜ぶと言う感情は覚えなかった。

 腐っても自身の父親────その父親が今まさに死の淵に立たされようとしている。


「ねえ、これって正しいのかな」


 震えながら男の手を取り、アイルは純粋な疑問を投げる。

 すると男は出会った時と同じ、穏やかな笑みを向ける。


「あぁ、今にわかるよ」


 その言葉の直後だった。

 アイルの足に、力強い男の手が絡み付く。

 アイルは即座に下に目を向けると、そこにはヒュー、ヒューと穴から息を漏らしながらも床に這いつくばっている父の姿があった。

 アイルの父はもう片方の手で首元の血をなんとか押さえようとしながら、アイルの方へ目を向ける。

 しかしその目には、決して慚愧の念に耐えないという気持ちは微塵も入っておらず、怨嗟を携えてアイルを見つめていた。


「こ、の…………人殺しぃ.……!!!」


「────」


 言葉を失った。

 直前まで愛を語り、誓った父から放たれた言葉とは思えない程に、殺意に満ちていた。

 先程まで口上でペラペラと羅列していた言葉は、全て自分の命欲しさ故の偽りだったというのか。

 それを悟った瞬間アイルは────


「消し飛ばせ」


 魔術を発動する為、いつもの様に右手を構える。

 その手の先には、今にも命の火が尽きそうな父の姿があった。

 アイルの魔術は物を移動させる物だ。しかし、本人も含めてその原理は理解していない。

 移動の対象となった物は、どういった経緯を得てアイルの指定した場所に移動するのか。

 また、もし移動の先を指定していない場合、その物はどこに消えるのか。

 わからない。しかし、アイルはなんの躊躇いもなく、その不確定な魔術を父に向ける。

 目的は言葉で述べた通りだ。

 父の姿を────消し飛ばす。


「ガァっ!?!?」


 直後、父の足が何処かへ突然消えた。

 恐らくアイルの魔術が作動したのだろう。

 アイルは初めて大きな物質を魔術で扱ったことにより、すぐに鼻血を出してその場に蹌踉よろめいた。

 しかしすぐにその背中を男が支える。


「二人とも、答えは出たみたいだね」


 男はアイルをソファに寝かすと、今にも死んでしまいそうなアイルの父の元へと歩み寄る。

 男は自身で風穴を開けた首元に手を置き、魔力を込める。

 すると、今まで流れ出ていた血がまるでテープを逆再生するかの如く戻り始めた。

 床に流れ出ていた血までもが、アイルの父の体内に戻り、終いには風穴すらも閉じてしまった。

 また、同時にアイルによって消された脚の傷の止血も終わっていた。

 アイルの父は瞬時に息を吹き返し、必死にこれまで足りていなかった酸素を取り込む。


「はぁ、はぁ。助かったのか?」


 自身の喉元を押さえながら、もう傷はないのかと確認するアイルの父。

 そんなアイルの父に、男は冷ややかな目線を送りながら言葉を掛ける。


「まさか。これからもう一度死ぬだけだよ」


「ふぇ……?グッ────!」


 突如として、アイルの父が喉元を押さえながら悶絶を始めた。


「何を……したの?」


 意識が掠れる中、アイルが男に質問をする。

 男は冷ややかな目線を解除し、出会った時と同じ笑みを浮かべてアイルに言葉を返した。


「まだ君の手で人を殺すのは早い。もう少し大人になって、自分が何をしたいかを明確に定めた時に決めればいい。それまで、汚れ仕事は僕の仕事だ」


 アイルの父は尚も悶絶を繰り返している。

 言葉になっていない言葉を吐きながら、アイルの元へとにじり寄る。


「貴方の首元に血の塊を詰めたんですよ。所謂気道閉塞。痛みで死ぬよりも実に苦しく、惨い死に方だ。しかし、惨い死に方程、生き汚い貴方に良く似合う」


「カッ…………ゆ……さな……い!」


 首元に異物を携えながらも、尚を怨嗟の言葉を吐き続けるアイルの父。

 そんな父に対してアイルは────



「もういいよ」



 キッチンから自身の魔術で移動させたナイフを手に取り、その先を父の顔に突き立てた。

 脳を即座に貫いたからか、アイルの父は一瞬で白目を剥いてぐったりとその場に倒れ伏した。

 頭部からは再び血が濁流の様に流れ始め、アイルと男の足元を濡らす。

 男はすぐさま止血に移ろうとするが、アイルがそれをすぐに止めた。


「大丈夫だよ。もう、どうするかは決まってるんだ」


「……一度汚した手は、拭えないよ」


「うん。でも汚した手じゃなきゃ、お兄さんみたいに助けられない物もあるって、わかったから」


 アイルは蹌踉めきながらも立ち上がり、鼻血を雑に拭い、死んだ父を見下す。


「もうこれ以上、こういう人が生まれない為に、僕はこの力を使う……お兄さんも、そういう人なんでしょう?」


「……あぁ。僕は魔術師狩りという組織の。その組織には君の様な思想の人間が沢山いる」


 男はその場から立ち上がり、血に濡れた手をポケットから取り出したハンカチで拭った後、綺麗になった手をアイルに差し出す。


「今日、ここには君をその組織に勧誘する為に来たんだ」


 アイルは、何の迷いもなくその手を取った。


「入るよ……僕は、僕にしか出来ないやり方でヒーローになる」


 男は再び柔和な笑みを浮かべると、自身の名をここに来てようやく語った。


「僕の名前はアルマ。アルマ・ハーウェイツ」


「アイル…… アイル・ハインツ・クラウンフェルトです」


 それが、今後魔術師狩りという組織を大きく変えることとなる、二人の出会いだった。

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