41話 やられた


 フードを被っている男の視線が僅かに自身の背後へと向けられた事を悟ったグリアは、すぐさまそちらに注意を払いながら行動を開始する。

 男が何を考えているかはわからないが、間違いなく今背後から来ている魔力の塊は、この戦況を変え得る物だろう。

 その魔力の塊の主────レクサスは怒号を響かせながら雪菜とメアリーを追っていた。


「待てって言ってんだろ!勝負の続きをしやがれ!」


「潔く断る!」


「あ〜?」


 レクサスの感情をわざと逆撫でするかの如く、軽い調子で返答をした雪菜に対し、更にレクサスは感情を荒ぶらせる。

 その感情に呼応するかの様に炎は更に火力を増し、周囲を燃やし尽くさん勢いで広がって行く。


 そんな背後で起きている闘争劇を魔力のみで感じながら、グリアは目の前の男に攻撃を仕掛けようとするが────先に仕掛けたのはフードを被っている男の方だった。

 空絶の乖離剣フィア・リベルタを一振りすると、それと同時に男自身もグリアへと真っ直ぐ進んで行く。


 ────狙うのは二重攻撃か?


 背後の人間達を気にしつつ、グリアは男の攻撃に対して守備の意識を瞬時に高める。

 先程と同様に、敵の攻撃が何であれ幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアがあれば全ての攻撃は空間ごと捻り取り、無効化する事が出来る。

 グリアは男の仕掛けた見えない斬撃に対して、再び真っ向から幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアを振るい、その攻撃を防ごうとしたが────男の方が一枚上手うわてであった。

 男の仕掛けた攻撃、それは見えない斬撃などでは無かったのだ。


 ────空絶の乖離剣フィア・リベルタは風を操る魔剣だ。


 グリアが横に振るった幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアが、突如突風に晒されたかの様にした。


 ────ッ!


 グリアはここでようやく男の魔剣の能力を把握した。

 風を操る魔剣。ならば斬撃よりも風をただ吹かせるだけの力を発動するのは初歩中の初歩だろう。


「ただの風は人間の何十倍も速く動く。流石にその魔剣でも削り取れないだろう」


「そこの学生よ。伏せろ!」


 グリアは咄嗟に背後から迫ってきていた雪菜やメアリーに呼びかけを行うが、二人は何が起きたのか何も理解出来ていない為、その行動が遅れる。

 その更に背後にいたレクサスも巻き込み、時空が削り取られる。

 同時に円を描くように幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアは振るわれた為、フードを被った男も一気にグリアの元へと近づく結果となったのだが、男はグリアの横を敢えて通り過ぎてレクサスの元へと向かう。


「逃がさんぞ」


 グリアはすぐさま幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアを振るおうと剣を握り直すが、そこに思わぬ障害として雪菜とメアリーが男の横を通り過ぎて自身に突っ込んで来た為、その手が止まる。


「やられたか」


 グリアは雪菜とメアリーを両腕で受け止めると同時に、今起きた事をすぐに理解した。

 雪菜とメアリーは空間を削り取ろうとも、距離的には自身よりもう少し離れた場所に居るはずだった。

 しかし、恐らくフードを被った男が二人の背後に風を吹かす事により、無理矢理距離を縮めてきたのだ。

 そうして追撃の手を止めさせ、男は目的の人物へと接触を果たす。

 レクサスの身体を掴んだ男は、小型イヤホン越しにすぐさま味方と通信を始める。


「アイル、目標の人物の確保に成功した。


『よし来た!待ち侘びたよ』


 すぐに通信に反応したアイルと呼ばれた男は、自身が待機していた協会のどこかにある薄暗い部屋に自身の魔術を展開させる。

 その魔術とは────


「時空を割れ。幻影の剥離剣ホロ・アルガルシア


 グリアが最後まで追撃の意思を見せるが、男はグリアに意識すらも向けずにレクサスへと簡潔に言葉を語る。


「舌を噛むなよ」


「あ!?ていうかあんたは誰────」


 グリアはすぐさま幻影の剥離剣ホロ・アルガルシアを二人に向けて振るうが、それは無駄に終わり、空間をただ割くだけの結果となってしまった。

 何故なら男とレクサスは────目の前から突如として消えたからである。


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