24話 柵


 横浜、市街地────


「よし、一先ず巻けたかな」


 ビルの屋上に魔術を用いて転移した『巡礼者ピルグリム』のメンバーと連れて来られた凪は、街を見渡して安全の有無を確認していた。


「その……さっきはありがとうございます」


 凪は突然現れたにも関わらず、自身の命を救ってくれた『巡礼者ピルグリム』のメンバーに感謝を告げると、深く頭を下げ、礼を述べた。

 そんな凪の礼をクロースはしっかりと受け止めると、頭を上げるように促した。


「大丈夫です。私達は貴女を守る為に日本に来たのですから」


「私を……?どうして」


「君の……両親絡みだよ」


 クロースから両親という言葉を聞いた凪は、明らかに気まずそうな顔を貼り付け、目線を逸らした。

 すぐに語りたくない事だと察したクロースは、ゆっくりと落ち着いた口調で謝罪を述べる。


「気を悪くしたならすまない。しかし、それが理由で君の命に危険が迫っているのは確かだ。勝手ながら私達が保護という形を取らせて頂く。よろしいかな」


「私は……」


 凪は気分が悪くなったのか、両腕で自身の身体を抱きしめながらその場に膝を付いた。


「私は、もうあのしがらみから抜け出したと思ってたんです……あの日からを背負う事にはなりましたが、それでもそれなりに幸せに暮らせていました。なのに……」


 何かに怯えるような表情をしている凪の肩にクロースが手を置き、凪を心配させないような力強い言葉を紡ぐ。


「その呪いは我々が何とかする。だから心配する必要はない」


「無理ですよ……」


 そんなクロースの言葉を、凪はあっさりと否定した。

 凪は何かに怯えた様に身体を縮こまらせながら、震えた言葉を紡ぐ。


「私達は所詮あの人の子供なんだって思わされる度に……私は……」


「なあ、その何だ。アンタの親って何者なんだ?」


「オイ無礼者」


 縮こまり、埒が開かない凪に対して、バケットハットを頭の上でトントンと弾きながら遊ばせていたヴェルが質問をした。

 すぐに隣に合流していたマキアがヴェルの頭を叩いて、無神経な質問を謝らせようとしたが、ヴェルの背後に居たハルディアも同じ疑問を口にした事により、ヴェルが謝罪を述べることは無かった。


「俺も少し気になるな。魔術師狩りのNo.3が出る程の魔術因子。父親の事は少しだけ聞いたが、母親の事が気になるな」


「ハルディアまで!」


 マキアがすぐにハルディアを怒鳴りつけるが、ハルディアは真面目な表情で凪に近付きながら言葉を続ける。


「それに、俺達はまだこの子が本当に不死なのかも知らない。過去の話を聞けば今の敵の情報も探れるかも知れない。話せるか?」


「……」


 ハルディアの提案を、凪は顔を俯かせながら聞いていた。

 何かに迷う様な表情をしている凪に、再びクロースが横から言葉を語りかけ、その心を安堵させる。


「無理なら話す必要はない……しかし、話してくれるならば、ありがたい事この上ない」


「……助けてくれたのは感謝しています……そして、これからもあの人達が追ってくる限り貴方方は私を守りますよね?」


「あぁ、それが任務だからな」


「……わかりました。私の身勝手な事情で皆さんの命の危険を晒しているならば、少しでも為になる情報を話します」


 凪は、経緯こそわからないが、自分の身を守ってくれるという『巡礼者ピルグリム』のメンバーに過去の話をする事にした。

 不安な要素や、夕はどう思うのだろうと疑問が生じてしまう部分はあったが、一度命を助けてもらった以上恩返しはする必要があるだろう。

 そうして、凪はゆっくりと過去の話を始める。


「私の父と母が何処で出会ったのか、それは────」


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