42話 君はこの世界に
「うおっ!?」
突如として知らない空間へと飛ばされたレクサスは、体勢を整える暇も無く、着地と同時に派手に転んでしまった。
そんなレクサスを他所に、教会に侵入したもう一つのグループに属している二人は、慌ただしい様子で何かの準備を始めていた。
「そろそろタイムリミットだ。すぐに戻るぞ」
「わかってるよ。でももう少し時間がかかりそうだからちゃんと外見張っててね、ハリス」
ハリスと呼ばれた「あぁ」と返事を返すと同時に、特徴的だったフードを取り、先程まで隠していた顔を露わにして見せた。
外見は二十代半ばといった所だろうか。
やや癖毛混じりな黒髪が瞼の辺りまで伸びており、目元は若干隠れてはいるが、それでも特徴的だと捉えられる鋭い眼光がやけに印象に残る人物だ。
その外見からは多くを語らない寡黙で近寄り難い人物という人物像をイメージさせる。
実際ハリスは口を多くは開かないタイプの為、第一印象がそのまま通ずる人物である。
そんなハリスの顔を見て、レクサスは心当たりがあるのか思わず口を開けてしまう。
「おい、アンタってもしかして魔術師狩りの人間か?」
ハリスは辺りに警戒を払っているからか、レクサスの質問に返答しなかった。
その代わりに、何やら魔術式を用意している先程ハリスからアイルと呼ばれていた男が答えた。
「そ、ハリスも随分有名になったね?」
アイルの声掛けにハリスは特に反応を示さずに、辺りに過剰とも言える警戒を払っているのみだった。
そんなハリスにアイルはわざとらしく肩を竦める。しかし顔に呆れると言った表情の色は見えず、寧ろハリスの性格的に自分達の身を守る為に言葉を返していないのだと理解している為、アイルは口元に優しい笑みを浮かべながらレクサスに言葉を続けた。
「僕達はさ、リーダーから君を連れて来いって命令を受けたからここに来たんだよね」
「……俺を?マジでか?」
レクサスの頭の中に困惑という文字が浮かぶ。
自身が入りたいと願っていた魔術師狩り側から、逆に勧誘を受けるなど、思いもよらなかったからだ。
そんなレクサスは喜ぶよりも先に、まずは一つの質問を投げた。
「なら、俺の連れが居た筈じゃねえか!?ほら、金髪のよ?アイツ、俺なんかよりずっとアンタらの組織に入りたがってたんだよ」
レクサスの言う連れの特徴を聞いた瞬間、僅かにハリルが眉を顰めた。
その僅かな表情の変化を読み取ったアイルは口を開かず、ハリルが喋れるように自分が辺りへの警戒を強めた。
ハリルはそんなアイルの姿を確認すると、小さな溜息を混ぜながら口を開いた。
「あの男は俺達の組織に勧誘されていない。残念だが、一緒に入るのは無理だ」
「……そうか。て言うかよ。そもそもアイツ今どこに居るんだ?俺を置いてとぼとぼ逃げる程臆病な奴ではない筈なんだけどよ」
「……
「────……そうか」
ハリルの口から冷淡とも取れる程に簡単に紡がれた言葉に対し、レクサスは大きく目を見開いた後、すぐに普段通りの顔付きに変えて言葉を返した。
────へぇ、もっと取り乱すかと思ってたけど……
静かに言葉を返したレクサスを見たアイルは、心中でそんな事を思っていた。
歳も見た目もまだ大人とは言えないレクサスなら、仲間の死に対してもう少しばかり感情を取り乱すかと思っていたのだが、予想以上に落ち着いている。
アイルはレクサスより五歳程年上なのだが、レクサスぐらいの年頃に魔術師狩りに入ったアイルは、仲間の死に最初は心をかなり擦られていた。
本来ならそれが年相応の反応なのだが、レクサスはすぐにその場から立ち上がり、魔剣を再び呼び起こすと辺りに警戒を払い始めた。
「正直いうと残念だが、この世界に入った以上アイツも覚悟してた事だろ。今更嘆いたりしねえよ」
「良いね、君はこの世界にとことん向いてるよ」
アイルはそんなレクサスに微笑みを見せながら、期待の言葉を掛ける。
そんな会話が暗闇が包む部屋に木霊する中、一気に場を緊張に包むような重さを携えながらハリルが口を開く。
「────来るぞ」
「あ?」
ハリルが突如として呟いた言葉に、レクサスは理解が出来ずに言葉を漏らすが、約2秒後、その言葉の真意を理解する。
× ×
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