13話 弱い


 魔術協会。本部最上階から下に降りる階段にて────


「何故学生の身分のお前がこの階に近付いている?自分の今の弱さを余程理解していないと見受けられるが」


 通路に響いた声は重く、そして何処と無く圧を感じる喋り方だった。

 声の主────グリア・フェルエンノーズは上層部しか歩く事の出来ない最上階から階段を降りつつ、言葉を続けて行く。


「それとも、またあの日本人に前を行かれた事を報告し私の機嫌を損なおうとしているのか?」


 グリアが言葉を投げているのは階段の下に続く廊下の隅で、頭を下げている自身の息子────アルドに対してだった。

 罵倒に近い言葉を実の父から浴びたアルドは、特に反抗する素振りも見せずに頭を下げたまま言葉を返す。


「……いえ、そう言う訳ではありません。この度は父上にお願いがあって参りました」


 そこでようやく頭を上げたアルドの目線の先には、現魔術協会護衛隊の隊長であり、戦闘面においては『最強』とすら称されている父の姿が写った。

 特徴的な長い赤髪と赤い目は常に敵を威嚇しているかのように錯覚させ、目の前に居る人間に対し、無条件に冷や汗を掻かせる。また、グリアは常に何かを睨んでいるかのような目つきをしており、尚更目の前の相手は言葉が詰まってしまうというのは協会で良くある話だった。

 故に同じ騎士団でもグリアに話し掛ける人物は限られると、協会で噂話が立っている。

 そんな父に対し、アルドは再び頭を下げながらある願いを口にした。


「私は……いや、俺はあの日本人に超えたいと思っています。その為に……父上の剣技を直接ご教示くださらないでしょうか」


 アルドの願いは雪菜を超える為に、『最強』と謳われている父の剣技を習得する事だった。

 確かにそんな人物の技術を習得できるのは、限りなく幸運と言えるだろう。

 アルドの騎士団の団長に就くという願いにもかなり近付くだろう。

 しかし────


「お前は何処まで私を失望させる。エゴイズムの無い人間に教える事など何も無い。失せろ」


 グリアは冷たい言葉をアルドに浴びせると、そのままアルドの横を通り過ぎて通路の奥へと消えて行ってしまった。

 グリアの身体が完全に見えなくなるまでアルドは頭を下げ続けていたが、やがて足音が完全に消えるとその頭を上げ、天井に目を向けながら小声で言葉を漏らした。


「弱いな……俺は」


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