26話 自由になれない


「何だ今の!?」


「頂上で火事でも起きたのか!?」


 学生寮から出た雪菜とアルドは、ひっそりとメアリーの居る塔に向かう途中に、確かに光を見た。

 一瞬ではあるが、夜の暗闇を切り裂く様な空に走った光は、確実にその発生源である塔の頂上では何かが起きていると知らせていた。


「早く向かおう!これは面白い事が起きそうだ!」


「おい!面倒ごとにわざわざ首を突っ込むな!」


「アルドはさ!」


「……?」


 突然走り出した雪菜に名前を呼ばれたアルドは、すぐに自身も走りながら次に続く言葉を待った。


「アルドは、面倒ごとが嫌いかい?」


「……寧ろ好きなやつなんていないだろ」


「ハハッ!まあ確かに」


 アルドの純粋な疑問に、雪菜はいつも通りの笑いを受けて浮かべながら言葉を返した。


「でも、面倒ごとが好きな人間の方が俺は魅力的だと思うよ!」


「は!?」


 自分の考えが否定されたと捉えられてもおかしくない雪菜の理論に、アルドは純粋に疑問を感じていた。

 藪を突ついて蛇を出すよりかは、最初から確実で安全と言える道を選ぶ事の方がリスクは無い筈だ。

 わざわざ危険を冒してまで、リスクのある道に進む理由が何処にあるというのか。

 ましてやそれを魅力的と言ってしまう雪菜の考えが、やはりアルドには全くわからなかった。


「……相変わらず何考えるかわからない奴だな」


 アルドの溜息混じりの物言いに、雪菜は軽く後ろを振り向きながら、言葉を返した。


「でも、多分アルドは俺と同じ側の人間だと思うよ?」


「俺とお前は明らかに正反対の人種だろ。どこを見て言ってるんだ」


「だって、文句を言いながらもアルドは俺について来てるでしょ?」


 雪菜の物言いにアルドは確かにそうだと言わんばかりの表情を浮かべてしまった。

 その直後、アルドは一旦足を止めてその場で自分が今何をしてるのかを考えた。


 ────もしあの塔で何かが起きてるとして、それに俺は首を介入すべきなのか?


 ────もし……何もできずにまた父を煩わせてしまったら……?


 頭に浮かぶ父の存在。

 あの頂上で起きてることが、ただの火事ではなく、何かの大事になる様だったらアルドの父────グリアが必ずこの場に姿を現すだろう。

 もし、その時自分がまた厄介事を起こしてしまったら────

 アルドの頭の中には、ただでさえ視界に映っていないであろう自分の姿がさらに霞む結果になってしまうだろう。

 その思った時、アルドの足は動かなくなった。


「アルド?」


 雪菜もその場で足を止め、アルドの方を向いて首を傾げると、アルドは目を合わせずに唇を噛み締めながら言葉を吐いた。


「……悪いが、俺は行けない。俺はお前じゃない」


「……そっか。ここまで付き合わせてごめんよ!俺は行くね!」


 雪菜はアルドの表情を見ると、すぐにその場から再び走り出し、メアリーのいる塔へと向かう。


 ────そもそも俺は何でアイツと絡んでるんだ?


 アルドは雪菜の後ろ姿を見ながら、ふとそんな事を思った。

 明らかに正反対の人間と何故ここまで話していたのか。

 何故────

 何故、雪菜はそんなに前を向いて走れるのか。


 アルドは、雪菜の後ろ姿が見えなくなるまでその背中を見つめていた。


「俺は……お前程自由に生きれないさ」


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