40話 幻影の剥離剣
魔術協会内────塔の周りにて。
「アイル、お前の方で特定は出来ないのか」
『あ〜無理だね〜流石魔術協会と言うか……結界術が何重にも張り巡らされててさ。そこにこれ以上僕の魔術を展開したら飛んで火に入る何とやらなのさ。だからごめ〜ん!頑張って!」
「……」
フードを被った男は耳に付けた小型イヤホンの様な物から響く仲間の声に対し、心中で小さな溜息を吐きながら目的の男を探す。
『魔術師狩り』という組織に属している男は、組織のリーダーから魔剣を持った男────即ち、レクサスを守れという命を受けていたのだ。
魔術師狩りへ入る事が目的のレクサスが、その魔術師狩りに目を付けられているという何とも不思議な現在の状況。
そしてそこには魔術協会の貴族の企み、それに巻き込まれる不死者と噂が立っている魔術師、そしてその魔術師に興味を持っているという理由だけで近付いた結果、見事に自身も巻き込まれた学生、そしてその友人、さらにはその友人の父であり、現魔術協会最高戦力とも言われている騎士団長。
全ての役者が、何かに惹きつけられるかの様に一つの場所に集まって行く。
その序章として────騎士団長と男は邂逅を果たす。
────ッ!
男は目の前に立ち塞がっている人物を見た瞬間、本能的に足を止めた。
その男は自分こそが協会の牙城とも言わんばかりにその場に立ち尽くし、ただ剣を構えている。
白髪混じりの髪や、顔に見える幾つかの皺から老兵と捉えられることも出来るが、男の放つ独特の圧がその印象を掻き消している。
恐らく、戦場に慣れていればいる程に、その男には警戒心を露わにするだろう。
そう一目で思わせてしまう程に、その男は強かった。
故に、男は協会に何代も続く騎士団という組織の長を任されている。
その実力は────
「揺らめけ、
────魔剣使いか。
一瞬で騎士団長────グリアが放った魔力の元が魔剣の物だと悟った男は、自身も魔剣を解放する。
「
同時に二つの魔剣が限界を果たす────
世界に確認されている魔剣は現在五本のみ。その内の三本がたったの一日で同じ場所に集まるなど、誰が想像しただろうか。
グリアの魔剣、
例えるならば、ブラックホールに空間そのものが吸い込まれ、その先から突如剣が現れた様な物だろうか。
また、その現れた剣も実に歪な物だった。
レクサスの
しかし
剣の形はしているが、所々ノイズが走っている様な線が絶え間なく剣の周りを走っており、ノイズが発生する度に剣はその姿を変えていた。
例えばレクサス達同様の西洋剣、かと思えばスパタ、カスカラ、サーベル、ファルカータなど様々な姿に変化を遂げているのだ。
明らかに不気味な印象を持つグリアの剣に対し男は、細心の注意を払いながら
魔剣同士の戦いは理解の出来ない事象が起きて当たり前の戦闘である。
故に、先手必勝が戦いの基本なのである。
一撃一撃が確かな殺意を孕み、グリアへとスピードを上げながら進んで行く。
しかしグリアは微動だにしない所か、
するとその瞬間────
まるで空間そのものに亀裂が入ったかのように、空が無数に裂ける。
まるでガラスを割ったかのように突如として現れたその割れ目は、グリアの周りを囲む様に広がり、そして────割れ目に触れた
────成る程。
レクサスの様に、実にシンプルな能力。しかしそれ故に手間のかかる力。
フードを被った男は、すぐさま戦うという選択肢を頭の隅に覆いやり、目的の人物を探す事を第一目的に再び据える。
しかし、再び目を開いたグリアがそれを許さなかった。
「この領域に置いて、まだ逃げられると思うか蛮族よ」
振り下ろされた先には、先程の攻撃をズラした時と同様に空間が歪む。そして今回はその歪んだ空間が
まるでブラックホールにでも飲み込まれたかの様に、空間そのものが捩じ切れたのだ。
フードを被った男はすぐに違和感に気付いた。
今、何か不可解な事が起きたと。
それを悟ると同時に、
するとそこには男の予想通り、グリアの姿があった。
グリアは
男は
────もう見破っているか。
横に躱した男を、グリアは細い目で追う。
即ち、遠く離れていく男を自身のすぐ側まで引き戻せるのだ。
これこそまさに初見殺しの能力なのだが、男の並外れた戦闘センスが何とかその攻撃を無効化した。
更にはその次の斬撃が空間を削る事を想定し、横に飛ぶ事でその能力に巻き込まれない選択をとった。
つまり背後にも剣を振らない限りは、背後の空間は削れないのだ。
「随分と厄介な男が侵入した物だ」
「……宣言通り、簡単には逃してくれないか」
男は内心焦っていた。時間がもうかなり経っている為、いつ魔術協会の手だれが他に現れても不思議では無い。
複数戦となれば男の勝ち目は流石に薄いだろう。
しかし、目の前の男が空間を削り取り、自身の間合いに強制的に引き戻す力を有している異常、逃げる事は不可能に近い。
そんな時だった。
男にとって、僥倖としか言えない出来事が舞い降りる。
────ツイているな。
グリアの背後に聳え立つ塔の下を走る人影。
それが見えた瞬間、男は頭を再びこの場から退避することに専念させる。
「ん?何か人影があるけど」
「あれは……まさか騎士団長が出てるの……?」
「騎士団長?」
「今この状況で説明はしないわよ」
「あっ、うん……」
雪菜とメアリー、その背中を追う炎を纏う狂人者────レクサスを見た瞬間だった。
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