31話 この身の一つや二つ


「舐めやがってえ!」


 マークはアルドの理解が出来ない回答に対して、苛立ちを露わにしながらも再び指をかざす。


「爆ぜろ!」


 すぐにアルドの目の前で爆発が起きるが、アルドは瞬時に背後へ飛んでいた為、ダメージ自体は無い。

 爆煙で相手が自分の位置が見えない時間を見計らい、アルドは考察を始める。


 ────魔術のからくりは何だ?


 指輪を翳せば、何の前触れもなく高威力の爆破魔術を放出できる。

 アルドの頭に浮かんでいた疑問とは、威力の割に前触れが無さすぎる事である。

 唯一の攻撃前の動作が手を動かし、その数秒後に指輪が赤く光る事。

 それだけで、この高火力の技は出せないのでは?とアルドは考えていたのだ。


 ────取り敢えず探るかな。


 アルドは剣を構え直すと、爆煙の中へと飛び込み走り出す。

 ただ一直線にマークの元へと向かい、あわよくば一撃で沈める事を目標に剣を振ろうとする。

 しかし、マークはしっかりと煙の中を突き進むアルドの気配を感じ取っていた。

 マークは爆煙から少し距離を取り、爆煙から出て来たタイミングで攻撃を当てる事を目的に指を構えておく。

 しかし、爆煙から顔を出したのは以外な物だった。

 それは────


「なっ!?」


 アルドの剣だった。


「お前もかよっ!!!」


 咄嗟の反応でマークは爆発を起こし、槍の如く飛んで来た剣を回避した。

 再び爆煙が上がるが、そのさらに頭上に剣が大きく舞っていた。

 そんな剣を一旦放置して、アルドはマークの懐に潜入する。

 煙の中から突如として現れたアルドの姿に、マークはすぐさま防御態勢を取ろうとするが、アルドの攻撃はマークの想像の何倍も速かった。


忠士頸貫ちゅうしけいがん


 アルドはマークの懐に入ると、手のひらに即座に魔力を溜めて、マークの腹部へとその手のひらを捩じ込んだ。

 中国武術の発勁からインスピレーションを受けたとされる、騎士団相承の技である。

 剣が手元にない場合でも敵に対抗できる様にと、編み出された技だが、敢えて剣を捨ててこの技を放ったのはアルドが初めてだろう。

 剣を囮にするなど、騎士団なら許されない戦い方だ。

 しかし、アルドはそれを何の躊躇いもなくやって見せた。


 アルドの攻撃でしばしば吹き飛ばされたマークは、蹌踉けながらも立ち上がり、冷や汗を身体に滴らせながら言葉を吐く。


「知ってるぜその技……お前、騎士団なんだな。なのに剣を捨てるとかよお……プライドとかねえのか!?」


「プライド、歴史の保守。それらは重要な事だが、俺の戦いには関係無いと割り切ったまでだ。俺をそこら辺の騎士団の団員と同じと思うなよ」


 アルドは丁度落下してきた剣を上手くキャッチすると、威嚇の様に剣を軽く振るい、辺りの爆煙を消し飛ばした。


「……ハッ!さっきの小僧と言い生意気なんだよ……俺と大して歳も変わらねえ下級学生の分際でよお!そんな奴に攻撃を喰らった手前にも腹が立つってもんだ!」


 明らかに正常な思考が纏まらなくなりつつあるマークを、アルドは最大限警戒しながらジリジリと近寄って行く。


「少し俺にダメージを与えたからって、調子に乗るんじゃねえぞ……お前ら全員ブチ放してやる」


 怒りに身を任せて、魔力を一瞬で上昇させたマークの指輪から、再び赤い輝きと共に爆発が起こる。

 マークはすぐさま背後に飛び、爆発を回避したが、今回は今までと違う点があった。

 それは────爆発が連続で起こったのだ。

 後退した先にも高火力の爆発が起きた為、流石のアルドも反応が出来ずに攻撃をモロに喰らってしまう。

 アルドはそのまま塔の壁にぶつかり、思わずダメージに目が白黒するが、すぐさま気を取り戻してその場から離れようとする。

 しかしマークは再び連続で爆発を起こし、アルドの追撃を行った。


「お前らに舐められるぐらいならこの身の一つや二つ削ってやるぜ」


 ────アイツ、魔力の出し過ぎだ!


 爆煙の中から微かに見えたマークの鼻からは、赤黒い血が滴っており、明らかに身体に負担を掛けての攻撃だと察する事が出来る。

 明確な殺意の猛攻。

 それを何とか潜り抜けながらアルドは少しずつマークの元へと近寄って行く。

 爆発が何度も、何度も何度も繰り返し起こる。

 その度にアルドは、剣で爆発を防ぎつつダメージを最小限に抑えて行く。


「今ならハッキリ見えるぜ……あぁ、これが成長って奴なんだな……俺はもっと強くなれる」


 ────何言ってんだ?


 マークは、自身の指輪をなまめかしくも、何処か狂気を孕んだ瘋癲ふうてんとした様で眺めていた。


「俺はお前らなんかにかまけてる暇はねえんだ……さっさとブチ殺して実績にしちまおう!」


 マークが再び指輪をアルドに向けると、指輪はこれまでにない程の輝きを放つ。

 その一瞬の煌めきを目に焼き付けたアルドは、すぐさま本能的にそれはまずい、と悟らされた。

 アルドはマークの元へ近寄っていた身体をすぐに後退させるが、今回の爆発はそれを許さなかった。


「爆ぜろ」


 口角を上げたわざとらしい笑い顔をしながら、マークは呟く。

 すると、次の瞬間には凄まじい轟音が鳴り響き、一瞬で辺りは爆煙に包まれた。

 明らかにこれまでとは違う規模で起こされた爆発は、それに比例するかの様に巨大な煙を巻き上がらせる。

 そんな中アルドは────


「クソ!」


 爆発の衝撃から流石に逃げられなかった為か、左腕、そして顔を除く身体全体に軽い火傷を負っていた。

 咄嗟に利き腕では無い左腕に剣を持ち替え、左腕で顔を、そして剣で心臓の位置をカバーしたのだ。

 しかし、ダメージは明らかに大きい。

 軽傷とは明らかに言えない全身熱傷は、ヒリヒリと身体をつんざく様な痛みを訴えている。


 すぐさま体勢を整えて、再びマークを警戒しようと右腕で剣を握り直して煙の中に注意を向ける。

 その瞬間だった。

 煙の中から、明らかに目立つ紅い光が煌めいた。


 ────なっ!?


 先程までのマークの戦いなら、連続攻撃は出来ない筈だ。連続攻撃は魔力の消耗も大きいからか、マークの身体に大きく負担を掛けていた。

 だというのに、先程よりも大規模な攻撃を二連続で行おうというのか。


 アルドはすぐさま爆発に備えて剣を構える。

 今度は受けるだけでは致命傷に成りかねない。

 ならばアルドの選択は一つのみ────迎え撃つ。

 アルドが剣に魔力を注ぐと、剣は翠色すいしょくの光を纏い、幻想的な光景を生み出す。

 そうして爆発は────

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