27話 ワクワクするな
塔の頂上にて────
「この部屋を燃やす気か阿呆」
「何をされた……?」
レクサスは、一瞬で起きた現象に疑問を隠せずにいた。
自身の魔術はこの部屋を燃やし切る勢いで放たれた。
だというのに、この部屋で燃えている部分は一つも無かったのだ。
力を分散させられた。若しくはベクトルそのものを変えられたのか。
見た事もない魔術に対して、レクサスは即座に頭を回転させる。
レクサスの魔術の欠点は、広範囲故に視界が縮まる点だ。
広範囲だと言うのに威力、殺傷能力が高いと言う点を自身の魔力量に物を言わせて矜持としているが、万物には必ず穴がある。
その穴が攻撃をする側である、レクサスの視界が縮まると言う点なのだ。
とは言え、穴があるなら塞ぐ工夫をすれば良いだけである。
レクサスは自身のレンチに熱を纏わせ、放出するタイプではなく、内に留める形を取った。
近距離戦に持ち込む────そうすれば敵が何をしたのかクリアな視界で見る事が出来る。
メアリーはレクサスの意図をすぐに察したのか、腰に手を回してすぐに自身の武器を取り出せる様に準備をした。
「ワクワクするな……未知との戦いはよぉ!」
狂犬の様に声を荒げながら向かい来るレクサスに対し、メアリーは冷静に相手の動きを見定めて相手のレンチを
そもそもメアリーは正真正銘の不死者の為、相手の攻撃を避けた所で意味は然程無いのだが、痛覚は存在している為、なるべく攻撃を喰らうことは避けたかった。
さらに言えば、不死者とは言え大ダメージを負うと再生は遅くなる傾向がある。
その為、その隙に相手に動きを封じられてしまえばその時点で負けなのだ。
今回のレクサスは恐らくそれが狙いだろう。
動けなくなった所を縛り上げてバード家の者の場所へ連れて行く。
理由がほぼ明確にわかっている以上、ダメージを喰らう必要などさらに無い。
そしてもう一つ、そもそもメアリーが攻撃をわざわざ避ける必要がない理由があるのだが────
「遅えよ!」
レクサスが何度かレンチを振っていたところ、メアリーの動きにほんの少しの隙が生まれた。
メアリーは元々戦闘経験が豊富では無い為、完全にレクサスの動きを捌き切る事は出来なかったのだ。
しかし、メアリーは目の前に向かい来る熱を帯びたレンチに対して微塵も恐怖心を抱かない。
なぜなら────
「なっ!?」
メアリーの顔に届こうかと言うところで、レクサスのレンチが突如として空中に向きを変えられたのだ。
「成る程な!」
即座にメアリーの魔術を理解したレクサスは、一先ず距離を取る。
「死にたがりって言われてんのに魔術は死を回避する物なんて皮肉だなぁ!?おい!?」
「口が減らん奴だ」
メアリーの魔術はベクトル操作。
自身に向けられた攻撃に限らず、自身の魔力が届く範囲ならば自然的な現象すらも操作できる。
メアリーの魔術の最も優れている点は、敵がどれだけ強大な力を持っていたとしても、少量の魔力でその攻撃を回避することが出来る点だろう。
勿論対象物の質量、重量などがデカければデカいほど魔力の消費量は跳ね上がるが、そんな敵は滅多に現れない。
ちなみにレクサスの広範囲魔術に関しては、メアリーにとってはごく僅かな魔力しか使用していない。
赤子を捻るに等しい作業でしか無かったのだ。
レクサスの広範囲魔術は、他の魔術師から見たらそこそこに処理が面倒だと思われる程の質量だが、それを簡単に操ってしまう点は、メアリーの底が見えない事を単純に示していた。
────どうする。あんまし時間はかけられねえぞ。
もう数分でこの場に魔術協会最強の魔術師が来る。
メアリーの情報が本当かはわからないが、予めバード家の目的を知っていたとしたら手を回しておくのは自然な事だろう。
時間を掛けることは許されない。
とは言え、メアリーの魔術がある限り攻撃を当てるのは至難の業だろう。
ならば────
「すぐに終わらせるには質量増やすしかねえだろ」
レクサスはレンチを床に投げ捨てると、地面に手を
「コイツはまだ使いこなせてねえんだけどな」
二年前、レクサスがエジプトの魔術師の元で保管されていた所を盗み出した魔剣。
その魔剣は炎を司り、使用者の魔力量に比例してその火力は真価を発揮すると言われている。
レクサスはその魔剣の名前を聞いた時から、必ず手に入れると誓っていた。自身の魔力量、それに伴う高火力の魔術と
とは言え、魔剣は想像を絶する程にレクサスの魔力を吸収して暴走してしまう為、今は使いこなせているとは言えないのだが、今回はそれで良いのだ。
使いこなせていないからこそ、メアリーには有効打となる。
「来い、
× ×
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