18話 銀世界
「銀世界」
夕が刀を振り上げたタイミングで、辺りの魔力が大きく揺らいだ。
明らかに素人が放っていい魔術量を超している────そう悟ったフレイルは、強者と戦う時と同じ緊張感を保ちつつ、夕に目を向ける。
しかしその視界は────突如として広がった雪によって、霞む事となった。
「成る程。目眩しか」
フレイルの周りには、夕の手によって作られた雪が視界を覆う程の物量で舞い始め、そう時間は掛からずに夕の姿を見付けることは困難とさせてしまった。
「あんまり目立ちたくは無いんだがな」
「安心しなよ。この公園内には簡易的な結界を貼ってある。一般人からは見えはしないよ」
────成る程。通りで椿の声に野次馬が集まらなかった訳か。
先程から続いていた不可解な現象をようやく理解できた夕は、逆に清々しい思いで刀を握り直した。
「なら、思う存分やれるな」
────来る……!
夕の殺気を雪景色の中から感じ取ったフレイルは、ナイフを構え直して何処から襲ってくるかわからない夕の斬撃に備える。
夕が出現させた雪には、一つの粒ごとにしっかりと魔力が込められており、今この場で夕を感知するのは不可能と言える。
やはり才能は本物だとフレイルは改めて実感すると、先程まで見せていた、無表情の中に隠れる余裕の心情も消していた。
そうして、二人が刀とナイフを交える瞬間が訪れる────
夕は雪景色の中に自身の魔力を混ぜているため、その空間に居る者の場所は全て把握できる様になっていた。
雪が蔓延していない、且つ人形の物はすぐにフレイルだと判断が出来る。
椿は雪で作り出された領域の外側に置いている為、間違う事は無い。
そうしてフレイルの位置を察知した夕は、背後から忍び寄り、腰を若干低くして刀を振るう。
何も見えない空間で、夕の刀がフレイルに殺気を孕んで近付く。
しかし────フレイルはこれまでの経験によって育まれた瞬発力を発揮し、すんでのところで刀をナイフで受け止めた。
「残念だったね」
さらにフレイルは、自身の側から離れないように、左手で夕の右手を掴むと、自身の左手に魔力を充満させて行く。
「手が壊れれば刀も振るえないでしょ」
いとも簡単に。夕の手から血が噴き出し、明らかに夕の手は使い物にならなくなってしまった。
雪の中からは夕の「クッ────」っという痛みを堪える声が聞こえ、そんな夕に対してフレイルはさらに追い打ちをかける。
空いていた右手でナイフを持ち直すと、そのナイフを夕の腹部に突き刺そうとする。が────
夕は敢えて自身の身体をフレイルに寄せ、勢いよく頭突きをかまして見せた。
フレイルは咄嗟の反撃に思わず夕を離してしまい、そこから生まれたほんの一瞬の隙で夕は雪の中に消えてしまった。
「まあいいや。本当に不死者なら厄介だけど、頭の傷が治らなかった辺り、少し怪しいし」
フレイルは自身の頭を押さえながら、相変わらずの無表情を携えながら独り言を呟いた。
「じゃあ残念だったな」
────!?
自身の再び背後。そこから夕の声が確かに聞こえた。
フレイルは咄嗟に夕の左手を警戒しながら振り返るが、そこには────潰した筈の右手に刀を持った夕が居た。
「俺は不死者だよ。認めたくねえけどな」
そうして夕は刀を振り抜き────フレイルの胴体を切り裂いた。
× ×
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます