第4話

短大を卒業し、スイミングスクールの

インストラクターになった。

午後からレッスンがあるのに、午前中は

自分達の技術向上の為に泳ぎっぱなし。

まさかこんなに過酷な会社だとは思わなかった。

正直なところ、選手でもないのに何でこんなに泳がされるの? と疑問を持っていた。

もともと泳ぐのはそんなに好きではない。

ここに就職したのも、他社に落ちたから。

ただでさえ昼にはヘロヘロに疲れているのに、

午後から、幼児教室から大人の教室まで指導。

毎日グッタリしまう。

休憩時間にデスクに戻り引き出しを開けると

最近、四つ折りにされたプチ手紙が入っている事がある。

開いてみるが、毎回差出人は書いてない。

いつも明るい笑顔だね、今日も頑張ってね、

遅番お疲れ様、などと書いてある。

社員とバイトを合わせると何十人もいるので

相手を探しようがない。

私に好意を持ってくれているのは感じるので

悪い気はせず、密かに楽しんでいた。

でもある時から文面に変化が。

ファンが近くにいる事をわかって欲しい。

ファン?  アイドルみたいだ。

そんな、一歩ずつ近付いて来る内容が続いていたが、ついに我慢出来なくなったのか名前が書いてあった。

バイトのHだった。

そんなそぶりは全く見せていなかったので驚いた。

そして、面と向かって付き合って欲しいと告白された。

しばらくは友達として食事に行ったりしたが、性格の良さに惹かれていった。

その時の私は、彼氏と別れたばかりの

フリーだったので1ヶ月後にOKをした。

軽くOKをしたつもりだったが、 Hは

結婚を前提にと言って来た。

付き合い始めて2ヶ月後に。

またまた軽く考えてる私は「いいよ〜」と。

すると次の日、通帳を作って来て

「2人で結婚資金を貯めよう」

Hは明治大学の大学院生だったし、車の免許も

持っていなかった。

「学生じゃまだまだ結婚なんて無理だよ」

「車の免許もないんじゃつまんない」

と私が言い放った数日後、Hは教習所に通い始めていた。

そこまでは良かったのだが、自分の人生なのに

私が言った一言で大学を辞めてしまった。

愕然とした。

アパートには、国家公務員の問題集が置いてあった。

何故、卒業して就職するまで待ってて欲しいとか言えないんだろうか。

実際、待つ気はなかったのだが‥

女一人を手放したくないからと、全て言いなりになるような男はお断りだ。

ちょうどその時、元彼から復縁を迫られていて、気持ちが揺れ動いてる時だった。

オレオレの元彼と比べてしまい、真逆のHに

情けなさを感じてしまった。

12月24日、クリスマスイブの夜に別れを言った。

その後Hはスイミングのバイトを辞め、消息不明に。

さすがに心配になったが、2ヶ月後に手紙が

届いた。

良かった。生きてた。

気持ちを整理する為に、東北を一人で旅していたらしい。

手紙の最後に、君の幸せを心から祈ってる。

と書いてあり胸が痛くなった。

が、しかし‥‥

引っ越しました。新住所は○○○・・・

うちの近所じゃん! コワ! 






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