5話 『巡礼者』


 午前11時30分。羽田空港にて。


「日本は蒸し暑いなぁ……」


母国イギリスが恋しくなりますね……もう何年帰ってないんでしょう?」


「俺達は『巡礼者ピルグリム』だぞ。帰れる日の方が少なくて突然だろう」


「私そろそろこの仕事引退しようかしら……」


 日本に照り続ける日光を浴びながら、タクシーを探している四人の外国人グループ。

 三人は男で、一人は女である。

 最初に呟いた男は黒いスーツにバケットハットを被っており、隙間からは所々癖毛によって跳ねている金髪が見えている。

 顔をまだ童顔に部類される顔であり、グループの中では最年少の様に見えた。


 同じく二言目を呟いた男もまた年齢は若く見え、グループの中では地位は高くない様に見える。

 しかしそこまで童顔という訳ではなく、最低年齢は成人辺りだろうか。

 また、彼も癖毛が目立つ男であり、一人目に比べるとかなりロングに部類される金髪ヘアだった。

 本人はグティヘアという昔のサッカー選手を意識した髪型をしており、見る人が見ればあの人はサッカーが好きなんだな、とわかる髪型をしていた。


 そんな二人とは反対に三人目は黒い髪を短く刈り上げ、清潔感と清楚感を醸し出している。

 実際グループの中では一番スーツをキッチリと着ており、まっすぐに伸びた背筋からは生真面目という印象を受ける。

 態度や立ち振る舞いを見る限り、彼がリーダーと言った所だろう。


 最後の四人目は唯一の女性であり、他の三人とは全く異なった水色のワンピースを着ていた。

 スーツ姿の三人に囲まれる中でのワンピース姿は、周りから見ればかなり浮いているが、本人は全く他人の目を気にしている節が無かった。

 青いワンピースには金髪のロングヘアーが驚く程に似合っており、彼女の若々しさと顔、そして身体の整い具合からはモデルなのでは?という印象すら受ける。

 そんな彼女は日本の蒸し暑さに心底やられている様で、太陽を睨みつけながら忌々しげに言葉を紡ぐ。


「まぁ、である私達が簡単にこの仕事を辞める事なんて出来ないんだけどねぇ」


「マキア〜そう暗い事言うなよ〜俺まで暗い気持ちになっちまうじゃんかよ〜」


 マキアと呼ばれている女性の意見に対し、気怠げに相槌を打つバケットハットを被った男────ヴェルが更に言葉を続ける。


「ただでさえ今回の任務は意味わからんのに、そんなこと言ったらますますこの仕事辞めたくなるじゃ〜ん」


「お前のその怠そうな態度も俺達に伝播するからやめろヴェル」


「え〜でもよ〜ハルディア?は明らかに異例だろ〜?初めてこの任務の内容を聞いた時はの大魔術師フロッグ・アーキネストも遂にボケたかと思ったよ」


 ヴェルの言葉にチームのリーダー、クロースが僅かに眉をピクリと動かし、ヴェルの言動を叱った。


「我々の恩師であるフロッグ元帥に何を言うか。彼の言う事には必ず意味がある。それを知らないお前じゃないだろう」


 クロースのやや強い声色で放たれた言葉に対しヴェルは、気まずそうに目を背けて辺りの風景を適当に眺め始めた。



 『巡礼者ピルグリム』。

 魔術教会に属する秘密組織の一つである。

 魔術教会の中でも最も地位の高い元帥に位置するフロッグと呼ばれている男が作成した組織であり、メンバーは基本的に彼に恩を感じているメンバーで構成されている。

 各地で起こるあらゆる魔術災害、犯罪を取り締まる為に世界を飛び回る彼らは、基本的に教会に居る事の方が少ない。

 日本ではブラック企業と言われても仕方ない業務内容なのだが、結果的には業務内容が世界平和に繋がっている為、フロッグに対して直接文句を言う輩や、辞めたいという人間は存在しない。

 チームは全部で12チーム存在し、クロースが率いるのはその一つだ。

 そんなに彼等に与えられた仕事は不死者の子孫の保護、及び守護。

 不死者というこの世の断りを否定した化物の保護など、全く予想が出来ないが、フロッグに指令された以上、仕事は熟すのみである。


 そうして彼等が降り立ったのは横浜。

 フロッグの情報によると、対象の人物はそこにいるという。

 初めての日本で蒸し暑さにもやられ、先が思いやられる事ばかりだが、彼等は一先ずフロッグに指示された目的地────横浜橋通商店街へと向かう。

 どこでフロッグが情報を仕入れたのかは不明だが────その商店街にはなぎが働いている店が存在した。


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