4章 友達になってくれよ!

25話 堪能しようじゃねえか


 メアリーが住んでいる塔の一階にて。


 レクサスとマークは、鍵のかけられている扉を無理矢理蹴り破ると、中へと侵入を果たす。

 すぐさま一階で塔の管理をしていた男が慌てて二人の前に姿を現す。


「何者だ!」


「良いじゃねえか。何者でも」


 目の前に立ちはだかろうとした男を、レクサスは魔術を使う訳でもなく、ただ力任せに突き飛ばすだけで自身の歩く道からその姿を消して見せた。


「マーク。お前は一階で変な奴が来ねえか見とけ。後、そのジジイが変な真似しないかどうかもな」


「チッ、俺は留守番っすか」


「そう言うなよ。強い奴が来たらお前が一番最初に邂逅できるって考えたら悪くない話だろ?」


「……物は言い様っすね」


 マークは一先ずレクサスの突き飛ばした男の元へ歩み寄り、男の襟を掴みながら質問をする。


「じゃ、上に居る不死身の婆様の話でも俺は聞かせて貰おうかな」


「何者だ……!」


 地面から何とか立ち上がった老人は、近付いてくるマークに威圧感を放ちながら質問を投げるが、マークはそんな男の腹に蹴りを入れ、再びノックダウンさせる。


「質問はこっちがするんだぜ?アンタに質問していい権限をいつ、誰が与えた?」


 冷酷とも取れるマークに対してレクサスは何を思う訳でもなく、自身はただ上の階を目指す。

 レクサスは、基本的に自身が面白いと思う仕事しか受ける事は無かった。

 何故なら、レクサスは飢えていたのだ。

 自分よりも強い相手、自分の想像を遥かに上回る強大な敵────そんな人間を求めてレクサスは『裏』の世界に踏み込んだ。

 この時点でレクサスの年齢は18歳。

 『裏』の世界でレクサスの年齢は決して若過ぎるとは言えない。が、レクサスの狂っている部分は他にある。

 それは────恐怖と強さへの飢えである。


 恐怖があるからこそ、人間は生を実感できる。

 その恐怖を感じる為には、より強く、強靭な相手を。

 強さがあるからこそ、人間は地位を確立できる。

 強さを磨く為には、より強く、強靭な相手を────


 彼の異常とも取れる程の執念から生まれるその行動こそが、彼を『裏』の世界でエゴイストとして躍進させた理由の一つだろう。


 ────不死身の女……どんな手を使って死を免れて来たのか。


 ────堪能しようじゃねえか。



 数十分後────


 長い長い螺旋階段を登り、レクサスはメアリーの部屋へと辿り着いた。

 塔の頂上に存在する部屋のドアはわざと開けられており、丁度部屋の外から一直線に見える位置に置かれているベッドの上にメアリーは座っていた。


「おうおうおう?歓迎ムードって訳か?」


 レクサスはメアリーを視界に捉えると、ズケズケと厚顔無恥な様子で部屋に入り込んで行く。

 そんはレクサスを、メアリーもまた視界にしっかりと捉えており、灯の付いていない暗い部屋の奥で待ち構えている。


「歓迎ムードなら部屋の灯りぐらいは灯すさ」


「確かにそうだな。じゃあ、俺をここから追い出してみるか?」


「そうしようか。私は何度も何度も断り続けるが────


 ────コイツ、どこでその情報を!?


 一瞬にしてレクサスの警戒心が増す。

 自分達がこの塔に来た理由は、協会の上層部にすら知れ渡っていない筈である。

 なのに目の前の標的は、何処からか自分達がアルフレッドの命令によって攻めてくると言う情報を仕入れていたのだ。


「何処でその情報を知った?という顔をしているな」


 メアリーの質問にレクサスは図星を突かれた為、否定する事はできなかった。

 しかし自ら肯定するのも癪の為、レクサスは口を開かずにそのままメアリーの言葉の続きを待つ。


「伊達に長生きしていなくてな。私の使った薬には動物の意識をコントロールできる物がある。これ以上の説明は必要か?」


「いや、要らねえな」


 レクサスはバレてしまった以上はもうどうしようもない為、戦闘体勢を取る。

 予め武器として持って来ていたレンチを握り締め、メアリーに対して牙を向ける。


「まぁ、暴れられんなら何でも良いや」


 レクサスはレンチを持っている右手に魔力を充填させ、相手への殺意を高めて行く。

 レンチはレクサスの魔力に当てられ、熱を帯びた銀色の側面は赤く染め上げられて行く。

 その熱は相当の温度の高さを誇っているのか、レクサスの周りはその熱気で空気の密度が下がり、真夏のアスファルトに映る景色の様に歪んでいる。


「いいのか。こんな所で暴れても」


「何だ?命乞いか?死にたがりの姫って異名な嘘か?」


「別にお前が私を殺してくれる事に関しては何も思わない。しかし今回は死ぬことでは無くあのボンボンの元へ連れて行かれる訳だからな。私も抵抗しようと思ってな」


「へぇ、そりゃどんな?」


 メアリーは月灯りが漏れ出す窓辺に視線を向け、わざとらしく微笑みながらレクサスの質問に答えた。


「ここに、もう少しでフロッグが来るぞ」


「────ッ!?」


 フロッグという言葉を聞いただけで、レクサスの心は大きく揺らいだ。

 流石のレクサスとは言え、フロッグにはまだ勝てないと理解できる。

 魔術協会の魔術師の中でも、最強と言われている生きる歴史。

 そんな男がもし本当にここに来るのだとしたら────


「やってんなぁ……!」


 レクサスは顳顬こめかみに汗を滴らせながら、手に持つレンチを強く握り直した。


「じゃあ、それまでに方を付けないとなぁ!?」


 次の瞬間、塔の頂上に位置する部屋から激しい炎が吹き出した。

 その炎は静寂と暗闇に包まれた夜を、喧騒と光に塗り替える確かな合図となった。

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