20話 滅壊剣


 数分前。横浜商店街にて────


「俺は別に四対一でも構わないぜ?」


「ほう、余程驕っていると見受けられる。ここにいるメンバーは全員一流の魔術師だが」


 後頭部に拳銃を突きつけられていると言うのに、男はクツクツと相手を煽るような笑みを絶やさずに言葉を返す。


「俺は自分を一流だと語った奴で強い奴を見た事が無いんだが」


「なら今日は記念日だな。初めてお目にかかる事が出来るぞ」


 クロースは男の煽りに乗る事は無く、淡々と言葉を返す。

 そんな希薄な返答を繰り返すクロースに対し男は、肩を竦めながら最後の言葉を投げる。


「じゃ、やるか」


 言葉を言い終えると同時に、男は勢いよく振り返り、同時に右手に殺意を込めてクロースの顔面へと、その殺意の塊を喰らわせようとする。

 しかしクロースは冷静に男の動きを見定め、片腕で腕を弾くという、最小の動作のみで男の攻撃を回避した。

 決して表情は変えず、いとも簡単に────


 そんなクロースに対して、男は一旦距離を取ると地面に手を付けて歪んだ笑みを見せる。


「さあ、ここからだぜ」


 男が手を置いた場所からは、何故か熱気のような物が放たれており、『巡礼者ピルグリム』のメンバーは一瞬で魔術的な物だと察しが付いた。


「来い、獄ッ────あ!?」


 男が地面に何かをしようとしたタイミングで、その動きがピタリと止まった。

 男の身体は上手く動かす事が出来ず、魔術の使用も制限されていたのだ。


「俺の近くにいる限り、好きな事はさせないっすよ」


 声の主────ヴェルはバケットハットから得意げな顔を見せると、男は厄介極まりないと言った顔をした。


「拘束系か。陰湿な魔術協会にお似合いの力だな」


 ヴェルは自身の魔力を最大まで高めて男を抑えていた。

 地面には段々とひびが入って行き、男を抑えている重力の圧が計り知れる。

 しかし────


 男は敢えて地面を壊した。

 先程から地面に置いていた手に、自身の魔力を流し込む事で地盤を破壊したのだった。

 男が立っている場所だけで無く、商店街の道を切り裂く様に破壊は進み、一般人もその崩壊に巻き込まれていた。


「いかん!」


 クロースは一般人にも被害が及んだ事を確認すると、すぐさまマキアの方を見た。


「わかってるって!」


 マキアの魔術は水。

 自然界に存在する水ならば、思いのままに操れるという物だった。

 今回はマキア自身が携帯していた、小さな容器に入った水を増幅させ、罅の中へ落ちて行く一般人達の足場へその水を展開し、落下による怪我を防いで見せた。


「一般人に気を使ってる場合か?」


「────!?」


 気付けば男の拘束は解かれており、一瞬でマキアの目の前まで男が迫っていた。

 男は足を大きく横に張り上げ、マキアの顔面へ目掛けて蹴りを捩じ込もうとするが────咄嗟に現れた金髪のロングヘアが特徴的なハルディアがその蹴りを止めて見せた。

 男は再び距離を取ると、楽しげな表情を携えたまま指をポキポキとわざとらしく鳴らす。


「一瞬でそこまでの身体強化か。一筋縄じゃないってのはほんとだな」


 男は再度地面に手を下ろし、先程の続きを行う。


「まあ、俺の知る一流には届かないけどな」



「来い、獄炎の滅壊剣ヴォルサス

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る