第6話

短大を卒業して4年後の24歳、仲の良い

友達が結婚した。

真剣に結婚を考えた事のない私は驚いた。

こんな若くて、もう所帯を持つのか‥と。

まだまだ遊びたりない私からすると

考えられない大事件だった。

中野の結婚式場で、私は受付と二次会の幹事を

やる事になった。

受付は淡々とした仕事なので良かったが、

幹事の仕事は、事前準備から当日まで大変な

労力を使った。

会も終盤に差し掛かった頃、新郎の友達から

小さな紙を渡された。

名前と電話番号が書いてあり、連絡待ってます。

との事。

う〜ん、君じゃなくて、隣の彼が良かった。

なんて思ってしまった。

特にリアクションもせず、ポケットにしまった。

お開きになり後片付けをしていると、

手紙をくれた人の隣にいた彼が遠くから手招きをしている。

ん? 私にかな?

と、キョロキョロ周りを見たが私しかいない。

「どうしたの? 忘れ物?」

「そう、これ渡せてなかったから」

と、コースターをよこした。

何だろうと思いながらも、多少の期待感が‥

見ると、名前と電話番号、それと、

フリーだったら付き合って。

いや、フリーじゃなくても付き合って。

の文字が書いてあった。

何と積極的な。

和製ジェームスディーンのような顔立ちと

スラッと高い身長。

そして強引ともいえる文章。

最初から気になってたせいもあるけど、

一発KO負けな感じだった。

彼Kは、商社に勤めていた。

見栄えもいいし、商社マン。

周りの女子が放っておかないだろうに。

とにかく彼もフリーとの事だったので付き合う事になった。

横浜にドライブ、八景島の水族館、日光、

いろいろな場所に遊びに行った。

楽しかったが、一つだけ気になる事が。

セドリックに乗っていたのだが、非常に運転が

下手なのだ。

私は18歳から毎日のようにハンドルを握っていたせいか、女子のなかでは上手い方。

いろいろな場面でイラッとしていた。

顔に出さないように、口に出さないように

かなりの我慢をしていたが、たぶん腕組みをし眉間にシワを寄せていたはず。

現地に着いて停車するとホッとしていた。

積極的なのは性格だけで、運転はおじいちゃんみたいだった。

神様は何処かでマイナス要素を入れるんだな、

と思ったりした。

何ヶ月か経ったある日、将来の話しになり

結婚を視野に入れて聞いて欲しいと言われた。

立川にある実家が青果店を営んでおり

会社が休みの日は手伝う事もあるそう。

出来たら私にも手伝ってほしいとか。

おまけに、もしかしたら会社を辞めて家業を

継ぐかもしれないと。

青果店が悪いわけではないが、商社を辞めて

八百屋さん? 

無理〜!

私の正直な心が拒否反応を起こした。

その話しを聞いた後は遊びに行っても

「らっしゃい。らっしゃい。大根安いよ〜」

聞こえない声が聞こえて‥‥

早起きの大嫌いな私は、別れを告げた。



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