第4章 奪われたものたちを取り戻せ
第40話 退院とラブレター
- 40 退院とラブレター -
「お見舞いに来ているのに、ずっとスマホをいじっているのって、どうなのかしら。私は悲しいわ」
「今日退院だろ。あんなに全身粉々だったのに、2週間で治るとは…。転生者ってのはホントに規格外だな」
「怪我の治るスピードについては、貴方の方が転生者より早いわよ」
「はは、違いない」
俺が復讐者たちに攫われてから2週間ほどが経過していた。
この間、大人しく入院していたレイアはなんと全身骨折を2週間で治してしまった。
今日は退院の日ということで、俺はレイアを迎えに来たのだ。
「ところで、何を見ていたの?インターネットが繋がるわけではないのでしょう?」
レイアが病院のベッドに腰掛けたまま、端末をのぞき込もうとする。
別に隠す必要もないので、画面を向けて見せた。
「なにこれ、匿名掲示板?貴方も好きね」
「匿名掲示板ではあるが、調査団の掲示板だ。雑談から異世界の情報など色々なことが載っていて、とても参考になる」
「この世界に来て、アウトドア派になったかと思えば、全然変わっていないじゃない。元の世界でも好きだったわよね」
「まあ、雰囲気は似てるけどな。で、見てくれよコレ。前線組の実況スレなんだけど」
そこには、調査の進捗が書き込まれている。
2週間前に見たときは、遺跡の調査が始まるというところだったが、あれから2週間にわたって、進入方法が分からずに調査が停滞していたようだった。
「ふーん。やっぱり、人間だけだと調査も大変ね」
レイアはあまり興味がないみたいだ。
「俺たちもそろそろ次の調査に行かないとな。平伏の黄原の調査から、なんだかんだ1ヶ月くらい経っただろ」
「そうね。まあ、働いてはいたじゃない。聞いたわよ。5人の復讐者たちを無力化して捕まえたんですって?」
「4人な。1人はヒナミが殺した」
「ふーん。仲良くやってたのね。ふーん」
「別にそんなんじゃないって!」
「でもその手紙、あの女からでしょう?」
ヒナミが言う手紙とは、ヒナミが平原で別れ際に言った、居場所を示すものだ。
俺からヒナミに会いに行くにあたって、居場所が分からなければ会いに行き様がないということで、送られてきたものだ。というか、ある日目覚めたら、枕元に置いてあった。毎度毎度どうやって寮に侵入しているのだろうか。どのような頻度で侵入しているのか。まさか毎日寝顔を見られているとか?怖い怖い。
というか、ヒナミの話をする度に不機嫌になるレイアも怖い。まあ、何を隠そうレイアをここまで満身創痍にしたのは他でもないヒナミなのだ。それに壮絶な口論の後のアレだ。険悪にならないわけがない。
話が逸れた。
俺はポーチからピンク色の便箋を取り出す。
「今日、レイアが退院したことだし、会いに行くよ。あまり待たせると、何をされるか分からん」
「同行するわ」
「そういうと思ったから待ってたんだよ」
まあ正直俺としても心強い。もしかしたら、二度と離さないとかいって監禁されることも大いにあり得る。
「変身さえできれば負けないのよあんなタコだかイカだか分からないような軟体動物に…」
何やらぶつぶつ言っているが、特に反応しないことにする。
まあ、実はある意味ヒナミには感謝している面もある。
彼女がいなければ、レイアと仲直りすることはできなかっただろう。ずっと気まずいままで、そのうち仲違いしていてもおかしくなかった。口が裂けてもこんなことレイアには言えないが。
「レイアさーん。先生がお呼びでーす。そのまま退院になると思うので、荷物などを持って、診察室までお越しくださーい」
看護師から呼び出しがかかった。
「やっとよ。もう入院はこりごりだわ」
なんて良いながら、レイアはすたすたと歩いて行く。
俺は、部屋の隅に飾られている花を見つける。
「おい、この花は!?」
「いらないわ。置いておきましょ」
置いていっていいのだろうか。一瞬迷ったが、彼女の声はどんどん遠ざかっていく。
結果、俺は本人の意思を尊重して、そのままにしておくことにした。
「てか、誰からの花なんだろ」
一瞬首をかしげ、俺はレイアを追いかけた。
§
無事に退院できたレイアを伴って、俺は街を歩く。
まだ午前中の早い時間だが、会って遊ぶなら早いほうがいいだろ。
「で、どこにいるの、あの女は」
