3話 八代木 凪
「ねぇ、ねぇ
「……それ、本当?」
横浜のとある公立高校にて、女子学生二人が他愛もない会話をしていた。
教室内に蔓延する夏休み前のなんとも言えない気怠げな雰囲気は、夏の蒸し暑さを何となく体現しており、クラスにいる生徒達は皆ぐったりとした様子である。
そんな中で二人は所謂恋バナに花を咲かせようとしていた。
「本当!本当!今日だって朝から張り切っちゃって」
「……それはダメな気がするなぁ」
自身の
女学生の名は八代木 凪。夕の姉に当たる人物であった。
夕と瓜二つと言える美しい銀髪と整った顔、そして体型はまさに女学生達の理想とも言える容姿を体現している。
勿論その容姿から、男子学生の目にもよく止まる。その為、凪は色んな生徒から告白をされて来たが、未だに一度も付き合った事は無かった。
理由は色々とあるのだが、一番の理由は経済的な問題だろう。
訳あって凪と夕の家は所謂、貧乏と言われる部類に属しており、異性と遊ぶ為のお金など無いのである。
一度それを理由に告白を断った事があるが、男子学生が「それでも一緒に居てくれるだけで!」と思いを告げて来た事があって以降、凪は告白の断り文句にお金が無いとは言わなくなった。
まず大前提として、凪は異性に今の所興味が無いと言って良いのかもしれない。
女子高生らしく無いと言えば確かに無いのだが、色恋沙汰に時間を割く暇があるなら少しでもバイトの時間を増やして生活費を……と言った生活を送っている為、異性に興味を抱く『暇がない』と言った方が良いのかもしれない。
そんな姉の凪だが、受け継がれた容姿によって夕もかなりモテる。
夕は凪の通っている学校からすぐ近くに存在する中学校の三年生なのだが、夕の顔面偏差値の高さは高校にまで伝わっている。
高校見学で夕が凪の学校に訪れた時は夕の顔を一眼見ようと女学生達が密集した程である。
とは言え、夕もまた色恋沙汰にはかなり疎かった。
凪は好意を向けられている事は理解した上で断っている。しかし夕はそもそも好意を向けられた事に対して疑問が生じてしまうタイプだったのだ。
付き合ってくれと頼まれても「アンタと俺で付き合う必要性があるのか……?」と実に他の男子学生から嫌われる断り方をしている。
そんな夕に凪の友人の妹が告白をしようと言うのだ。
結果はほぼ目に見えていると言っていいだろう。
「妹ちゃんの慰めは任せたよ……」
「ま〜やっぱり夕君は無理だよねえ。あの子が特定の女の子に
「私は夕に彼女を作りなさいってアドバイスしてるんだけど、夕はいつも軽くあしらって聞く耳を持たないからなあ」
「思春期だなそりゃ。まあ、うちの三つ下の生意気な弟に比べたら暴言も吐かなくて可愛いもんだよ」
一先ず会話が終わった所で、凪は教室の窓から外を眺めて心中で言葉を紡ぐ。
────ていうか、そもそも今日はちゃんと学校行ってるのかなぁ……
× ×
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます