6話 なんかそれって
午後16時。
「すまん。付き合うとかは……そもそも殆ど話した事も無いだろ?」
「嫌っ──でも!」
夕陽が窓から溢れるとある教室。
生徒の殆どは帰宅、もしくは部活の為普段使用している教室には居ない。
他のクラスからは居残りしている生徒達の笑い声が聞こえるが、今この空間には二人しか居なかった。
女子生徒は凪の同級生の妹であり、午前中に高校で少し話題なっていた人物だ。
宣言通り、彼女は勇気を振り絞り夕に告白をしたのだが────結果は凪の予想通りとなってしまった。
夕は今にも泣きそうな女子生徒を前に、どうしたものかと髪を雑に触りながら思考を巡らせる。
────こう言う時どう声を掛けていいかわからないんだよなぁ……
────苦手だ……ほんと。
「取り敢えず、ごめん。付き合うとかはやっぱ無理だ」
夕の口から放たれた完全な断り文句を聞いた女子生徒は顔を伏せ、教室の外へと走り出してしまった。
すると教室のドア付近から数名の女子生徒の「待って!」という声が聞こえた。
恐らく外で様子を伺っていた、告白して来た女子生徒の友人だろう。
夕は疲れ切った顔で大きな溜息を吐くと、一先ずその場に腰を下ろした。
「お疲れだね」
「何だよ、居たのかよ」
疲れ切った夕の顔を見て、微かに笑う
夕はそんな椿に対して、これまた面倒臭そうな顔を貼り付けて言葉を返した。
「いつもなら速攻帰る夕が残るから何事かと思えばなるほどね。さっきの女の子、泣いてたって事は告白でもされた?」
「告白=泣かせるって繋がり方おかしく無いか?」
「おかしく無いよ?夕に関してはね」
椿は教室のドアを閉めると、夕の近くの席まで行き、腰を掛ける。
「告白はハッピーエンドとバッドエンドの二択であるべきなのに、夕の選択肢にはバッドエンドしかないからね」
「……仕方ないだろ。付き合うとか……俺には無理だ」
「
「うるせえよ!」
椿の煽り文句に対し、思わず夕はノリツッコミのような対応をしてしまう。
そんな夕の返しに小さく笑った椿は、机に肘を置き、頬に手を当てて質問をした。
「夕にとって特別な人っていないの?」
椿の質問に対し、夕は少しばかり言葉を困らせる。
特別な人────パッと思いつくのはやはり姉だろうか。
目の前の椿も親しい友人ではある。しかしそれを特別と言っていいのかはわからない。
とは言え、夕の人脈は極めて狭い。
夕には
となれば椿は唯一の関係がある人間として、特別な人と言っても過言では無いのではないか。
「少し考えたが……姉ちゃんとお前ぐらいだな」
夕の答えに椿は少し驚いたのか、目を見開き僅かに頬を赤く染めた。
「……待って。取り敢えず私と凪さん以外の人がその特別な人だとしよう。そしたら夕は付き合いたいと思う?」
「思わないな」
夕の予想以上に早い回答に、思わず椿は顔をむすっとさせた。
そんな表情の変化にも気付かずに、夕は持論を展開して行く。
「俺はやっぱり付き合うとかはいいんだよな。友人の関係で充分っていうか。やっぱり付き合うメリットがわかんないな」
「……将来子供作りたいとか願望ないの?」
椿の質問に対し、夕は顔を背け、少し困った顔をしながら言葉を返した。
「無いな……うん。無いよ」
急に顔を背けた夕の事をやや不思議はそうに椿は見つめたが、ただ恥ずかしがっているのかと思い、特に気にする事はなかった。
そんな椿は席から立ち上がり、窓際に向かうと、窓ガラス越しの夕陽を浴びながら言葉を紡ぎ出した。
「なんかそれってさ、悲しいよね」
「悲しいか……どうだろうな」
「ううん、悲しいよ」
椿は窓際に手を乗せ、オレンジ色に染まる横浜の街並みを見つめながら悲しげに呟いた。
普段と比べ妙にしんみりとした空気を纏う椿に対して、夕は違和感を感じながらも、それを口に出す事はしなかった。
「それに、特別な人が友達止まりなんて……ね?」
椿が微かに呟いた小さな一言。
夕はその小さな声色で囁かれてた一言に気付くのが些か遅かった。
「ん?今なんて言った?最後らへんしか聞こえなかったんだが……」
「さあなんでしょうね!!!帰ろ!」
「おい待てよ!」
椿は頬を赤く染めている。しかしその色は夕陽のオレンジ色によって上手く隠されていた。
結果、夕は椿の心情がわからず、椿を追いかけるように教室を後にした。
二人はオレンジ色に染められながら、他愛もない会話を繰り広げ各々の家に足を向かわせる。
今日もまた、日が暮れる。
× ×
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