「さあ。どこに住んでいるのかは結局分からないんだよな。毎日広場で待ってますって書いてある」
「…本当に毎日待っているのか怪しいところだけど。どうせ常に監視してるのでしょうし」
レイアがボソリと何かを言った。
「今なんて?」
「別に」
聞き返しても教えてくれなかったが、大事なことであれば繰り返してくれるだろう。気にしないことにする。
そうして広場に着くと、いつもより混雑しているような印象を受けた。
「困ったな。見つけるのも大変そうだ」
もしかしたら今日、ゲートが開くのかもしれない。作業員がとても慌ただしく走り回っている。
「こりゃ広場を待ち合わせ場所にしたのは失敗だったかもな」
「そうね。見つけられなく残念だったわ。努力はしたもの。今日はもう帰りましょうか」
めちゃくちゃ早口で言うレイアに笑う。
そんなに帰りたいなら着いてこなければ良かったのにと少し思ってしまった。
「でも、少し落ち着くまで待った方がよさそうだな」
一度広場から離れようとすると、何かに腕を引っ張られた。
「その必要はありませんよ」
「あ、ヒナミ」
俺の腕を掴んだのはヒナミだったようだ。
「出たわね」
犬であればガルルとうなり声が聞こえそうな勢いでレイアがヒナミを睨む。
そんな視線を受けても、ヒナミはどこ吹く風という感じで、全く気に留めていない。
「お久しぶりです。まさかこんなに待たされるなんて…辛かったです」
うるうるとした上目遣いでこちらを見上げてくる。
身長が俺と同じくらいのレイアと違い、ヒナミは小柄だ。小動物のようなかわいらしさがある。
なんて気持ちをヒナミに対して抱けるようになっている自分に驚く。
あんなに酷い目に遭わされたのに、少し助けられて、身の上話を聞いただけで絆されてしまっている。我ながらチョロい男だと呆れてしまう。
「聞いてますか-?」
「ああ、ごめん。確かに待たせてしまったな」
クイクイと袖を引っ張られて、また一人で考え込んでしまっていたことに気がつく。
どうも俺は何かが起こるとまず考え込んでしまう癖がある。そのせいでこのように…っと、またやってしまっている。
「手を、離しなさい!」
レイアが俺の腕を掴んでいるヒナミの手に向けてチョップを繰り出す。ヒナミは、それを無視して俺の袖を掴んだままだった。チョップされた部分が折れ曲がって、第2の肘みたいになっているが、きっと気のせいだろう。
「それで、今日はどこに連れて行ってくれるんですか?デートですよね?」
なんか余計なのがいますけど。と後ろに付け足したのを聞いたレイアの背中に2本の腕が浮かぶ。
「レイア、一応今回は俺を助けてくれたヒナミへのお礼なんだ。警戒するのは良いけど、あんまり妨害するようなことはやめてくれ」
「どうなっても知らないわよ」
レイアは拗ねたようにヒナミとは逆側の俺の側面に張り付く。
うむ、両手に華というやつだろうか。通りすがりの調査団員がレイアを見て目を丸くしている。初期の頃からいる団員からすると、レイアは英雄で、尊敬しつつ畏怖の対象らしい。そんなレイアが懐くとは…みたいな感じで俺も恐れられているらしい。仲良くなった団員の鈴木と千田がそう言っていた。
さて、話を戻そう。
「今日は、ヒナミの服を見て、ご飯を食べて、というとこまでは考えていたけど、それ以外は考えていなかったな。どこか行きたいところあったか?」
「いいえ、一緒にいれるだけでいいんです」
結局、ヒナミに訊くとこういう返事しか帰ってこない。
「紳弥、私とそんな出かけたことなんてなかったのに」
「痛い痛い右腕取れる!!」
レイアは俺の痛覚が鋭敏化しているのを絶対に忘れている。
「じゃあ、まだお昼には時間があるし、まずは服を見に行くか」
「はあい」
いつまでも学生服なのは倫理上よろしくない気がする。この間判明したとおり、実は同い年なのだから。
広場を後にしようとしたところで、ホイッスルの甲高い音が広場に鳴り響く。
「いまからゲートが開きます、離れてくださーい!」
団員の叫び声が聞こえる。
やはり物資が届くようだ。
「折角だし、ちょっと見ていっていい?」
「良いですよ」
俺はヒナミにことわって、広場の端の方で待機することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます